かかりつけ医と腎臓専門医が“一緒に診るCKD診療”を!
~12年ぶり改訂の「CKD診療ガイド2024」のトピック~
第2回CKDチーム医療と“二人主治医制”のすすめ

日本大学 医学部
内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野 阿部雅紀 先生
2024年に日本腎臓学会編集の「CKD診療ガイド」が12年ぶりに全面改訂されました。そこで糖尿病リソースガイドでは、CKD診療ガイドの改訂委員を務めた阿部雅紀先生にインタビューを実施。今回は連続2回の第2回目です。
前回は、CKDに有用な新薬が多数存在している現在、日常診療の中でCKD診療にどのように取り組めばよいのかを、CKD診療ガイドの注目すべきポイントと共に伺いました。
今回は、改訂に関するトピックに加え、クリニカル・イナーシャやチーム医療、かかりつけ医と専門医の連携について先生のお考えをお話しいただきました。
提供:株式会社ヴァンティブ メディカルアフェアズ部
腎臓病領域では初めて「シックデイ」を記載
今回の「CKD診療ガイド2024」では、腎臓領域としては初めて「シックデイ」に関することが記載されたのも改訂ポイントのひとつです。シックデイは糖尿病領域の先生方にはよく知られており、病状に伴い休薬の指導をされています。しかし、腎臓領域では以前は治療薬がRAS阻害薬くらいしかなかったこともあり、シックデイに伴う休薬という概念がほとんどありませんでした。
医療機関にアクセスしやすい日本では、体調が悪ければすぐに受診できるため、あえて前もって患者さんに休薬するように言う必要はない、と考えられてきたのです。ところが近年、猛烈な暑さによる熱中症や脱水で急性腎障害を起こす患者さんが後を絶ちません。
また、CKDに有用な新規薬剤も続々と登場してきました。このような背景のもと、今回の改訂では「シックデイにおける薬物の中止」という項が追加されることになりました。糖尿病薬でもありCKD治療薬でもあるSGLT2阻害薬は、脱水状態ではケトアシドーシスのリスクが高まるため、糖尿病治療を目的として使っている場合は休薬し、CKD治療を目的とする場合は、休薬を検討することなどが記されています(図1)。
図1:CKD患者のシックデイ対策:脱水状態時に注意を要する薬

薬の追加に抵抗する患者さんへの対応
ところで、CKD患者さんは治療薬を多種類服薬していることが多く、医師が治療を強化するために薬を追加しようとすると、抵抗されるケースが少なくありません。こうしたことは、特に血圧管理や血糖管理を強化したい際によく経験します。
もちろん、適宜投薬を見直して不要な薬を排除することは必要です。しかし、医師が必要と考えて提案している薬も、患者さんはその必要性を理解する前に「薬を増やさなくても食生活を含めた生活習慣を改善すればいい」と考えがちで、薬を増やすことに納得いただけないことがあります。患者さんにとっては錠数が増えるのも、それによって費用が増えるのも負担に感じられて嫌なのです。
その結果、必要な強化ができないまま、漫然と治療が続けられることになります。いわゆる「クリニカルイナーシャ(Clinical Inertia:臨床的惰性)」という状態です。また一方では、患者さんが追加処方を受け入れたものの実は自宅で飲んでいなかった、というケースもありがちです。
この問題への最適解は、患者さんに治療強化がなぜ必要なのかを理解してもらう。そこに尽きると思います。たとえば、血圧の領域では1種類の薬を増量するよりも作用機序の異なる別の薬剤を併用したほうが効果が高いため、私は治療開始時に「1剤で始めますが、いずれ何種類か組み合わせていきますよ」と、患者さんにあらかじめお話ししています。あるいは追加の際に、単剤から合剤に切り替える方法もあります。これだと錠数が変わらないため患者さんは安心なようです。
ただ、限られた診療時間の中、医師だけの力で薬剤の必要性を理解してもらうのは簡単なことではありません。アドヒアランス向上のためにはチーム医療で取り組むことが有効であり、特に薬剤師さんの服薬指導に期待したいところです。2024年度(令和6年度)の診療報酬改定で「慢性腎臓病透析予防指導管理料」(図2)が新設されましたが、算定要件である「透析予防診療チーム」の職種のなかに薬剤師が盛り込まれていないことを残念に思います。
図2:令和6年度診療報酬改定で算定された「透析予防診療チーム」の設置

チーム医療は治療効果を上げる
「慢性腎臓病透析予防指導管理料」の新設に先立って、私たちはチーム医療による集学的治療の効果を検証し、論文にまとめました。糖尿病には2012年度から保険算定がありましたが、糖尿病性腎症以外のCKD患者さんに対するチーム医療は、これまで保険算定することができませんでした。
CKDにおけるチーム医療の重要性は以前から広く認識されており、2017年には腎臓病療養指導士制度もできました。しかし、指導士の資格をもつスタッフがチームに参加していても、医療機関には何ら経済的メリットがありませんでした。せめてチーム医療の取り組みを保険で評価してほしいのですが、そのためのエビデンスがないという状況でした。そこで、24施設に登録された約3,000名の患者さんを対象とする全国規模の研究を行い、チーム医療の効果が実際にあるかどうかを検証しました。
CKDステージG3~G5の日本人CKD患者さん3015人のチーム医療介入開始1年前および開始2年後の推算糸球体濾過量(eGFR)と、尿たんぱくの変化を調べたところ、チーム医療による介入は、原疾患を問わずeGFR低下を有意に遅らせ、有効であることがわかりました(図3)。
図3:チーム医療介入による推算糸球体濾過量(eGFR)低下速度の変化

