進行期慢性腎臓病の収縮期血圧の目標下限値は110mmHg以上に 推定糸球体濾過量(eGFR)の改善に関連

2023.07.26
 進行期の慢性腎臓病(CKD)患者の血圧管理では、血圧変動のなかで収縮期血圧の下限値にも注意を払うことが、腎機能保持に有用であることが、名古屋大学などの研究で示された。

 収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とする診療方針は、推定糸球体濾過量(eGFR)変化+1mL/min/1.73m²/年の改善に関連するという。

 特に血圧変動が大きい場合に、過降圧とならないように、やや高めの血圧管理とすることで腎機能を保持しやすくなると考えられる。

過降圧とならないようやや高めの血圧管理にして腎機能を保持

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学の倉沢史門臨床研究教育学助教(研究当時)、丸山彰一教授らの研究グループが、筑波大学医学医療系腎臓内科学の山縣邦弘教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Hypertension Research」にオンライン掲載された。

 慢性腎臓病(CKD)を有する患者の85%は高血圧症を合併し、高血圧は腎機能悪化や心血管病の重要なリスク因子であることから、腎機能保持や心血管病の予防のためには適切な血圧管理が不可欠となる。

 最近の研究で、厳格な降圧により心血管病や心血管死が減ることが示されているが、その一方で、血圧が下がりすぎると急性腎障害(急激な腎機能の悪化)などの有害事象も増加することも知られている。

 とくにCKD患者は血圧の変動が大きく、血圧の最高値あるいは平均値を基準として厳格な降圧を行うと過度な血圧低下を起こしやすいうえに、動脈硬化などのため血管の自動調節能が障害されていたり、血管が狭窄していたりする場合が多く、その影響を受けやすい集団といえる。

 そのため、血圧変動のなかで、収縮期血圧の最低値にも注意を払う必要があると考えられるが、その意義や最適な下限値についてはこれまでほとんど研究されていなかった。

 そこで研究グループは今回、参加施設の医師の血圧の目標上限値および下限値などの診療方針に関する情報も収集している「慢性腎臓病進行例(CKD G3b~G5)の予後向上のための予後、合併症、治療に関するコホート研究」(REACH-J-CKDコホート研究)のデータを利用し、操作変数法を用いて「血圧の目標下限値に関する診療方針」と腎機能低下や心血管病との関連を評価した。

 同コホート研究に参加した31施設の91人の腎臓内科医を対象としたCKDに関する診療方針などのアンケート結果をまとめ、収縮期血圧の目標下限値について集計した。

 その結果、ほとんどの腎臓内科医は、100mmHgまたは110mmHgを下限値とすると回答した。回答を110mmHg以上と100mmHg以下の2つに分けると、110mmHg以上と回答した医師の割合は、糖尿病のない患者では尿タンパク質なしで約36%、軽度タンパク質尿で29%、高度タンパク質尿で22%、糖尿病の患者では23%で、CKDステージ3と4〜5のあいだに方針の違いはほとんどなかった。

 進行期慢性腎臓病患者の収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とする診療方針は、推定糸球体濾過量(eGFR)変化+1ml/min/1.73m²/年の改善に関連することが明らかになった。

出典:名古屋大学、2023年

ランダム化比較試験を行った場合に近い結果に

 研究グループは今回、各参加施設の腎臓内科医のうち半数以上がアンケートに回答した20施設について、収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とすると回答した医師の施設ごとの割合と、参加者の登録前4年前から登録時までのeGFRの変化や心血管病の既往との関連を評価した。

 血圧の目標値に関する質問は、CKDステージ(3または4〜5)と尿タンパク質の程度および糖尿病の有無(尿タンパク質なし、軽度尿タンパク質、高度尿タンパク質、糖尿病)の組み合わせにより、8通りの想定患者について繰り返し質問され、それぞれ82〜90人から回答が得られた。

 混合効果モデルによる解析では、登録時の4年前から登録時までの4年間(1年おき、最大5つの時点での値)におけるeGFR変化は平均で-2.48mL/min/1.73m²/年だった。

 多変量解析で、収縮期血圧の目標下限値110mmHg以上についての操作変数は、eGFR変化の+1.05mL/min/1.73m²/年(95%信頼区間:0.33~1.77)の改善に関連した。

 この結果は、eGFR変化の平均値を加味すると、収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上とすることで、100mmHg以下とする場合よりも30〜40%程度腎機能の低下速度を緩やかにできることを示唆している。

 いくつかのサブグループに分けた解析では、いずれのグループについてもこの腎保護効果はおおむね一貫していたが、75歳以上のグループ、心血管病の既往のあるグループでとくに効果が大きい傾向がみられた。これらのグループは、とくに動脈硬化が進行しており、血圧の変動が大きく過降圧が起こりやすい上にその影響も受けやすいことが想定される。そのような患者では血圧が下がりすぎないように管理する意義がとくに大きいと解釈されるとしている。

 なお、これらの解析は血圧自体ではなく、血圧に関する「治療方針」と腎機能変化の関連を評価しているため、観察研究でありながら、ランダム化比較試験を行った場合に得られる結果に近い結果であることが期待できるとしている。

出典:名古屋大学、2023年

収縮期血圧の目標下限値に着目したはじめての報告 臨床試験で検証を

 「今回の研究結果から、進行期CKD患者の血圧管理で、血圧変動のなかで収縮期血圧の下限値にも注意を払い、具体的には110mmHgを下限値とすることが、腎機能保持に有用であることが示唆された」と、研究グループでは述べている。

 「とくに血圧変動が大きい場合に、過降圧とならないようにやや高めの血圧管理とすることで腎機能を保持しやすくなると考えられる。収縮期血圧の目標下限値を110mmHg以上にする腎臓内科医は22~36%と少数派だったため、血圧に関する診療方針を最適化することで腎予後が改善しうる患者が多くいるものと考えられる」。

 「収縮期血圧の目標下限値に着目したはじめての報告であり、今後、下限値にも注意する必要性について診療ガイドラインにも反映される可能性がある。臨床試験でこの研究結果と同様な結果が得られるか、また心不全などの有害事象が増加しないかを検証することが望まれる」としている。

名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学
筑波大学医学医療系腎臓内科学
Relationship between the lower limit of systolic blood pressure target and kidney function decline in advanced chronic kidney disease: an instrumental variable analysis from the REACH-J CKD cohort study (Hypertension Research 2023年7月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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