子供の内臓脂肪面積の測定方法を開発 小児期からの肥満予防に活用 コロナ禍で肥満傾向の子供は増加
子供の内臓脂肪面積を測定する安全性が高い簡便な方法を開発
子供の肥満やメタボリックシンドロームは、2型糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸、脂肪肝など、さまざまな健康障害を引き起こし、成人になってから生活習慣病のリスクに直結する。
とくにコロナ禍の影響を受け、各地で肥満傾向の子供の割合が増加していることが、学校保健統計調査で報告されている。
これらの健康障害を引き起こす源流に、過剰な内臓脂肪蓄積がある。標準的な内臓脂肪の測定方法は、腹部のCT検査だが、腹部CTは正確に内臓脂肪を測定できる利点があるものの、放射線被曝の問題がある。
研究グループはこうした背景のもと、「被曝や痛みがなく短時間で内臓脂肪面積を測定する方法」を開発する研究を行った。
成人では腹部生体インピーダンス法を用いた内臓脂肪計(EW-FA90、パナソニック)などがすでに臨床応用されている。腹部にごく微弱な電流を流し、体内の脂肪の電気が通りにくい性質により生ずる電気抵抗(生体インピーダンス)を計測し、内臓脂肪面積を測定するというもの。
これは安全性が高い方法だが、体内の水分量が成人と子供では異なるため、これまで子供に適用できなかった。
そこで日本大学の研究グループは、花王と共同研究を行い、Passing-Bablok法を用い、補正式y=9.600+0.3825x(男児)、およびy=7.607+0.3661x(女児)を適用することで、内臓脂肪計(EW-FA90)で子供の内臓脂肪面積を正確に測定できることを明らかにした。
「今後、本測定法を用いて、小児期からの生活習慣病の適切な予防につなげていくことが期待されます。これは持続可能な開発目標(SDGs)の1つの"すべての人に健康と福祉を"に大きく貢献するものです」と、研究グループでは述べている。
研究は、日本大学医学部小児科学系小児科学分野の阿部百合子准教授(現医学教育センター)、森岡一朗主任教授、花王(ヘルス&ウェルネス研究所)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Medicine」にオンライン掲載された。
子供の内臓脂肪を、放射線被曝なく、短時間で測定できる方法を開発
2002年の小児肥満症の診断基準では、腹部CTでの内臓脂肪面積が基準として設定されている。しかし、CTには放射線被曝の問題があり、とくに子供では頻回には行えない。
そのため、内臓脂肪評価の簡易指標としてウエスト周囲径が用いられているが、メタボリックシンドロームの子供の多くは、内臓脂肪面積と皮下脂肪面積がともに大きいため、ウエスト周囲長だけでは内臓脂肪のみを反映できない。このため、放射線被曝なしに内臓脂肪面積を測定できる簡便な方法が求められている。
しかし、腹部生体インピーダンス法は、子供では体内の水分量が成人と異なるため、正確に測定できない。そこで研究グループは、子供でどのようにすれば、腹部生体インピーダンス法を用いた内臓脂肪計で正確に測定ができるかを検証した。
まず、医学的に腹部CTが必要だった6~17歳の児の内臓脂肪面積を対象に検討した。腹部生体インピーダンス法を用いた内臓脂肪計によって測定した内臓脂肪面積の値は、同一児の腹部CTによって測定した内臓脂肪面積よりも大きい値となった。
そこで、内臓脂肪計によって測定された内臓脂肪面積について、データ点間の傾きに着目した回帰モデルであるPassing-Bablok法を用い、補正式(男児はy=9.600+0.3825x、女児はy=7.607+0.3661x)を作成した。
これらを適用した結果、腹部生体インピーダンス法の内臓脂肪面積と腹部CTによる内臓脂肪面積は良い相関関係が得られることが明らかになった。また、補正式適用後、非アルコール性脂肪性肝疾患の児は、なしの児と比較して、内臓脂肪計で測定した内臓脂肪面積が上昇していることが分かった(p<0.001)。
さらに、補正式適用後、肥満関連の心血管疾患と正の関係のある血中レプチン濃度は、内臓脂肪計で測定した内臓脂肪面積と有意な正の相関を示し(p<0.001、ρ=0.719)、肥満患者や肥満関連糖尿病・心血管疾患患者で減少する血中アディポネクチン濃度は、内臓脂肪計で測定した補正式適用後の内臓脂肪面積と有意な負の相関があることを確認した(p=0.008、ρ=-0.423)。
内臓脂肪計による測定は診察室やベッドサイドで行える
「子供では、内臓脂肪計(EW-FA90)を用いて内臓脂肪面積を測定した後、測定値を補正することにより、内臓脂肪蓄積の評価として有用な方法となります。内臓脂肪計による内臓脂肪面積測定は、診察室またはベッドサイドにて行うことができ、内臓脂肪計による測定は、腹部CTに比べて簡便で放射線被曝なく実施することができます」と、研究グループでは述べている。
「今回の研究結果から、子供の内臓脂肪面積測定の際に、内臓脂肪計を用いた測定方法が選択肢のひとつとなりうることが明らかになりました。今後、本測定法を用いて、小児期からの生活習慣病の適切な予防につなげていくことが期待されます」としている。
日本大学医学部小児科学系小児科学分野
Visceral Fat Area Measured by Abdominal Bioelectrical Impedance Analysis in School-Aged Japanese Children (Journal of Clinical Medicine 2022年7月17日)