重症COVID-19患者に対する「フサン」と「アビガン」の併用療法 8割以上が軽快しICU退室という結果に

2020.07.09
 集中治療室(ICU)での治療を必要とする重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に、膵炎治療薬の「フサン」(一般名:ナファモスタットメシル酸塩)と、抗インフルエンザ薬の「アビガン」(一般名:ファビピラビル)を併用投与したところ、11例中9例(82%)がICUを退室することができたと、東京大学病院救急科教授の森村尚登氏らの研究グループが発表した。研究成果は、医学誌「Critical Care」のオンライン版に発表された。

両剤併用により相加的な効果を期待

 アビガンはRNAポリメラーゼを抑制することでSARS-CoV-2のヒトの細胞内での増殖を抑制すると考えられている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬候補として国内外で臨床試験が進められているが、国内では臨床試験および治験は完了していいない。

 フサンは抗凝固薬や膵炎治療薬として国内で使われてきた薬剤だが、東京大学医科学研究所の研究でウイルスのヒトの細胞への侵入を抑制することが発見された。

 東京大学医学部附属病院は今回、フサンをCOVID-19に対する治療薬候補として選択し、アビガンとの併用によって、肺炎を発症し集中治療室(ICU)での治療を必要とした重症のCOVID-19症例に対してコンパッショネート(人道的)使用による治療を行った。

 フサンとアビガンはウイルスの増殖過程における作用部位が異なることから、両剤を併用することで相加的な効果が期待される。

 また、COVID-19の一部の患者では、血管内での病的な血栓の形成が病気の悪化に関与していると考えられ、フサンの抗凝固作用が有効だと期待されている。

11例中10例が軽快 人工呼吸器使用7例が16日で人工呼吸器不要に

 同病院は、フサンとアビガンをICUでの管理が必要となったCOVID-19の重症患者11例(2020年4月6日〜21日に入院)に投与し、臨床経過を観察した。11例のうち8例が人工呼吸器を必要とし、このうち3例でECMOを使用した。

 患者は中央値68歳、男女比は10:1だった。患者背景をみると、基礎疾患として高血圧4例、糖尿病3例、慢性閉塞性肺疾患(COPD)とがんがそれぞれ1例だった。

 フサンは0.2mg/kg体重/時で点滴静注・中央値14日間投与、アビガンは初日3,600mg/日、2日目からは1,600mg/日で中央値14日間投与した。

 その結果、フサンとアビガンの併用患者11例について、10例で臨床症状の軽快がみられた。軽快した症例は、人工呼吸器使用が7例、うち3例がECMOを必要としたが、平均16日で人工呼吸器が不要となった。

集中治療室でナファモスタット+ファビピラビル併用療法で
治療された重症新型コロナウイルス感染症の呼吸療法と転帰

出典:東京大学医学部附属病院、2020年

フサンとアビガンの併用治療の臨床研究は8施設で進行中

 海外の論文では、ICUでの治療が必要となったCOVID-19の症例では70~90%の患者が人工呼吸器を必要とし、死亡率は30~50%とされている。

 海外での重症COVID-19に対する治療と比較して、同病院では重症患者でも良好な経過をたどり、フサンとアビガンの併用の有効性が示唆された。

 今回の観察研究の結果から、SARS-CoV-2抑制に対するフサンとアビガンの異なる作用機序と同時に、フサンの抗凝固作用の有効性が示唆される。

 「アビガンの単独での効果は国内の臨床研究の結果が現時点では報告されていないことから、その評価は慎重を要しますが、フサンの単独の効果、ならびにフサンとアビガン併用効果の両方が考えられ、今後の臨床研究の必要性を示唆する結果となりました」と、研究グループは述べている。

 なお、フサンとアビガンの併用効果を観察する特定臨床研究は、今年5月より東京大学医学部附属病院をはじめ国内6施設で開始され、5月末時点では8施設で行われている。

 フサンとアビガンの併用効果を観察する特定臨床研究の詳細臨床研究実施計画・研究概要公開システム(jRCT)に登録され、同ホームページで情報が公開されている。

肺炎を有するCOVID-19患者に対するファビピラビルとナファモスタットメシル酸塩の併用療法(jRCT)
東京大学医学部附属病院
Nafamostat mesylate treatment in combination with favipiravir for patients critically ill with Covid-19: a case series(Critical Care 2020年7月3日)

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