糖尿病性腎臓病重症化予防プログラムの実証研究 AIを活用した保健指導を開始 医療機関とも連携
AIの活用と医療機関の連携によりリスク状況を提示し、QOL改善と行動変容を検証
日本は、台湾に次ぐ世界第2位の人工透析大国であり、透析患者数は国民の約370人に1人、約34万人にも及ぶ。なかでも、糖尿病の合併症として発症する糖尿病性腎臓病の重症化による透析患者数がもっとも多く、全体の4割を占める。
人工透析が必要になると、透析治療によりQOLが低下するだけでなく、1人当たり年間約500万円の医療費負担、国全体では年間約1.6兆円の公的医療費が必要となる。糖尿病性腎臓病の重症化を予防することは健康寿命を延ばすだけでなく、医療保険財政を健全化する点からも喫緊の課題となっている。
糖尿病性腎臓病の重症化を防ぐためには、患者の行動変容(日常的な健康生活の習慣化)に加え、医療機関受診による治療の継続が求められる。
そこで、金沢大学の和田隆志理事・副学長(腎臓内科学)らの研究グループ、東芝、東芝デジタルソリューションズの3者は、2019年8月に、糖尿病性腎臓病患者の症状が改善・悪化するパターンを分析し、重症化メカニズムを解析する共同研究の開始を公表した。
これは、同大学がもつ長期経過観察をともない腎生検で診断した糖尿病性腎症例の臨床・病理情報を用いて、東芝デジタルソリューションズのAI「SATLYS」を活用し、糖尿病性腎症の重症化メカニズムの解明を目指すというもの。
その後、SOMPOホールディングスを含めた4者で共同開発を進め、金沢大学の医学的知見と東芝、東芝デジタルソリューションズのAI技術、SOMPOグループがもつヘルスケアのノウハウに加え、東芝健康保険組合がもつデータを活用することで、重症化に関連するリスク因子を算出するAIの開発に成功した。
実証研究では、まず4者で共同開発したAIを用いて、実証研究に協力する30人の中等度腎機能障害を併発した糖尿病患者の健康診断結果を解析し、現状維持が望ましい検査項目・改善が望ましい検査項目が分かる個別化されたリスク状況を記した「生活習慣の維持/改善目標シート」を作成する。
次に、同シートを活用し、管理栄養士が患者への保健指導を行う。さらに、従来の健康指導を組み合せることで、糖尿病患者の生活習慣とQOLの変化を検証する。
AIの解析結果にもとづく保健指導に加え、管理栄養士がもつ保健指導のノウハウを結集させることで、糖尿病性腎臓病の重症化を防ぎ、患者のQOLの向上、および医療保険財政の健全化を目指す。
実証研究を通じて得られたデータをもとに4者は糖尿病性腎臓病の重症化予防方法の有効性を検証し、医療機関、自治体、SOMPOグループをはじめ民間事業者が連携して、プログラムの社会実装を行い、患者のQOL向上を目指すとしている。
「AIを用いた新たな診療補助ツールです。患者さんお1人おひとりに寄り添い、明日に希望を持てる医療を提供できることを目指しております。住民の皆様の健康維持や笑顔につながることを心より念じております」と、和田隆志理事・副学長は述べている。
金沢大学大学院 腎病態統御学・腎臓内科学
東芝アナリティクスAI SATLYS (東芝デジタルソリューションズ)