糖尿病診療・支援のための腎臓病リスキリング 慢性腎臓病と SDM*

かかりつけ医と腎臓専門医が“一緒に診るCKD診療”を!
~12年ぶり改訂の「CKD診療ガイド2024」のトピック~

第1回新規治療薬を使ってCKDを診る

日本大学 医学部
内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野 阿部雅紀 先生

 2024年6月、日本腎臓学会編集の「CKD診療ガイド」が12年ぶりに全面改訂されました。

 糖尿病性腎症を含めた糖尿病関連腎臓病(DKD)は、慢性腎臓病(CKD)の中でも透析導入へ至る最多の原疾患であり、かかりつけ医の先生方もDKDの患者さんを診ることが多いのではないでしょうか。

 CKDに有用な新薬が多数登場した現在、日常診療の中でCKD診療にどう取り組めばよいのか。最新版のCKD診療ガイドから注目すべきポイントを阿部雅紀先生に語っていただきました。
 2回連続インタビューの第1回目です。

提供:株式会社ヴァンティブ メディカルアフェアズ部

「CKD診療ガイド」「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」の違い

 日本腎臓学会ではCKD診療に関して「ガイドライン」と「ガイド」を発行しています。一つは、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」で、2023年版が最新刊です。もう一つは、2024年に改訂した「CKD診療ガイド」です。前者は「エビデンスに基づく」という名の通り、過去のRCTやメタ解析などを網羅的に掲載し、論文やそのデータ解析に重点を置いており、非腎臓専門医の先生方から見ると少し詳しすぎると感じられるかもしれません。

 一方、「CKD診療ガイド」はガイドラインが網羅している範囲を概ね踏襲しつつ、かみ砕いた形で書かれていますので、腎臓を専門としていない先生方やメディカルスタッフの皆さんが理解しやすいと思います。
 CKDは早期発見、早期介入が患者さんの予後を向上し、透析予防につながります。CKD診療ガイドには日頃、糖尿病をはじめ生活習慣病をもつ患者さんを数多く診ておられるかかりつけ医の先生方に、いま一度CKDの概念や診断基準、管理の方法を知っていただきたいという思いが込められています。

「CKD診療ガイド2024」の改訂ポイント

 今回の改訂で新たに加わった項目として「腎代替療法に関する共同意思決定」があります。CKDステージG4になった段階で患者さんに腎代替療法(RRT)を説明するときに用いる共同意思決定(SDM)についてのことが記載されています。

 また、CKD重症度区分のG5が、「末期腎不全」から「高度低下~末期腎不全」へと変わりました。海外では糸球体濾過量(GFR)15mL/分/1.73㎡を透析開始の基準としている国がいくつかありますが、日本では推算糸球体濾過量(eGFR)15mLですぐに透析を始めることは稀です。この状況を踏まえて「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」からは「高度低下」という言葉が入りました。「診療ガイド2024」もそれを踏襲しました。

 海外では透析の早期導入によって患者さんがより長生きできるという報告がいくつかあったのですが、海外でランダム化比較試験を行ったところ、早期導入でも晩期導入でも患者さんの生存時間には変わりがないということがわかりました。ならば、医療経済的にも患者さんの負担を考えても遅く始めた方がいい。ということで、可能な限り透析導入の時期は遅らせるというコンセンサスが得られ、我が国の実勢としてはeGFR5~8mL/分/1.73㎡で始めることが多くなっています。

 実臨床では透析開始の判断に以下の厚生労働省の透析導入基準が用いられています。eGFR10未満は30点、7項目の臨床症状が3つ以上当てはまる場合に30点、日常生活に障害があれば10~30点。これらを合計して60点以上が透析開始の基準です。とはいえ60点ぎりぎりで透析を始めることは多くなく、尿毒症の症状が現れてから始めます。概ね70~80点で始めることが多いです。

 無症状のうちに「透析を始めましょう」と言っても、患者さんは「まだ元気なのに…」と思うわけで、なかなか納得してもらえるものではありません。たとえ無症状のうちに透析を開始しても、体調は何も変わらないということになります。透析により体調が改善されてこそ、透析医療のありがたみを感じていただけます。最悪の場合、透析に来院しなくなるなどの懸念もあります。

