世界糖尿病デー(4) 糖尿病を放っておかず治療に取り組むことが大切

2016.11.18
 11月14日の「世界糖尿病デー」に、各地で糖尿病教室や市民公開講座、無料の血糖測定や健康相談会、ウォーキングやスポーツバイクのイベントなどが開催された。

糖尿病を理解することが
健康寿命の延伸につながる

 東京都糖尿病協会は、糖尿病週間に合わせて11月12日に東京・有楽町で講演会「正しい知識で防ごう合併症」を開催した。

 2型糖尿病は以前は50~60歳代になって発症する病気と考えられていたが、最近は30~40歳代の働き盛りで発症するケースが増えている。また、糖尿病の治療が必要と指摘されても、約4割が治療を受けていないというデータもある。原因は、糖尿病は初期の段階では自覚症状がないことや、働き盛りの世代では仕事が忙しことなどだ。

 血糖値の高い状態を放っておくと、合併症が進行する。糖尿病の主な合併症には、網膜症・腎症・神経障害がある。また、糖尿病は動脈硬化を進め、太い血管の障害も引き起こすので、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる病気のリスクも高める。

 仮に40歳で発症した人が、適切な治療を受けずに高血糖の状態が続いたとすると、45歳頃には手足の先などの神経が障害され、しびれが現われるおそれがある。47歳頃になると網膜の血管が障害されて視力の低下が起こり、50歳ごろになると腎機能の低下が進むかもしれない。糖尿病の影響は全身の血管に及び、心臓や脳の血行障害も引き起こす。これらの合併症は、進行していても気づかない場合も少なくない。

 糖尿病と診断されたら、仕事が忙しくてもそれを理由に放っておかず、しっかりと治療に取り組むことが大切だ。まず生活習慣を見直し、過食・運動不足・ストレスなどを1つでも多く解消し、必要に応じて薬物療法を続ける必要がある。

 血糖コントロールを改善すれば、糖尿病合併症の進行を防げる。この10年間で糖尿病の治療は大きく進歩しており、治療を続けている患者の糖尿病についての理解も深まっている。効果的な新薬の登場や医療技術の進歩もあり、合併症を発症する患者は減り、寿命も延びている。

 「血糖コントロールが良好な患者では、心筋梗塞などの心血管疾患で亡くなる割合は、一般の人よりも少ないくらいです。糖尿病に対する理解を高めることが、糖尿病とともに生きる人の健康寿命の延伸に大きく役立ちます」と、東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授の小田原雅人氏は言う。

治療をしっかり続ければ、糖尿病合併症を予防できる

 神奈川県糖尿病協会などは、11月13日に横浜・みなとみらいで市民公開講座「神奈川糖尿病デー2016~元気に美しく生きるために糖尿病の合併症を学ぶ」を開催した。

 糖尿病腎症は糖尿病合併症のひとつで、進行すると人工透析が必要になる。新たに透析を始める人のうち43.5%は糖尿病が原因で、年間に1万5,809人が糖尿病腎症から透析治療に進展している。

 厚生労働省は日本医師会、日本糖尿病学会などの日本糖尿病対策推進会議とともに、「糖尿病腎症重症化予防プログラム」を策定し、かかりつけ医が糖尿病専門医や腎臓専門医と連携して、腎症の重症化を予防する取り組みを推進している。

 透析治療を受けている患者の数は、過去40年間にわたり増加し続けているが、糖尿病腎症による透析導入数はこの数年で頭打ちになっている。新しいインスリン製剤や糖尿病の経口薬が使われるようになり、降圧薬や脂質をコントロールする薬などによる治療も進歩しており、糖尿病腎症のリスクを抑えやすくなってきた。

 糖尿病腎症の早期発見には尿中アルブミン検査が有効だ。腎症のごく早期から尿に出てくるタンパク質の一種であるアルブミンを尿検査で見つける検査だ。自治体や職場の健康診断の尿検査や血液検査では、腎症がある程度進行してからでないと発見できない。

 「通院して糖尿病の治療をしっかり続け、早期に対策をすれば、合併症の多くは予防が可能です。患者さんには各地で開催される糖尿病教室などに参加し、糖尿病への理解を深めてほしい」と関東労災病院糖尿病・内分泌内科の浜野久美子氏は言う。

運動不足は糖尿病の悪化の3つ目の原因

 糖尿病の悪化の原因のひとつは筋肉減少や筋力低下だ。糖尿病の原因には、膵臓のインスリン分泌低下と肥満によるインスリン抵抗性の2つが知られているが、筋肉の減少は3つ目の原因とされる。

