【新型コロナ】COVID-19入院患者の1.85%が⾎栓症 抗凝固療法は14.5%に施⾏ 日本初のCOVID-19関連⾎栓症の調査

2020.12.09
 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会は、合同で、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)関連血栓症に関するアンケート調査を実施した。
 全国の100を超える病院から6,000例を超えるCOVID-19症例の回答が寄せられた。血栓症の発症率は、全体としては1.85%で、軽・中等症症例では0.59%と低かったが、人工呼吸・ECMO中の症例では13.2%と⾼率に発症していることが示された。

日本でのCOVID-19関連⾎栓症を調査

 欧⽶の研究でCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の病態の重症化に⾎栓症が深く関わっていることが指摘されているが、日本でのCOVID-19関連⾎栓症についてはほとんど把握されていない。

 そこで、厚⽣労働省難治性疾患政策研究事業「⾎液凝固異常症等に関する研究」班、⽇本⾎栓⽌⾎学会、⽇本動脈硬化学会の3つの組織が合同して、全国のCOVID-19診療病院にアンケート調査を⾏った。

 調査は、第2波のピークがほぼ終わりかけた時期である2020年8⽉31⽇までに⼊院したCOVID-19患者を対象に行われ、全国の399病院にCOVID-19関連⾎栓症に関するアンケートを送付し、109病院(回収率27.3%)から、6,082症例について回答が得られた。

 そのうち⼈⼯呼吸器まで要したのは322例(5.3%)、体外式膜型⼈⼯肺(ECMO)まで要したのは56例(0.92%)であり、死亡は208例(3.4%)だった。

 ⾎栓症は105例(1.85%)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例、⼼筋梗塞7例、深部静脈⾎栓症41例、肺⾎栓塞栓症29例、その他の⾎栓症21例だった。

 ⾎栓症は、軽・中等症の症例での発症が31例(軽・中等症症例の0.59%)、⼈⼯呼吸器・ECMO使⽤中の⾎栓症発⽣が50例(⼈⼯呼吸・ECMO症例まで要した重症例の13.2%)だった。症状悪化時に⾎栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が⾎栓症を発症していた。

D-dimer高値は⾎栓傾向の可能性が

 D-dimerは架橋されたフィブリン線維の分解、いわゆる⼆次線溶の産物であり、凝固と線溶の指標となる。D-dimerは⾎栓形成の指標としてだけでなく、COVID-19重症化の指標となることが報告されている。

 D-dimerは4,420例(73.8%)で測定され、⼊院中に基準値の3~8倍の上昇を認めた症例は9.5%、8倍以上の上昇を認めた症例は7.7%と、多くの症例で⾎栓傾向がうかがわれた。

 「Ddimer値から考えれば、COVID-19⼊院症例の中には⾎栓傾向をもつ症例が少なからず存在する可能性がある」と、研究グループは述べている。

深部静脈⾎栓症・肺⾎栓塞栓症がもっとも多い

 ⾎栓症としては深部静脈⾎栓症・肺⾎栓塞栓症がもっとも多く、深部静脈⾎栓症の発症は39.0%、肺⾎栓塞栓症の発症は27.6%と多かった。

 しかし、海外の報告では、86.7%が肺⾎栓塞栓症と圧倒的に多く、そのデータと⽐較すれば、日本では⾎栓症全体での肺⾎栓塞栓症の割合は低い。

 「感染対策上、COVID-19重症者に造影CTなどの検査施⾏へのハードルが⾼く、肺⾎栓塞栓症の発症をすべて診断しきれていない可能性も否定できない」と、研究グループは述べている。

 ⼀⽅、⼼筋梗塞の発症は⽐較的少なかったが、症候性脳梗塞が⾎栓症症例の21.0%と⽐較的多く、肺⾎栓塞栓症よりわずかに少ない発症数だった。

COVID-19⼊院患者の14.5%に抗凝固療法を実施

 抗凝固療法は約14.5%の症例が受けていた。海外では低分⼦ヘパリンが推奨されているが、日本では保険診療の適応外であり、⼤半に未分画ヘパリンが⽤いられていた。また、ナファモスタット(フサン)が⽤いられていた症例が多かったが、複数の病院からの回答に記載があったように、抗凝固作⽤を期待してというよりはCOVID-19感染症そのものへの効果を期待しての投与だったと考えられる。

 予防的に抗凝固療法を開始した理由では、D-dimer⾼値および動脈圧酸素分圧低下を含む臨床症状の悪化などが多かった。また、⼊院患者全員との回答のあった病院は、重症症例に特化した病院に多かった。

 抗凝固療法の主な中⽌理由は、転院や退院(死亡退院を含む)を除いては、症状改善やD-dimer低下だった。⼀⽅、出⾎のため中⽌された症例は21例(抗凝固療法施⾏症例の2.4%)あった。出⾎の原因としては、抗凝固療法による出⾎リスクの上昇の他に、DICによる⾎⼩板減少・フィブリノーゲン濃度の低下や線溶亢進等が考えられる。

 また、ECMO治療は、強い抗凝固療法下に⾏われ、さらに、⾎⼩板減少・⾎⼩板機能低下や後天性フォンウィルブランド症候群が合併し、出⾎性合併症の頻度が⾼いことが知られている。

 「今回のアンケート調査ではそれぞれの割合を提⽰できないが、抗凝固療法の実施に際しては出⾎性合併症の発症に留意すべきである」と、研究グループは述べている。

厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業
「血液凝固異常症等に関する研究班」

日本血栓止血学会

日本動脈硬化学会

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