血圧が低い場合でも循環器疾患による死亡リスクは上昇 降圧薬で血圧を下げても安心はできない
2019.04.18
心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患のリスクは血圧が高いと上昇するが、薬で血圧を下げても安心はできないという研究が発表された。
降圧薬を服用している場合、血圧が低い場合でも循環器疾患による死亡リスクは高いことが、筑波大学の研究で示された。
降圧薬を服用している場合、血圧が低い場合でも循環器疾患による死亡リスクは高いことが、筑波大学の研究で示された。
高血圧治療ガイドラインを改定
高血圧は、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患の最大の危険因子であり、一般集団では、血圧は低ければ低いほど循環器疾患のリスクが低く、高ければ高いほどリスクは高くなることが知られている。さらに、血圧が高い人に対して血圧を下げた場合に循環器疾患のリスクが下がることも知られている。 ただし、血圧をどのくらい下げるとよいのかについてはよく分かっておらず、薬を使って血圧を低く下げることの是非についてはさまざまな議論がある。 こうしたなかで、米国では2017年に、高血圧の基準を従来の140/90mmHgから、130/80mmHgに引き下げる決定がされた。一方、欧州では2018年に、高血圧の基準は従来通り140/90mmHgとする決定がされた。 日本では日本高血圧学会が2019年4月に高血圧治療ガイドラインを改定し、血圧区分の一部などが変更される見込みで、従来通り140/90mmHgを高血圧の基準としている。血圧が高いほど循環器疾患による死亡リスクが上昇
研究は、北海道大学などと共同で実施しているコホート研究である「JACC研究」(研究代表者:玉腰暁子・北海道大学教授)の一環として実施したもの。 コホート研究は、地域で生活する一般住民を長期間追跡して、その後の病気の発症や死亡との関連を調べる研究。一方、すでに病院などにかかっている患者に対し、特定の条件のもとで、ある薬を使った場合と使わなかった場合とで、その後の健康状態がどのようになるのかを調べる研究を介入研究という。 研究グループは、実際に地域で生活する(リアルワールドでの)日本人の実態を明らかにするために、日本の30地域の住民を約20年間追跡するコホート研究を行った。 研究グループは、JACC研究が実施されている45地域のうち、血圧の実測データのある30地域の2万7,728人を対象に調査。健診時の血圧値を、欧州の基準にもとづき、「至適血圧」(120/80未満)、「正常血圧」(120~129/80~84)、「正常高値」(130~139/85~89)、「I度高血圧」(140~159/90~99)、およびII~III度高血圧(160/100以上)の5つの群に分けた。 その結果、血圧が高いほど循環器疾患による死亡リスクが高くなることが明らかになった。一方で、降圧薬を服用している場合、129/84mmHg以下の群では、130~139/85~89mmHgの群よりも循環器疾患による死亡リスクが高くなった。降圧薬で血圧を下げても安心はできない
循環器疾患の主なリスク要因を統計学的に調整した上で、正常高値群に対する他の群での循環器疾患の死亡リスクを算出した結果、正常高値群と比較して、循環器疾患の死亡リスクは、至適血圧群で0.85倍、正常血圧群で0.96倍、I度高血圧群で1.26倍、II~III度高血圧群で1.55倍と、血圧が高くなるにつれてリスクが高くなることが明らかになった。この関連は、降圧薬を服用していない人だけでみた場合も同様だった。 一方、降圧薬を服用している人だけでみた場合は、この関連は、至適血圧群で2.31倍、正常血圧群で1.68倍、I度高血圧群で1.56倍、II~III度高血圧群で1.63倍となり、U字型の関連が示された。この関連は、脳卒中による死亡や虚血性心疾患による死亡でも同様で、また男女別にみても同様だった。 このことは、降圧薬で血圧を下げると循環器疾患の死亡リスクが高くなることを示すものではなく、もともとリスクの高い人や合併症などのある人に対して血圧をより強力に下げる処置などをすると、そのもともとのリスク要因や合併症を原因で、循環器疾患死亡リスクが高くなる可能性があるという。 したがって、「降圧薬を服用し、血圧が129/84mmHg以下に下がっている人は、併存するリスク要因や合併症の管理に注意する必要がある」と研究グループは述べている。自己判断で血圧の薬をやめるのは危険
今回の研究で、薬を飲んで血圧が129/84mmHg以下に下がっている人の中には、糖尿病や脂質異常などの併存するリスク要因がある場合が多く、医師による治療を受けている人が含まれる。また、心房細動や動脈硬化などが高血圧に合併すると、血圧が下がることがある。これらの併存するリスク要因や合併症が原因で、循環器疾患の死亡リスクが高くなった可能性がある。 「これまでの介入研究でも、薬を飲んで血圧を下げることで、循環器疾患のリスクが下がることが証明されている。血圧の薬を飲んでいて血圧がよく下がっている場合でも、医師の指示なく、自己判断で血圧の薬をやめるのは危険。合併症などの影響を含めた全身状態について、主治医とよく相談することが大切」と、研究グループは指摘している。 研究は、筑波大学医学医療系(ヘルスサービス開発研究センター兼任)の山岸良匡准教授らの研究グループによるもの。研究の成果は、高血圧専門誌「Journal of Hypertension」オンライン版に発表された。 筑波大学 医学医療系Blood pressure levels and risk of cardiovascular disease mortality among Japanese men and women: The Japan Collaborative Cohort Study for Evaluation of Cancer Risk (JACC Study)(Journal of Hypertension 2019年3月14日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]