糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第39回 心血管病変および心不全抑制効果が期待される「GLP-1受容体作動薬」

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 65(2020年7月1日号)

 糖尿病患者は心筋梗塞を代表とする心血管病変・心不全合併症例が多いことが知られています。心不全は基本的には左室駆出率(LV ejection fraction:EF)低下の病態です。しかしEFが正常の心不全も多く、予後不良の程度はEF低下患者と同様だとされます。

■HFrEF(ヘフレフ)・HFpEF(ヘフペフ)とは

 「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」の全154頁の内、総論の10-15頁だけでも通読を勧めます。ここで心不全の分類は①「LVEFの低下した心不全」(heart failure with reduced ejection fraction; HFrEF)はLVEF40%未満②「LVEFの保たれた心不全」(HF with preserved EF; HFpEF)はLVEF50%以上に大きく分類されます。加えて③「LVEFが軽度低下した心不全」(HF with midrange EF ; HFmrEF)はLVEFが40%~49%④「LVEFが改善した心不全(HFpEF improved またはHF with recovered EF)があります。

■GLP-1受容体作動薬と心血管疾患

 GLP-1受容体作動薬(以下GLP-1RA)では中枢性食欲抑制、食物胃排出抑制、血糖改善、体重減少などの作用や効果がありますが、心血管イベントや心不全を抑制するかは生命予後に重要です。まず短時間作用型製剤で1日1回朝食前注射のリキシセナチド(リキスミアⓇ)では、2型糖尿病患者で、急性冠動脈イベントの既往を持つ6,068人を中央値2.1年間追跡した「ELIXA試験」が実施されています(文献1)。通常診療に同薬を追加併用しても心血管イベントを増加させない、また有意では無いが心不全入院がやや少ない結果でした。長時間作用型製剤で1日1回注射のリラグルチド(ビクトーザⓇ)では「LEADER試験」があります。心血管イベントの既往がある50歳以上、心血管リスクのある60歳以上の2型糖尿病9,340人で中央値3.8年です。プラセボ群、同薬1.8mg/日の注射群で、3-point MACE(心血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中)は13%有意に減少(文献2)。全死亡も15%、心血管死単独でも22%の有意なリスク低下でした。
 週1回注射製剤のデュラグルチド(トルリシティⓇ)には「REWIND試験」(文献3)があります。 9,901例の内7割が心血管病変の既往の無い一次予防で実臨床に近いと言えます。週1回1.5mg注射、中央値5.4年で3-point MACEは12%有意に低下(p=0.026)。全死亡は有意差無しでした。ただし、日本では0.75mgの規格ですので解釈には注意が必要です。
 日本でも薬価収載された週1回製剤セマグルチド(オゼンピックⓇ)で「SUSTAIN6試験」(文献4)が行われました。50歳以上の心血管病変またはStage3以上の慢性腎臓病(CKD)患者、または60歳以上で心血管リスクを持つハイリスク2型糖尿病患者3,297例が対象で、中央値2.1年です。結果は主要血管イベントリスク26%(p=0.02)、非致死性脳卒中39%の有意な低下、非致死性心筋梗塞は有意では無いが平均26%低下でした。ただし眼底出血、光凝固を要する網膜症悪化等が、プラセボ1.8%に対しセマグルチド群3.0%(p= 0.02)と有意に高かったことは注意点です。

■GLP-1RAのHFrEF患者心不全急性増悪時の使用は注意!

 これまでの臨床試験からGLP-1RAの急性心不全抑制にも期待がかかります。米国でのリラグルチドの心不全の予後改善探索的試験が「FIGHT試験」(文献5)です。対象は、 EF40%以下を過去3カ月以内に確認、適正治療中過去2週以内に心不全で入院した患者です。180日を一区切りとして、死亡までの時間、心不全再入院までの時間、NT-proBNP値の変化を評価しています。この試験では41%が非糖尿病患者です!死亡か心不全再入院までの時間は有意差無いものの、リラグルチド群で悪化傾向でした。これは非糖尿病群の低血糖が原因かと考えましたが、何と糖尿病例の方が予後不良でした。以上より①心不全の既往患者にはGLP-1RAは慎重使用②急性心不全で入院等では安易なGLP-1RAでなくインスリン導入③心不全疑いは血清NT-proBNPまたはBNPを測定し、GLP-1RA使用の場合は他の心不全治療を併用すべき、と私は考えます。
 では慢性心不全患者はどうでしょう?それには同薬での「LIVE試験」(文献6)があります。 EFが45%以下の患者にリラグルチドを24週使用したところ、EFの有意な低下は無かったが、脈が7/分増加(p<0.0001)また重大な心イベントが増加(p=0.04)という結果で驚かされました。個々の症例で注意して経過を見ることが重要と思われます。

■おわりに

 心不全は悪化を繰り返す予後不良の疾患なので軽く見てはなりません。GLP-1RAは血糖降下として有用で、また糖尿病腎症にも有効性を示していますが(文献7)、HFrEF患者の心不全にマイナスに働く可能性を否定できていません!我々はまずその患者の心疾患の病態が、動脈硬化性疾患か心不全かで薬剤を慎重に選択し、GLP-1RAを過信せず、使用患者が心不全の場合は別の心不全療法を併用する必要があると考えます。

参考文献

  • 1) Pfeffer MA et al. N Engl J Med 373;2247-2257,2015
  • 2) Marso SP et al. N Engl J Med 375:311-322,2016
  • 3) Gerstein HC et al. Lancet 394:121-130,2019
  • 4) Marso SP et al. N Engl J Med 375:1834-1844,2016
  • 5) Margulies KB et al. JAMA 316:500-508,2016
  • 6) Jorsal A et al. Eur J Heart Failure 19:69-77,2017
  • 7) 加藤光敏 糖尿病腎症の進展抑制が期待される「注射製剤」BOX&Net No.63

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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