CKDなのにCKDと診断されていない患者さんがいる

 ところで、2024年の統計ではCKD患者数は推計約2000万人となり、成人5人に1人の割合まで増えています。そして主な原疾患も慢性糸球体腎炎ではなく、糖尿病性腎症や高血圧に由来する腎硬化症など、生活習慣病が背景の方が増えてきています。この記事を読んでおられる先生方は高血圧や糖尿病をもつ患者さんを大勢診ていらっしゃると思いますが、その患者さんの中にCKDを発症しているのにCKDと診断されないまま血圧管理や血糖コントロールのみに留まっている方はいらっしゃらないでしょうか。

 CKDの診断は決して難しいものではなく、eGFR(60mL/分/1.73m2未満)と尿蛋白クレアチニン比(0.15g/gCr以上)の2つで簡単に診断できます。

 尿定性検査で±の場合はこれまで見逃されがちでしたが、±はすでに腎機能の異常があることを意味するため、今回の診療ガイドの改訂では「±が2年連続したら介入が必要」ということが強調されています。

 微量アルブミンは、糸球体が障害されていることの現れです。これについては少しでも出ていれば治療を開始する必要があります。CKDを見逃さないためにも、ぜひ定期的に尿アルブミンの測定をしていただけたらと思います。測定の頻度は正常アルブミン尿であれば年に1~2回、微量アルブミン尿であれば3~6か月に1回が望まれます。せっかく検査をしても、その後の検査頻度が少ないためにCKDの発見が遅れ、腎機能がかなり低下してから私たち腎臓専門医に紹介されるケースもあります。もし尿定量検査のハードルが高いのであれば、せめて尿定性検査だけでもよいので検査をしていただきたいです。

CKD診断基準:健康に影響を与える腎臓の構造や機能の異常(以下のいずれか)が3か月を越えて持続

出典:CKD診療ガイド2024, p.6

SGLT2阻害薬とMR拮抗薬(MRA)の使い方

 この12年の間には、CKDに有用な新たな薬剤がいくつも登場しています。CKD診療ガイド2012年版では、糖尿病性腎症の患者さんには蛋白尿の改善と腎機能低下を軽減する効果があるACE 阻害薬やARB(RAS阻害薬)が第一選択薬とされています。2024年版では、これに新しく登場したSGLT2阻害薬と、MRA(非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬・MR拮抗薬)が加わりました。

糖尿病関連腎臓病(DKD)の治療

出典:CKD診療ガイド2024, p.39
※クリックすると拡大できます

 これら薬剤の使い分けは、どの観点で見るかで異なります。

 糖尿病患者さんに高血圧があり蛋白尿が出ていれば、RAS阻害薬を使って血圧の管理を始めます。RAS阻害薬を投薬しても蛋白尿がまだ残っている場合は、SGLT2阻害薬を追加します。SGLT2阻害薬はもともと血糖降下剤で糖尿病の治療薬ですが、蛋白尿を減らしてGFRの保持が期待でき、腎臓領域においてはむしろ腎保護効果が注目されています。そして高齢患者さんにも使うことができます。

 この2剤を併用してもまだ蛋白尿が改善しない場合は、MRAを追加します。最近の話題として、MRAは蛋白尿を減らしてGFRを保持するというエビデンスが出てきました。

 一方血圧管理の観点では、RAS阻害薬だけで降圧目標に達しない場合、カルシウム拮抗薬や利尿薬を追加します。

 また、2型糖尿病を合併したCKD患者に対する糖尿病治療薬としては、SGLT2阻害薬とメトホルミンが推奨されています。これらで効果が不十分な場合や、肥満の患者さんには、GLP-1受容体作動薬を追加します。GLP-1受容体作動薬についても、血糖値や体重を下げつつ蛋白尿を改善し、GFRも保持するというエビデンスが出てきています。

