糖尿病治療の流れと最適な治療薬の選択 「リラグルチド」の心血管アウトカム試験の結果から

2016.07.04
 ノボ ノルディスク ファーマは、6月に都内でプレスセミナーを開催。6月10~14日にニューオリンズで開催された第76回米国糖尿病学会(ADA 2016)で発表された、LEADER試験の結果を紹介した。
 LEADER試験では、GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(ビクトーザ®)が2型糖尿病患者における主要な心血管イベントの発生リスクを低下させることが示された。

心血管疾患リスクの抑制が確認された唯一のGLP-1受容体作動薬

 LEADER*試験は、リラグルチド(0.6-1.8mg)の長期の影響を検討した、国際共同、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照比較試験。心血管イベントの発生リスクが高い2型糖尿病患者に対して、リラグルチドあるいはプラセボを標準治療に追加投与した。32ヵ国の410ヵ所から9,340人(リラグルチド群 4,668人、プラセボ群 4,672)の2型糖尿病患者が参加し、2010年9月に開始されフォローアップ期間は3.5~5年間だった。
* the Liraglutide Effect and Action in Diabetes: Evaluation of Cardiovascular Outcome Results

 リラグルチドによる治療はプラセボと比較して心血管イベントを低下させることが示された。リラグルチドは血糖コントロールの改善と心疾患リスクの抑制という、ともに糖尿病の標準的治療で求められる主要な効果をもたらす、現在、唯一のGLP-1受容体作動薬であることが明らかになった。

 同試験では複合的な主要評価項目を、心血管死、非致死性の心筋梗塞、非致死性の脳卒中のいずれかが発現するまでの時間とした。主要評価項目の発生リスクは、リラグルチド群でプラセボ群に比べ13%少なく、有意差をもってリラグルチド群で優れていることが示された(ハザード比0.87、95%CI 0.78~0.97、p=0.01)。
 心血管死についてはリラグルチド群はプラセボ群に比べ22%リスクを有意に低下させた(ハザード比0.78、95%CI 0.66~0.93、P=0.007)。

 同様に非致死性心筋梗塞は12%(ハザード比0.88、95%CI 0.75~1.03, p=0.11)、非致死性脳卒中は11%(ハザード比0.89、95%CI 0.72~1.11, p=0.30)リスクを低下させたが統計学的に有意ではなかった。

 全死亡についてもリラグルチド群ではプラセボ群に比べ15%(ハザード比0.85、95%CI 0.74-0.97、P=0.02)。拡大心血管エンドポイントではリラグルチド群ではプラセボ群に比べ12%リスクが低下した(ハザード比0.88、95%CI 0.81~0.96、p=0.005)。拡大心血管エンドポイントには、(1)不安定狭心症による入院、(2)冠動脈血行再建術、(3)心不全による入院が、主要評価項目3項目に加わる。

 腎障害のリスクはリラグルチド群でプラセボ群に比べ22%低かった(ハザード比0.78、95%CI 0.67-0.92、P=0.003)。アルブミン尿、血清クレアチニン値の倍化、末期腎不全、腎関連死亡のいずれかが発現するまでの時間を比較した。

 なお、リラグルチドの日本における承認最大用量は0.9mgで、海外用量とは異なる。

糖尿病治療の流れは「患者中心の治療」(Patient-Centered Approach)へ

 リラグルチド(ビクトーザ®)は、2009年に欧州で上市され、2016年時点で世界80ヵ国以上で発売され、世界で300万人・年以上の2型糖尿病患者に投与されているGLP-1受容体作動薬。米国糖尿病学会(ADA)によると、▽食後血糖を含めた血糖降下作用に優れる、▽HbA1cの目標の達成度が高い、▽体重増加が少ない、▽単独では低血糖を起こしにくい――といった特徴がある。

 LEADER試験の結果について、関西電力病院総長で関西電力医学研究所所長の清野裕氏が解説した。清野氏は最近の糖尿病医療の動向として、「患者中心の治療」(Patient-Centered Approach)が重要視されていることを指摘。

 2型糖尿病の究極の治療目標は、糖尿病でない人と何ら変わりない、自立した健康寿命を全うすることであることに間違いはない。しかし、それを目指すには、いずれの治療プログラムにおいても、生活習慣の改善を主眼においた教育を基本とし、必要に応じて薬物治療で補い、患者に応じたアプローチにより治療方法や目標を個別化することが必要だ。

 「患者中心」とは、個々の患者の生活習慣病、価値観、ニーズを尊重し、それらに対応しているということ。また、患者の価値観が臨床上で決定される事項、つまりライフスタイルや治療薬などの選択に必ず反映されることを意味する。

 食事療法、運動療法、患者教育が2型糖尿病の治療の基本であることは変わらないが、「患者中心の治療」では、個々の最適な血糖コントロールの目標は、患者の病態、治療薬による副作用のリスク、合併症の有無などにもとづき設定される。

 また、包括的な心血管リスクの軽減を治療の中心に据えるべきだとしている。そのうえで、治療法について医師と患者がよく話し合い、可能な限り患者も治療法の選択に関わることが重要となる。
 第76回米国糖尿病学会では、LEADER試験の成果を含め多くの発表が行われた。「今後、日本においてもGLP-1受容体作動薬の使用経験が蓄積され、有用性・安全性のエビデンスが蓄積されることが期待される」と、清野氏は述べている。

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