英国のテリーザ メイ新首相は1型糖尿病 「糖尿病でも何でもできる」

2016.07.15
 英国の首相に就任したテリーザ メイ氏は、英国史上2人目の女性首相であり、世界で始めて首相に就任した1型糖尿病患者でもある。「糖尿病であることは、何に対しても障壁にならない」と語っている。
 英国の首相にテリーザ メイ氏が7月13日に就任した。メイ氏は英国の与党である保守党の新党首にも就任。女性首相は英国史上2人目で、故マーガレット・サッチャー氏以来となる。

 英国は、EU(欧州連合)からの離脱を決めた国民投票で混迷しており、国の舵取りを任されるテリーザ・メイ氏の挙動に注目が集まっている。

 テリーザ メイ首相は1型糖尿病患者でもある。英国糖尿病学会(Diabetes UK)のインタービューに答え、「糖尿病であることは、何に対しても障壁にならない。糖尿病だからといって諦めなければならないことはないと、多くの人に知って欲しい」と答えている。

首相に就任した世界ではじめての1型糖尿病患者

 テリーザ メイ首相は1型糖尿病と診断された後も、責任の重い職務に就いてきた。「糖尿病のせいでコンディションが悪化することはない」と強調している。

 英国の医療制度では、公的医療はフリーアクセスではなく、機能分担が徹底されている。患者は、自ら登録を行った総合診療医でありかかりつけ医である「GP」によって、プライマリヘルスケアが提供される。

 メイ氏は、内務大臣を務めていた2012年11月に重い風邪にかかった。まず考えたのは、GPの診療を受けることだった。同じ頃に夫も風邪をひき気管支炎を起こしており、同じ症状があらわれるのをおそれていた。

 このときのGPの診断が彼女の人生を変える重要なものになるとは思いもよらなかった。彼女にはすでに顕著な体重減少など、糖尿病の典型的な症状があらわれていたが、2012年はちょうどロンドン・オリンピックの年で仕事が忙しく、「多忙なため疲労している」とGPに説明した。

 返ってきたGPの言葉は思いもよらないものだった。GPは即座に血液検査を行い、その結果から診断し、「あなたは糖尿病を発症している」と告げた。

 メイ氏にとってはショックな出来事だったが、落ち着いて考えると、糖尿病の発症時の典型的な症状がいくつもあらわれていた。体重が急に減少し、水を大量に飲み、トイレに頻繁に行く日々が続いていた。

1型糖尿病だからできないことはない 何にでもチャレンジしよう

 「その年の夏にオリンピックが開催され、毎日の仕事のオーダーが異なっていた。さまざまなことが進行中で、自分の体を気づかう余裕がなかった。糖尿病の診断は晴天の霹靂だった」と、メイ氏は言う。

 彼女はまず2型糖尿病と診断されたが、処方された血糖降下薬は効果がなかった。すぐに、インスリン療法が開始され、診断名は1型糖尿病に変わった。メイ氏は56歳になっていた。

 「1型糖尿病は若い人が発症する病気だと思っていたので、"なぜ私がこの年齢で発症したのか"と混乱した」と、メイ氏は言う。実際には、1型糖尿病が若年者のみが発症する疾患というのは誤解で、1型糖尿病と診断された人のうち5人に1人が40歳以上で発症している。

 「しかし、すぐに気を取り直して、インスリン注射を毎日行うことを受け入れ、自分が何をしなければならないかを実際的に考えるようになった」という。治療内容は経口薬の服用から、1日2回のインスリン強化療法に切り替わった。注射回数はすぐに4回に増えた。

 いとこが10歳代の頃に1型糖尿病を発症し、血糖コントロールの重要さを身近に見ていたので、実際的なことを学ぶのにそれほど時間はかからなかった。「それでも、戸惑うことはあった。インスリン注射をすると低血糖が起きることがあり、そうした場合はすぐにブドウ糖を摂取する必要がある。多くの人は、糖尿病の人は砂糖を摂らない方が良いと考えているが、逆に砂糖が必要なときがあるというパラドックスを理解していない」。