SGLT2阻害薬の留意点

 SGLT2阻害薬もMRAも、内服を開始すると一時的にeGFRが低下します。“Initial dip”といい、これがあるために使いづらいと感じる先生方もいらっしゃると思います。

 SGLT2阻害薬の場合、CKDの患者さんではeGFRは3~5程度下がります。腎機能が正常でも、6~8程度下がります。SGLT2阻害薬はもとよりeGFR15以下での新規開始は禁忌ですが、感覚的にはeGFR30以下では躊躇します。eGFRが45から40に下がるのと、30で始めて25に下がるのとでは、心配の度合いが違います。ですから、使い始めの腎機能がどれくらいあるかがこの薬を選択するかどうかのポイントで、判断に迷われる場合は、腎臓専門医に相談されてもよいと思います。実際、私の施設にも、「SGLT2阻害薬を使ってよいか」という相談で紹介されることもままあります。

 そしてSGLT2阻害薬を開始する場合には、使い始める前に、「いったんクレアチニンが上がったりeGFRが下がったりすることがよくあります」と患者さんに伝えておくことも大切です。次の受診日にeGFRが下がっていたら、「これは想定の範囲内の低下なのでもうちょっと続けましょう。2回目、3回目も下がり続けたらやめましょうね」。こんな感じで患者さんに理解してもらいながら、まずは半年ほど続けてみるのがよいのではないかと思います。

高カリウム血症に注意が必要なMRA

 MRAにもInitial dipはありますので、SGLT2阻害薬同様に比較的腎機能が保たれている患者さんには導入しやすいと言えます。ただMRAは高カリウム血症が起きる可能性があります。特に、MRAの導入前にRAS阻害薬で高カリウム血症を起こしている方には注意が必要です。過去に高カリウム血症を起こしたことがある患者さんは何度も繰り返す傾向があるからです。その点で、血清K値が日ごろから低めの患者さんには導入しやすいのですが、血液検査の結果を即日出すことができない環境で診療されている先生方には少し敬遠される薬ではないかと思います。

腎性貧血治療薬に経口薬が登場

 また、今回の改訂では、貧血の目標Hb値について下限値の目安が10g/dLと新たに記載されました。腎機能が低下したCKD患者さんには腎性貧血が起こりやすいのですが、既存の治療薬のESAが注射薬であることもあり、10g/dL未満に下がっていてもなかなか治療が開始されないケースがありました。

 近年、HIF-PH阻害薬が登場し、こちらは経口薬ですから、かかりつけ医の先生方も治療を開始しやすくなりました。前回までは、腎性貧血については「腎臓専門医に紹介する」という表現だったのですが、今回はそれを改めて「投与開始時期と投与量は腎臓専門医に“相談して決定する”ことが望ましい」と記載しています。

―――次回は腎臓専門医への紹介のタイミングや、チーム医療のメリットなど、CKDの診療体制についてお話しいただきます。


まとめ

  • ・日本人のCKD患者は2000万人に増加。早期発見のため、高血圧や糖尿病患者にも尿蛋白検査の実施を
  • ・腎保護効果のあるSGLT2阻害薬、MRAは使い始めの腎機能レベルがポイント
  • ・過去に高カリウム血症を起こした患者さんのMRA投与は要注意
  • ・腎性貧血もかかりつけ医で治療が可能

日本大学医学部内科学系 腎臓高血圧内分泌内科学分野

阿部雅紀(あべ まさのり)

 日本大学医学部1997年卒。2007年日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科助教、日本大学医学部付属練馬光が丘病院透析室長。2014年日本大学医学部内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野准教授。2016年から主任教授。日本大学医学部附属 板橋病院では腎臓・高血圧・内分泌内科 部長、透析室室長。慢性腎臓病に対する腎代替療法(血液透析、腹膜透析)、急性血液浄化療法、アフェレーシス治療を得意とする。主な認定医に日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医。今回取り上げた「CKD診療ガイド2024」「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では改訂委員も務めた。

提供:株式会社ヴァンティブ メディカルアフェアズ部