 運動不足は糖尿病患者にとって、大きなリスクになる。筋肉が減ると筋肉のブドウ糖消費量が減り、そのため血糖値が上がりやすくなる。筋肉にはエネルギーを貯蔵する機能もある。筋肉の量が減ると、血糖を調節する力が低下する。

 運動は血管や心臓にも良い効果をもたらす。ひとつは「血管の拡張」「血圧の低下」だ。運動をすると、心拍数が増え血流が増加する。すると、血管の内膜から一酸化窒素(NO)が分泌され、血管が広がり血圧が下がる。運動には動脈硬化を進みにくくする効果もある。

 また、特に高齢者が運動不足になると、筋肉減少と筋力低下が起こりやすい。日本の2型糖尿病の患者は65歳以上が3分の2を占めている。65歳くらいまでは肥満や内臓脂肪蓄積が2型糖尿病を増やす原因となってるが、それ以降になると、身体機能や認知機能が低下する「フレイル」や、筋肉の量が減る「サルコペニア」が糖尿病を悪化させる要因になる。筋肉を維持するために、運動を積極的に行うことが大切だ。

スポーツバイクを通じて糖尿病への理解を深めるイベント

 ノボ ノルディスク ファーマと日本糖尿病協会は、運動を通じて糖尿病への理解を深めてもらうためのイベント「SPORTS BIKE EXPERIENCE」を11月13日に、東京の明治神宮外苑の聖徳記念絵画館前で開催した。

 当日は約2,800人が来場し、延べ1,000人が無料の血糖測定に参加、スポーツバイクで運動をする前と後に血糖値がどれだけ変化するかを体験した。イベントの前には100人以上が集まり世界糖尿病デーのシンボルカラーである「ブルー」を着用し、「ブルーサークル」を人文字でつくり世界に発信した。

 同イベントは、メンバー全員が1型糖尿病の世界初のプロサイクリングチーム「チーム ノボ ノルディスク」の3年連続でのジャパンカップサイクルロードレース参戦を記念し、開催されたもの。

 1型糖尿病は主に自己免疫疾患が原因で膵臓のβ細胞が破壊されることで発症する。肥満や生活スタイルと関係なく発症し、インスリン分泌が絶対的に欠乏するので、生命維持のためにインスリン療法が不可欠となる。

 「チーム ノボ ノルディスク」のメンバーであるアーロン ペリー選手は「しっかりと血糖コントロールをすれば糖尿病を克服でき、自分の夢を実現できる」、ステファニー マッケンジー選手は「健康管理が良好であれば、レースでも良い結果につながる。スポーツを通じてたくさんの人と交流できるのが喜ばしい」と述べた。

運動は血糖コントロールの改善に役立つ

 ステージイベントでは、サイクリングによる血糖値の変動を体験。参加者はバイクを20分漕ぐことで、食後に上昇した血糖値が低下することを実感した。さらに都内の約16kmのコースを走る「BIKE TOUR IN TOKYO」が、ペリー選手とマッケンジー選手が参加して行われた。

 抽選で選ばれた20人の参加者は、ゲストライダーの益子直美さんと山本雅道さんの夫妻、今中大介さん、絹代さんとともに都内をサイクリングして、糖尿病の正しい知識の普及を啓発した。

 ツアーに参加した能勢謙介さんは、自身が1型糖尿病で、インターネットを通じた患者の視点からの情報発信に先駆的に取り組んでいる。能勢さんは、長距離を自転車で走る大規模なサイクルイベントにも参加した実績をもつサイクリストでもあり、糖尿病患者向けのアプリの開発などを手掛ける「マイスター・ジャパン」でも活躍している。

 「1型糖尿病でも、2型糖尿病でも、糖代謝異常とともに生きる人の多くは、社会的に難しい問題を抱えている場合が少なくありません。そうした人たちの『当たり前の日常』をサポートするために、医療や社会、そして製薬企業や医療機器メーカーの協力は絶対に必要です。そしてもちろん、患者自身も自らの健康管理に前向きに取り組んでいる姿を示す必要があります。糖尿病を発症してからも、自己管理をしっかりとしながら、生活と仕事、そして健康の両立が可能であると示すことができれば、糖尿病に対するより正しい理解の普及につながるのではないでしょうか」と、能勢さんは言う。

能勢謙介 Facebook

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