私が勤める日本大学医学部附属板橋病院には、現在16名の腎臓病療養指導士がいます。これまでの外来では医師が検査結果を見て、カリウムの高い食品を摂っているかどうかを患者さんに聴取してアドバイスし、薬を調整するといった5分程度の診察で、医師から患者さんへの一方通行のコミュニケーションとなっていました。それが、多職種のチームでかかわることによって、飛躍的に多くの情報が医師の耳に入るようになりました。
たとえばいくら薬を増やしても血圧が下がらない患者さんが、実は梅干を毎日何個も食べていたというような、患者さんが診察室では決して言わないリアルな情報が入ってくるのです。運動療法の指導も、医師は「1日15分運動してください」と言うだけですが、看護師は患者さんが普段どんな運動をしているのかを聞いてラジオ体操をすすめたり、目標歩数を教えたりと、具体的なアドバイスをしています。
こうしたことで治療効果が明らかに変わるのを目の当たりにして、私自身、非常に視野が広がりました。やはり多職種の協力は重要で、これを医師一人でやるのはとても無理でしょう。
二人主治医制は患者にとっても医療者にとっても理想的
最後に、専門医への紹介のタイミングについてお話しします。「CKD診療ガイド2024」には、CKDステージG3b以上の患者さんは基本的に腎臓専門医に紹介すること、またそれ以外でも3か月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は速やかに紹介するよう記載されています(図4)。特に1年間にeGFRが5mL/分/1.73m2以上低下する「rapid progression」は予後の悪化が予測されるため、早めに専門医に紹介していただく必要があります。微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿へと蛋白尿が増加している方、肥満を合併している方、高血圧の治療を開始しているにもかかわらず降圧が不十分といった患者さんはrapid progressionとなりやすいので注意が必要です。
図4:かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準

そしてCKD患者さんを専門医に紹介した後ですが、理想的なのは紹介して終わりではなく、腎臓専門医と、かかりつけ医の先生とが役割分担をしながら連携をしていくことです。CKDの診療は基本的に腎臓専門医が行い、軽い風邪をひいたときや予防接種などはかかりつけ医の先生に診ていただく。そうすることで、遠方の腎臓内科に通院する患者さんの負担が減りますし、患者さんやご家族の暮らしの状況や価値観をご存じのかかりつけ医の先生に連携していただければ、腎臓内科医は個々の患者さんの背景をしっかり理解しながら治療を進めていくことができます。また、専門医の負担は軽減され、かかりつけ医にとっては患者さんを減らすことなく最後まで診ることにもつながるでしょう。当院に紹介してくださるかかりつけ医の先生方の中には、このような役割分担をしながらG4、G5の患者さんを一緒に診てくださる先生もいらっしゃいます。いろいろな事情で双方向の連携が取れない先生方もいらっしゃると思いますが、二人主治医制は患者さんにとっても医療者にとっても理想的だと思います。
ただ、腎臓専門医の少ない地方では状況が異なります。患者さんが腎臓専門医を受診しようと思っても車で2~3時間かかってしまう。そのような状況があるなかで、腎臓病療養指導士は、腎臓専門医がいない地域でかかりつけ医と専門医とをつなぐ役割を果たし、ひいてはCKD診療の地方格差の是正につながることが期待されています。
地方のCKD診療には、腎臓専門医の増員など、まだまだ大きな課題があります。かかりつけ医の先生にもCKD診療の前線に立っていただかなければならない状況もあるでしょう。「CKD診療ガイド2024」は腎臓専門医がいなくてもCKD診療ができる内容になっていますので、専門医の少ない地域の先生にこそ活用していただきたいと思います。
まとめ
- ・チーム医療は透析導入予防に効果がある
- ・rapid progressionに注意が必要
- ・二人主治医制は患者さんにとっても、医療者にとっても理想的な連携
- ・専門医の少ない地方のかかりつけ医の先生にこそ「CKD診療ガイド」を活用してほしい
日本大学医学部内科学系 腎臓高血圧内分泌内科学分野
阿部雅紀(あべ まさのり)
日本大学医学部1997年卒。2007年日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科助教、日本大学医学部付属練馬光が丘病院透析室長。2014年日本大学医学部内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野准教授。2016年から主任教授。日本大学医学部附属 板橋病院では腎臓・高血圧・内分泌内科 部長、透析室室長。慢性腎臓病に対する腎代替療法(血液透析、腹膜透析)、急性血液浄化療法、アフェレーシス治療を得意とする。主な認定医に日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医。今回取り上げた「CKD診療ガイド2024」「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では改訂委員も務めた。
提供:株式会社ヴァンティブ メディカルアフェアズ部