糖尿病未診断のCOVID-19患者の空腹時高血糖は死亡リスクの上昇と関連 高血糖への早期介入が転帰を改善する可能性 中国・武漢から新たな報告

2020.07.16
 中国・武漢からの新しい報告で、糖尿病の診断歴のない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が高血糖であると死亡リスクが2倍以上に上昇し、重篤な合併症のリスクが高まることが明らかになった。
 「COVID-19患者は糖代謝障害を起こしやすく、高血糖に早期に介入することが、COVID-19の治療での転帰を改善するのに役立つ可能性がある」としている。

高血糖がCOVID-19患者の転帰不良と関連

 この研究は中国湖北省武漢の華中科技大学同済医学院附属病院および華中科技大学のYang Jin氏らによるもので、詳細は欧州糖尿病学会(EASD)学会誌「Diabetologia」に掲載された。

 過去の研究で、高血糖が市中肺炎、脳卒中、心臓発作、外傷、手術における死亡率の上昇と関連していることが確認されている。COVID-19患者の糖尿病と転帰不良との関連を示した研究も多い。

 しかし、糖尿病未診断のCOVID-19患者の入院時の空腹時血糖(FBG:fasting blood glucose)と臨床転帰との直接的な関連については不明だった。今回の研究で、Yang Jin氏らは武漢に拠点を置く2つの病院で、COVID-19患者の入院時のFBGと28日間の死亡率との関連を調べた。

 この後向き調査では、2020年1月24日~2月10日に、28日間の入院時にCOVID-19の症状が連続して認められた患者が評価された。登録されたCOVID-19患者は605例で、うち114例が病院で死亡した。年齢の中央値は59歳で、男性は322例(53.2%)だった。

 COVID-19患者の人口統計学的および臨床的なデータ、28日間の転帰、院内合併症、およびCRB-65スコアが分析された。CRB-65は肺炎の重症度を評価するためのスコアで、4つの項目にもとづいている[見当識障害のレベル、呼吸数(≧30/分)、収縮期血圧(≦90mmHg以下)または拡張期血圧(≦60mmHg)、年齢(≧65歳)]。

FBG高値群は死亡リスクが2.3倍上昇
高血糖が肺炎の重症度から独立して死亡リスクを増加

 計208人(34%)に糖尿病以外の基礎疾患が1つ以上あり、高血圧が最も多かった。ほぼ3分の1(29%)は、入院時にFBG高値のカテゴリー(126mg/dL)に分類され、これが持続すると2型糖尿病と診断された。さらに17%が前糖尿病とみなされる範囲(109.8~124.2mg/dL)にあり、半数以上の54%がFBG値が正常範囲(108mg/dL以下)だった。

 解析した結果、FBG高値群の患者は低値群に比べ、死亡リスクが2.3倍高く、統計的な有意性が示された。一方、FBG高値と低値の中間にある前糖尿病の群は低値群に比べ、死亡リスクが71%高かったが、境界的有意性のみが示された。

 さらに、男性の方が女性よりも75%死亡リスクが高いことが示された。また、CRB-65スコアが高い(肺炎の重症度が高い)患者も死亡リスクが高かった。死亡リスクは、CRB-65スコアが0の患者に比べ、3〜4の患者は5倍以上高く、1〜2の患者では2.7倍高かった。

 FBGとCRB-65を同時にみると、CRB-65スコアが0以上であるかどうかに関係なく、FBGが最高値の群では最低値の群に比べ、死亡リスクが増加し、COVID-19患者においてFBGが独立して死亡リスクを増加させることがさらに強調された。

 ただし、FBGが最高値の群での死亡リスクの増加は、CRB-65スコアが0の患者に比べ、スコアが0より大きい患者で高かった。合併症のリスクは、FBG値が最も低い群に比べ最も高い群で4倍高く、FBG値が中間の前糖尿病群でも2.6倍高かった。

COVID-19患者の空腹時血糖値(FBG)が7.0mmol/L(126mg/dL)以上
だと28日間の死亡率と合併症率が悪化する

出典:Diabetologia (2020)

COVID-19重症患者では高血糖と急性インスリン抵抗性の危険性が

 「今回の研究では、糖尿病未診断のCOVID-19患者において、入院時のFBG値が126mg/dL以上に上昇することは、28日間の死亡率が上昇し、院内合併症が増加することと独立して関連していることが初めて示されました。肺炎の重症度に関わらず、FBG値が126mg/dL以上であると死亡率が上昇することも示されました」と、Jin氏らは述べている。

 「これらの結果は、未診断の糖尿病患者と、急性血糖異常によって高血糖が引き起こされた糖尿病未診断の患者の両方に当てはまります。糖尿病未診断のCOVID-19患者の29%でFBG高値が発見されましたが、これは中国の一般集団での糖尿病の推定罹患率が12%であるのに比べ、非常に高い比率です」。

 「以前の研究でも指摘されていますが、COVID-19患者では、高血糖がなんからの原因によって引き起こされ、重症化した患者は、高血糖と高インスリンにより急性インスリン抵抗性を発症する危険性があります。COVID-19を発症することで、糖尿病を発症していない患者でも、重度の敗血症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、外傷性脳損傷など、異常に高い血糖値を示す傾向があります」。

入院時の空腹時血糖値が28日間の死亡率を予測

 なお著者らは、今回の研究は後向き研究である、HbA1c値の解析をしていないことなど、いくつかの制限があることを指摘している。HbA1cは長期の血糖コントロールの指標となり、ストレス性高血糖と区別するのにも役立つ。また、患者の転帰に対する血糖降下治療(インスリン、メトホルミンなど)の効果も十分に検証していない。

 しかし、「入院中のCOVID-19における急性高血糖症は、患者の予後を予測する上で、長期的な血糖コントロールよりも重要である可能性がある」と指摘している。

 死亡率の増加を引き起こすメカニズムとして、高血糖によって誘発される血液凝固の変化、血管内皮機能の悪化、および免疫系によって炎症性サイトカインが過剰に産生されるサイトカインストームなどが考えられるという。

 「糖尿病の事前診断のないCOVID-19患者において、入院時の空腹時血糖値126mg/dL以上は、28日間の死亡率を予測する独立した因子となります。COVID-19患者のほとんどが糖代謝障害を起こしやすく、血糖値の検査と管理は、既存の糖尿病の診断がない場合でも、すべてのCOVID-19患者に推奨されます。COVID-19のパンデミックの期間中に、空腹時血糖を測定することは予後の評価を改善し、高血糖に早期に介入することは、COVID-19の治療での全体的な転帰を改善するために役立つ可能性があります」と、Jin氏らは結論している。

Study links abnormally high blood sugar with higher risk of death in COVID-19 patients not previously diagnosed with diabetes(Diabetologia 2020年7月10日)
Fasting blood glucose at admission is an independent predictor for 28-day mortality in patients with COVID-19 without previous diagnosis of diabetes: a multi-centre retrospective study(Diabetologia 2020年7月10日)

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