世界糖尿病デー(2) 2016年のテーマは「糖尿病の眼」 失明を防ぐために

2016.11.14
 世界糖尿病デーの2016年のテーマは「糖尿病の眼」(Eyes on Diabetes)だ。糖尿病網膜症の早期発見と治療を促すために、世界中で啓発活動が展開される。適切な治療を続けていれば、糖尿病網膜症による視力障害の80%は防げるという。

糖尿病網膜症は破壊的なダメージをもたらす

 糖尿病網膜症は、目に入る光を信号に変え、視覚にとって重要な役割を果たす網膜に障害が出る病気だ。失明や視覚障害を起こす病気で、日本では緑内障に次いで原因の第2位になっている。

 進行するとレーザー治療や硝子体手術などの外科的治療が必要になるが、国際糖尿病連合(IDF)は、糖尿病網膜症の8割は予防できたり進行を抑えられるとしている。

 糖尿病は初期の段階では自覚症状が乏しい。検査を受けないでいると、血糖値が高くなっていても自分では気付かない。糖尿病の治療でもっとも大切なことは、検査を受け糖尿病を早期発見し、治療を継続することだ。

 高血糖の状態が続き、高血圧や脂質異常症が伴うと、やがて糖尿病合併症が起こる。治療の開始が遅れると、診断されたときにはすでに1つ以上の合併症で苦しまなければならないおそれがある。さらに健診などで糖尿病を指摘された人も、適切な治療を受けないでいると、将来に深刻な合併症を発症する危険性が高い。

糖尿病が発見された時には「手遅れ」になっている患者も多い

 糖尿病の治療を受けないで血糖コントロールが不良の状態が続くと、やがて糖尿病網膜症を発症する。これは発症率が高く、破壊的なダメージをもたらす合併症のひとつだ。

 糖尿病の合併症は、生活の質を著しく低下させ、生命を危険にさらすものが多い。なかでも糖尿病網膜症による視力低下や失明は、患者にとってとりわけ深刻で、生活の全てを変えてしまう深刻な疾患だ。

 残念なことに、糖尿病網膜症を発症する患者は多い。適切な治療を受けていことが、糖尿病網膜症の発症リスクを引き上げている。2型糖尿病を発症していても、検査を受けておらず気付いていない人が、欧州だけでも1,500万人に上るという。

糖尿病網膜症による視力障害は、治療をすれば80%は防げる

 糖尿病網膜症は、先進国でも働き盛りの年代の成人で失明の主な原因のひとつだ。しかし、検査を受け適切な治療を受ければ、80%以上は予防が可能だ。

 国際糖尿病連合(IDF)によると、糖尿病の人の3分の1以上は、糖尿病に起因する何らかの眼の疾患をもっており、圧倒的に多いのが糖尿病網膜症だという。糖尿病の罹病期間が長くなるにつれ、糖尿病網膜症の発症率は上昇する。

 糖尿病網膜症は初期の段階では自覚症状が乏しい。多くの人が視力障害により日常生活に悪影響を及ぼすまで、眼の血管に異常が起きていることに気が付かない。

 欧州では糖尿病の罹病歴が20年を超える患者の70%以上で、糖尿病網膜症の兆候がみられるという。糖尿病人口は世界的に急速に拡大しており、糖尿病網膜症を発症する患者も増えると予測されている。

糖尿病患者は「眼の検査」を受けることが重要

 血糖値を適正にコントロールし、高血圧や高コレステロールを防げば、糖尿病網膜症は予防できる疾患であることが分かっている。そのために、糖尿病の人は自覚症状がない段階でも、網膜症のスクリーニング検査を受ける必要がある。

 ほとんどの患者は適切な治療を受けていれば、糖尿病の合併症を長期にわたり防ぐことができる。合併症を発症すると、生活の質が著しく低下し、患者は多大な障害に苦しむことになり、医療費も膨れ上がる。患者の負担を減らし医療費の増加を防ぐために、もっとも効果があるのは合併症を予防することだ。

 IDFは、糖尿病患者は少なくとも年に1回、眼の検査を受けることを呼びかけている。検査で眼の異常が発見されたら、すぐに治療を開始することが重要だ。
Diabetes Eye Health

糖尿病網膜症を予防・改善するための4つの条件

 糖尿病による失明や視力障害は世界的に共通する重大な問題であることを啓発し、糖尿病患者の失明を防止するために、IDF欧州支部と失明防止のための国際機関(IAPB)が共同で、キャンペーン「ともに、もっと強く」(Stronger together)を10月に開始した。

 IDFは昨年、糖尿病医療に関わる医療従事者向けにガイドブック「糖尿病患者の眼を守る:医療専門家向けガイド」を発行した。ガイドブックでは、糖尿病網膜症を予防・改善するための4つの条件を挙げている。

糖尿病網膜症を予防・改善するために必要な4つの条件

1 糖尿病を治療し血糖コントロールを改善する

 糖尿病網膜症を起こしやすい状態として、血糖値が高い、1日の血糖値の変動(日内変動)が大きい。糖尿病に罹病歴が長い、高血圧や脂質異常を合併しているなどが挙げられる。HbA1c、空腹時血糖値、食後2時間の血糖値が高いほど、網膜症が悪化することも分かっている。

 発症を防ぐには、血糖値を良好にコントロールすることに加えて、高血圧や脂質異常を治療することも必要だ。

2 個々の患者に合わせた「個別化ケア」

 糖尿病治療の目標のひとつは「糖尿病であっても健康人と変わらない日常生活の質を保ち、健康人と変わらない寿命を確保すること」。しかし、より厳格な血糖コントロールを求めれば求めるほど低血糖リスクは高くなる。低血糖を起こさない個別化された糖尿病医療が必要とされている。

 高齢者の治療では数値目標にしばられることなく、個々の患者の状態に合わせた優先度を決めていくことも、血糖コントロールのポイントになる。糖尿病患者の病状、生活スタイルに合わせた「個別化ケア」を行うことが重要だ。

3 目の検査を受ける

 糖尿病合併症の進行は、できるだけ早期に発見して治療すれば抑えられる。そのため定期的に眼科で検診を受けることが必要となる。糖尿病患者は眼の検査を1年に1回以上受けるべきだ。検査は糖尿病網膜症を診断するために必要なだけでなく、眼の状態を正確に知るために必要となる。

 眼の検査の必要性と得られた診断を、糖尿病患者と、主治医や眼科医、看護師などの医療スタッフが共有すると、より効果的な治療を行えるようになる。

4 患者を支援する社会的サポートを整備

 糖尿病の治療の中心となるのは患者自身だ。糖尿病合併症を予防するために、糖尿病と診断されたら、運動療法や食事療法、必要に応じて薬を使った治療を行い、血糖値をコントロールすることが重要だ。

 そのために、社会的なサポートも必要となる。糖尿病患者が療養生活を続けられやすくするため、生活スタイルについて患者が医療専門家に相談しやすい環境を整備することが重要だ。

 パートナー、友人、家族に、健康を向上させるという決意を伝え、励ましと協力を得られると治療はうまくいきやすい。患者の家族をベースにした社会・心理的サポートが効果的であることを示した報告もある。

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