奥歯の噛み合わせが悪い高齢者は、高血圧リスクが1.7倍に上昇 口の健康が身体機能の維持に関連

2022.04.05
 奥歯の噛み合わせが悪く、食品を噛み砕く能力が低下している高齢者は、高血圧のリスクが1.7倍に上昇することが、兵庫医科大学などの調査で明らかになった。

 研究は、高齢者での高血圧と口腔機能との関連を食習慣から明らかにしたもの。「口の働きを良い状態に保つことが、高血圧に対しての予防的な役割をになっている可能性があります」と、研究者は述べている。

口の健康は身体機能の維持に密接に関連している

 兵庫医科大学、新潟大学、丹波篠山市は共同で、「兵庫県丹波篠山圏域在住高齢者」を対象に、コホート研究を行っている。これまでの研究で、歯数が少なく、咬合支持・咬合力(噛む力)が低下している高齢者は、身体機能が低下し、転倒リスクが高い傾向があることなどが分かっている。

 口は、栄養を取り込むための重要な器官であり、さまざまな疾病の発症に関わっている。加齢や疾患により、口腔や全身状態が変化すると、食品の選択や食習慣も変化すると考えられている。

 一方、高血圧は、非感染性疾患のなかで日本人の主要な死因の1つ。75歳以上の日本人の約70%が高血圧とみられ、高血圧の発症にはさまざまな生活習慣が関係している。

 歯科口腔外科の領域では、歯周病、歯の本数が、高血圧と関連することが報告されており、日本の吹田研究(大阪府吹田市の一般住民を対象としたコホート研究)でも、高齢者の高血圧と口の働きとの間に関連があることが報告されている。

口の健康は高血圧にも関連 奥歯の噛み合わせのない高齢者は高血圧リスクが1.7倍に

 食事摂取内容と高血圧との関係は広く知られているが、口の健康が食事摂取内容と高血圧との関係性にどのような役割を果たすかについてはよく分かっていない。そこで、研究グループは、「血圧・食事摂取内容」と「口の働き」との関連性を調査した。

 医科歯科合同調査研究に自発的に参加し、インフォームドコンセント(説明を受け納得したうえでの同意)を書面で提出した、65歳以上の自立した地域在住の高齢者894人を対象に、2016年4月~2019年12月に調査した。

 その結果、とくに奥歯の噛み合わせのない高齢者では、「高血圧のリスクが1.7倍に上昇する」ことが明らかになった。

 高齢者の血圧変化には、口の健康や働きが関連しており、「食品を噛み砕く能力が高いことは、高血圧に対して予防的な食生活を維持するうえで極めて重要」である可能性が示された。

 研究は、兵庫医科大学総合診療内科学の新村健主任教授、歯科口腔外科学の長谷川陽子氏らが、新潟大学大学院医歯学総合研究科、丹波篠山市と共同で行ったもの。研究成果は、「Nutrients」に掲載された。

歯の喪失を防ぎ、噛む力を健全に保つことは、高血圧の予防にもつながる

 咀嚼は、「食べ物を細かく砕いて飲み込む」という消化プロセスの最初のステップであり、とくに高齢者では健康維持に欠かせない栄養吸収をより可能にするものだ。

 2018年の国民健康栄養調査によると、60歳以上の約25%の人が咀嚼機能の低下を訴え、さまざまな食べ物を噛むことができない状態にある。

 歯を失った人は、好んで柔らかくて噛みやすい食べ物を選び、食物繊維が豊富で栄養価の高い食べ物を避ける傾向にある。

 「歯の喪失を防ぎ、咬合力を健全に保つことは、身体機能の維持に密接に関連し、高血圧の予防・改善とも関連している可能性があります」と、研究者は述べている。

口の健康がどのように高血圧に関わるかを解明するのが課題

 研究は、兵庫県丹波篠山市内で行われたコホート研究「FESTA:Frail elderly study in the Tamba Sasayama-Area」の一部として、実施されたもの。

 研究グループは、対象となった高齢者の口腔内の状態を、残存歯数、咬合力(噛む力)、後方咬合支持(奥歯の噛み合わせ)、咀嚼能力、口腔内水分量、口腔内細菌数により評価した。

 食事摂取量は、簡易型自記式食事歴法質問票(BDQH)を用いて評価。運動習慣、喫煙習慣、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、心血管疾患、脳卒中などの健康情報は、参加者のアンケート調査から収集した。

 高血圧については、日本高血圧学会のガイドラインにもとづき分類。解析した結果、高血圧と関連がある患者背景因子として、▼年齢、▼体格指数(BMI)、▼臼歯部咬合支持域の状態、▼摂取食品中のナトリウム/カリウム比が浮かびあがった。

 とくに臼歯部咬合支持域を喪失しており、奥歯の噛み合わせのない高齢者では、高血圧のオッズ比が1.72と有意に高いことが明らかになった。

 なお、今回は横断研究のため、「高齢者の高血圧」「口の働き」「食生活」との因果関係は明らかにされていない。

 「今後は、高齢者の血圧の変化を経時的に追跡していくことで、口の働きを良い状態に保つことが、どのような作用により、高血圧に対しての予防的な役割をになっているのかを詳しく解明していきたい」と、研究グループでは述べている。

兵庫医科大学総合診療内科学
The Association of Dietary Intake, Oral Health, and Blood Pressure in Older Adults: A Cross-Sectional Observational Study (Nutrients 2022年3月17日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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