糖尿病とともに生きる 糖尿病はコントロールできる病気

 メイ氏は内務大臣時代に、糖尿病のコントロールをしながらコンディションを調整する方法を学んだ。内務大臣の仕事をこなしながら、糖尿病とうまく付き合うのを学ぶのは、ユニークなチャレンジだったという。

 「職務の都合上、会食をしながら会議をする機会が多く、ディナーなどで講演や演説をしなければならないこともある。英国下院の議会で補食をとらなければならないときもあった。そうした必要に応じて対処できるようにするため、私は大いに鍛えられた」と、メイ氏は言う。

 しかし、特別なことをしているわけではなく、内務大臣から首相に変わった現在も、糖尿病の基本的なマネージメントのやり方は、すべての1型糖尿病患者と同じだ。「重要なのは、毎日のインスリン注射と血糖自己測定をしっかり行うこと、日課をこなし続けること」だという。

 「私は基本的には食事の席ではインスリン注射を行わないが、食事中の注射に関してはオープンな考えをもっている。ただし、注射が必要なときは、同席している人にそれが必要であることを伝え、断ってから行った方が良いと思う」。

 糖尿病については、英国のボート選手であるスティーヴ レッドグレーヴ氏の影響を強く受けているという。レッドグレーヴ氏は1型糖尿病と闘いながら、5大会連続でオリンピックの金メダルを獲得した。

 メイ氏は、オリンピック出場選手の会合でレッドグレーヴ氏に知り合い、糖尿病とともに生きながら誰からも賞賛される実績を得ている生き方を知り、「非常に感動した」という。「1型糖尿病とともに生きる人々に勇気を与える、とても立派な活躍をしている」。

「糖尿病であるからできないことは何もない」ことを知って欲しい

 メイ氏は「1型糖尿病であることは、政治家としてのキャリアにおいて否定的なものではない。むしろ生活スタイルを調整しながら、糖尿病をコントロールしていることを多くの人に示せることに意義がある。糖尿病をコントロールしながら、内務大臣や首相の職務をこなしていることを多くの人に示すチャンスだ」と考えている。

 「糖尿病だから諦めなければならないことは何もない。多くの人に"糖尿病であるからできないことは何もない"ことを知って欲しい」と強調している。

 糖尿病の人が普通に生活していることを示すことが、糖尿病に対する適正な理解を促す効果的な手段になる。そのことは、これから糖尿病と診断される人にとっても大きく役に立つ。

 メイ氏は、英国糖尿病学会が主催している小児の糖尿病患者の学校生活を支援するキャンペーンを支援している。「糖尿病について多くの人に適切な知識をもって欲しい。私は休日には夫とともにスイスを訪れ、活発に歩き回っている。糖尿病であることは、望んでいることを妨げる障壁にならない」としている。

 英国の一部のメディアではテリーザ メイ氏について「1型糖尿病なので、首相という職務に就くのは不適切ではないか」という報道がされたという。これに対し、英国糖尿病学会(Diabetes UK)は「メイ氏は首相に就任した世界ではじめての1型糖尿病患者だが、糖尿病であることが首相に適さないことは断じてない」と、声明を発表した。

 「1型糖尿病であることは、深刻な健康上のコンディションだが、良質で効果的なケアとサポートで管理できることを、多くの患者が示している。メイ首相をはじめとして、指導者、医師、教師など、あらゆる職業に1型糖尿病患者は就いている。英国の1型糖尿病患者数は約40万人。生活スタイルを調整し適切な治療を続ければ、成功したキャリアを維持して、ゴールと目標を達成することが可能だ」と強調している。

 ラグビープレーヤーのクリス ペヌル氏、フットボール選手のベン コカー氏、ニュースキャスターのスティーヴン ディクソン氏も1型糖尿病であることが知られる。「メイ首相は1型糖尿病であることを公に明らかにしており、世界中の糖尿病患者に勇気を与えている。1型糖尿病とともに生きることが人生において障壁とならないことを示したすばらしい例だ」と、英国糖尿病学会のロビン ヒューイング氏は述べている。

Theresa May proves Type 1 diabetes is no barrier to achievement(英国糖尿病学会 2016年7月13日)

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