「食育健康サミット2024」をオンライン配信 高齢者の食事と運動をどう指導・支援すればよいか 医学的・栄養学的に考察 日本医師会など

2024.12.17
 日本医師会米穀安定供給確保支援機構は、生活習慣病の予防・治療におけるごはんを主食とした日本型食生活の有用性などについて考える、「食育健康サミット」を毎年開催している。2024年度は「健康寿命延伸に向けたアプローチ~高齢期をいきいきと過ごすための食事と運動~」をテーマに、オンライン配信を開始した。

「健康寿命延伸に向けたアプローチ~高齢期をいきいきと過ごすための食事と運動~」がテーマ
フレイル・サルコペニア対策のための運動と食事なども

 「健康日本21(第三次)」では、高齢期について、「低栄養傾向の高齢者の減少」「ロコモティブシンドロームの減少」などが目標として設定されており、なかでも低栄養状態は、フレイル・サルコペニアをはじめとするさまざまな疾患の引き金となり、要介護状態の原因にもなることから、高齢者の食事指導など、栄養に関する課題に向けた取組は急務となっている。

 そこで医師や管理栄養士などを主な対象に実施している、「食育健康サミット」のシンポジウムでは、「健康寿命延伸に向けたアプローチ~高齢期をいきいきと過ごすための食事と運動~」をテーマに、健康寿命の延伸に向けた具体的な対策として、フレイルやサルコペニア予防とその背後にある「低栄養」の問題、日本型食生活の意義や活用法などを含めた栄養改善、さらに食事とともに健康寿命延伸の両輪となる運動について、疾患、栄養、運動の専門家からアドバイスをもらいながら、健やかな生活習慣を身につけ健康寿命を延ばすためにどのような指導・普及支援などを行えばよいのかが、医学的・栄養学的に考察されている。

食育健康サミット2024
「健康寿命延伸に向けたアプローチ~高齢期をいきいきと過ごすための食事と運動~」
配信期間 2024年12月4日(水)10:00~2025年2月28日(金)23:59
主 催 公益社団法人 日本医師会、公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構
座 長 帝京大学臨床研究センターセンター長 / 寺本内科・歯科クリニック内科院長 寺本民生

基調講演「日本食と健康長寿」
辻 一郎 先生 東北大学 名誉教授 / 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野 客員教授
 日本食(米飯・魚介類・野菜・海藻・大豆製品・緑茶などの摂取が多く、牛肉・豚肉の摂取が少ない)パターンの健康長寿に対する影響が、多くのコホート研究で解明されています。演者らの大崎国保加入者コホート研究や大崎コホート2006研究によると、日本食パターンの度合いが強い者ほど、総死亡(とくに循環器疾患死亡)リスクが有意に低下し、要介護や認知症の発生リスクも有意に低下しました。また中高年期に日本食パターンの度合いが増えた者では認知症発生リスクが有意に低下しました。
 日本食パターンと認知症発生リスクとの有意な負の関連は、久山町研究など日本を代表する高齢者コホート研究でも同様に観察されています。また、日本食パターンは食品摂取の多様性とも関連があり、後者が著しい高齢者ほど海馬の縮小程度が小さいとの報告もあります。
 以上のようなエビデンスがあるにも関わらず、実際には日本食離れが進んでいます。そこで健康的な食事・食生活の普及策について、2024年4月にスタートした厚生労働省「健康日本21(第三次)」が掲げるライフコースアプローチの視点から考えてみたいと思います。

講演1「高齢期の健康課題と栄養療法の重要性」
荒木 厚 先生 東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長
 加齢とともに腎機能、心機能、呼吸機能、認知機能などが低下し、幾つかのホルモンの分泌能や感受性が低下します。高齢者は糖尿病、CKD、動脈硬化性疾患、骨関節疾患、認知症などが増加し、フレイル、認知機能障害などの老年症候群もきたしやすくなります。
 こうした疾患や老年症候群に共通の対策として食事・栄養療法と運動療法があります。75歳以上の高齢者は低栄養やフレイルになりやすく、その予防のための栄養療法が重要です。一方、中年期からの糖尿病、肥満症などに対するメタボ対策は前期高齢者では合併症予防のために継続していることが多いです。したがって、高齢者でも(1)75歳以上、(2)低栄養、(3)フレイル・サルコペニアがある場合の栄養療法はメタボ対策からフレイル対策にシフトすることを考慮することが大切です。日本食のフレイル・サルコぺニア予防効果についても言及したいと思います。

