認知機能の低下した患者の顔は人工知能(AI)により見分けられる 認知症の早期診断を促す新たな検査法の開発へ

2021.02.02
 東京大学や東京都健康長寿医療センターは、認知機能の低下した患者と健常者の顔写真を、人工知能(AI)により見分けることができることを世界ではじめて示した。
 顔による認知症の早期発見は、非侵襲的で時間もかからない安価なスクリーニングとして期待される。

人工知能(AI)を使い、顔の情報から認知機能の低下をみつけだすのに成功

 研究は、東京大学医学部附属病院老年病科の秋下雅弘教授、亀山祐美助教(特任講師(病院))らの研究グループが、東京都健康長寿医療センター放射線診断科の亀山征史医長らと共同して行ったもの。研究成果は、米科学誌「Aging」に掲載された。

 認知症は高齢化社会が抱えるもっとも深刻な問題のひとつだ。認知症の治療戦略では、早期診断がとても重要になっている。そのため、簡単で非侵襲的で安価な認知症のスクリーニングが望まれている。

 しかし、現実には認知症の診断のための検査はさまざまな制約を抱えている。

 たとえば、アミロイドPETによる検査費用は正確ではあるものの、非常に高額であり、脳脊髄液の採取は侵襲的だ。この検査法は、アルツハイマー病の主病変タンパク質であるβアミロイドが蓄積しているかを、陽電子断層撮像(PET)で検出するもの。

 一方、老化は全身的なプロセスのため、顔で判断する見た目年齢は余命、動脈硬化、骨粗鬆症の指標となることが知られている。これまでにに秋下教授、亀山助教らの研究グループは、見た目年齢が暦年齢よりも認知機能と強い相関を示すことを報告している。

 そこで、今回の研究では、人工知能(AI)を使って、顔の情報から認知機能の低下をみつけだすことができるかどうかを調べた。AIの深層学習(ディープ ラーニング)を使用すれば、認知症の識別といった難しい課題を解決できる可能性がある。

成績の良いAIモデルは正答率93%と高い弁別能力

 今回の研究は、東京大学医学部附属病院老年病科を受診して物忘れを訴える患者、および同大学高齢社会総合研究機構が実施している大規模高齢者コホート調査(柏スタディ)の参加者を対象に行われた。

 柏スタディは、2012年度から千葉県柏市在住の高齢者を対象に実施されており、健康状態、身体の構造と機能、活動、社会参加、心理および認知機能などの精緻なデータ収集と解析が行われている。

 同意を得られた参加者の、正面の表情のない顔写真を使い、認知機能低下を示す群(121名)と正常群(117名)の弁別ができるかどうかについて、AIワークステーションで解析した。

 その結果、もっとも良い成績を示したAIモデルでは、感度87.31%、特異度94.57%、正答率92.56%と高い弁別能が示された。

 AIモデルが算出するスコアは、年齢よりも認知機能のスコアに有意に強い相関を示した。さらに、年齢の影響を少なくするため、年齢で2つのグループに分けて解析したところ、どちらの群でも良好な成績を収めることができたため、年齢の影響は少ないだろうと考えられた。

 また、AIワークステーションによる判断は顔のどの部分で行われているのか分かりづらく、ブラックボックスの側面があるため、顔を上下で分けて解析したところ、どちらも良い成績だったが、顔の下半分の方が少し良い成績を示した。

 「今回の研究は人数も限られているため、そのまますぐに応用ができるわけではないありませんが、もっと多くの顔写真を集め、AIに学習させることができれば、将来的にAIを用いて顔で認知機能低下をスクリーニングすることができるようになるかもしれません。実用化を目指して、今後も今回の成果から得られた方法について研究を深めていく予定です」と、研究者は述べている。

 この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業の支援により行われた。

(A)AIが算出したスコアと認知機能検査(MMSE)との関係。AI算出スコアの高い方が認知機能が低い。
(B)AIが算出したスコアと年齢との関係。AIモデルが算出するスコアは、年齢よりも認知機能のスコアにSteiger検定にて有意(p=3.25×10-35)に強い相関を示した。
出典:東京大学医学部附属病院老年病科、2021年

東京大学医学部附属病院老年病科
大規模高齢者コホート調査(柏スタディ)(IOG 東京大学高齢社会総合研究機構)
Screening of Alzheimer's Disease by Facial Complexion Using Artificial Intelligence(Aging 2021年1月26日)

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