講演2「フレイル・サルコペニア対策のための運動と食事」
山田 実 先生 筑波大学人間系 教授
 世界随一の長寿国として超高齢社会を突き進む我が国において、フレイル・サルコペニア対策は認知症対策と並んで重要な課題に位置付けられています。これまでの調査で、これらに抵抗し健康長寿を実現するには、継続的な運動と適切な食事、そして社会との関りを保つことが重要であることが分かってきました。そして今、このような対策を根拠に基づき推進することが求められ、専門職に対する期待も高まっています。
 社会的にフレイル・サルコペニア対策のニーズが高まる中、我々が有しておくべき情報は何か。本講演では、フレイル・サルコペニア対策に向け、運動の捉え方や運動継続のコツを紹介するほか、運動効果をアップさせるための栄養の重要性、社会と係ることの意義についても言及したいと思います。特定の専門職ではなく、フレイル・サルコペニア対策に係るすべての職種の方に共通理解してほしい内容を整理します。

講演3「人生100年時代の栄養~高齢者は何をどう食べればよいのか?」
川口 美喜子 先生 札幌保健医療大学大学院 教授 / 大妻女子大学 特任教授
 高齢者の健康は、これまでの生活を継続し、望む暮らしを送ることです。多くの人は、何をどのように食べたら健康になれるか、体内で栄養はどんなふうに使われるのか、くわしく教わる機会がほとんどないまま、あふれる情報を信頼し食べ続けます。そして、みな平等に「老い」を迎えます。何をどう食べるかで、体は変わります。よりよく生きるために、体のために「選べる」のが栄養です。ほとんどの人は無理やり誰かに「食べさせられる」ことはありませんから、食べるという行為は本来、自発的で、自律的なもの。
 自分で「選べる」ことなのです。そして、低栄養は、食べられない、食べないに始まり、「食べること」「しゃべること」を閉ざします。病気を招くだけでなく、予後の悪化にもつながります。栄養指導では、おいしく食べることよりもたんぱく質摂取が注目され、主食の炭水化物を減らし、エネルギー不足になっている方もいます。本講演では、高齢者が健康で「おいしく食べて」、長生きするための食事のとり方、さらに、炭水化物をとることの重要性などについて解説します。

クロージング / サミットまとめ「健やかな高齢期のためにいまできること」
寺本 民生 先生 帝京大学臨床研究センター センター長 / 寺本内科・歯科クリニック 内科院長
 我が国の平均寿命は世界でもトップレベルですが、同時に健康寿命と平均寿命の差も世界でトップレベルにあり、男性で8.80年、女性では12.09年(2019年データ)とかなり長く、我が国が抱える医療費高騰の一因とも考えられます。そこで、健康寿命≒平均寿命とすることが医療従事者の一つのミッションです。最も留意すべきは高齢者の健康問題ですが、そのカギを握るのは胎児期からの継続的健康意識であり、「健康日本21(第三次)」でも「ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり」とする項目ではこども、高齢者及び女性における目標を設定するとあります。本講演会では、これまで小児期・若年期・壮年期の問題点を取り上げてきました。今回は高齢者の健康づくりを中心に触れていきたいと思います。
 高齢化が進む中、元気な高齢者が社会でも活躍できる可能性は十分にあります。とはいえ、歳を重ねると、筋力の低下(サルコペニア)、その結果としての虚弱(フレイル)という問題があり、その予防にはやはり、常日頃の食事や運動習慣があります。高齢者に大切な食事内容と運動内容について深堀をしていきたいと思います。

公益社団法人 日本医師会
公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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