糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第31回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(5)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 57(2018年7月1日号)

はじめに

 今回は高齢者の薬物療法の内【C群】を取り上げます。これまで【A群】血糖変動幅を減少させる薬剤と、【B群】空腹時血糖が下がり1日の平均血糖を改善する薬剤について述べてきましたが、今回取り上げる【C群】には両方の作用を併せ持つ、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬が含まれます。

高齢者におけるDPP-4阻害薬使用

 海外の国々では高齢者に対しても、用量調節はあるもののビグアナイド薬(BG薬)を第一選択薬とするのが基本です。ADA(アメリカ糖尿病学会)のガイドラインStandard of Medical Care in Diabetes2018年でも同様になっています(文献1)。それに対し日本国内の経口血糖降下薬を処方されている患者さんでDPP-4阻害薬を服用している方は、現在60%を超えるとされます。2009年にシタグリプチンが発売されて以来、副作用が少なく高齢者に対しても安全に使用できるため、糖尿病非専門の医師にとっても確かに使用し易い薬剤だと思います。
 しかし注意点は、「アルブミン尿」どころか一般尿検査での蛋白尿陰性の確認、またはeGFR値評価を一度も検査をしないで処方を開始してしまう事です。慢性腎臓病であることに気づかず、安易に常用量を継続処方する例での副作用が懸念されるところです。一部のDPP-4阻害薬(代謝経路が複数あるテネリグリプチン、胆汁排泄のリナグリプチン)では用量調節は不要ですが、それ以外のDPP-4阻害薬は腎機能に合わせて用量を決めなければなりません。
 近年類天疱瘡発症の症例報告がありましたが、稀であるゆえに念頭に置かれていなければ、薬剤との関連性に気づかないことになります。一般に高齢者では薬剤による副作用が、ある種の老化現象だとしてマスクされてしまうことには注意が必要です。

高齢者におけるSGLT2阻害薬使用

 「高齢者ではSGLT2阻害薬を、何歳まで使用できるのか?」「飲水などの生活指導はどうしているか?」は今でも聞かれる質問です。「シックデイの食欲不振は服用一時中止」「性器感染症に注意」以外の高齢者における懸念は3点 1)脱水 2)頻尿 3)フレイルです。発売当初、65歳以上のSGLT2阻害薬使用全例に、市販後調査提出義務が課されていたことが思い出されます。一方海外では、当時私が参加したEASD(欧州糖尿病学会)のSGLT2阻害薬シンポジウムで、SGLT2阻害薬による脱水に関しては、たった3分間しか話題にならず驚いたことがあります。
1)脱水:当院で高齢者に初めて処方に加える時に患者さんに必ず与える注意は、「最初の1週間は利尿作用が強目に出る」ので飲水を増やすように話します。それが過ぎれば、水分をどんどん飲みなさいという指導は過剰と考えます。なお当院では、処方初期における高齢者対策として、初めの8日間程度、常用量の1錠を半分に割って服用させるようにしています。その後は高齢者は口渇を感じにくいので、「トイレに行ったら小まめに飲水」。「尿の色が濃かったら水分補給」といった程度の指導をしています。
2)頻尿:過剰な飲水を義務づけると几帳面な患者さんは尿回数が増加し、熟眠を妨げたりとQOLを低下させることになります。現在では高齢者→脱水→脳梗塞との図式は崩れ、エンパグリフロジン(ジャディアンスⓇ)のEMPA-REG Outcome試験(文献2)おびカナグリフロジン(カナグルⓇ)のCANVAS Program試験(文献3)では有意な悪化は認めず、さらに、ダパグリフロジンを中心とした、アジア人におけるCVD-REAL2試験(文献4)では脳卒中の発症は減少していました。しかし高齢者自体脳梗塞を起こし易い訳ですから、因果が強く無くても、脳梗塞の既往のある高齢者では念のためこの服用は避けるのが良いと考えます。
3)フレイル:当院ではSGLT2阻害薬が上市されてから1年以上、全例受診ごとに体脂肪、骨格筋量の変化を測定観察していました。イプラグリフロジン(スーグラⓇ)での使用患者のデータをまとめました。すると「中等度の運動をしている患者さんでは骨格筋は減少しないが、運動習慣のほとんどない症例では体脂肪の減少と共に骨格筋が減少する」という重要な結果が出ました(文献5)。この結果より、特に高齢者ではSGLT2阻害薬使用時はレジスタンス運動をぜひ行って欲しいのですが、その実行は容易ではありません。それが難しく、タンパク同化の効率が悪くなりがちなサルコペニア例や、認知機能低下症例に対する使用は特に慎重さを要すると考えます。

おわりに

 現在、高齢者におけるSGLT2阻害薬の使用は、以前懸念されていたよりも安全性も有効性も高いことが証明されつつあります。それどころか先に示したEMPA-REG Outcome試験、CANVAS Program試験より、「心不全に対する貴重な治療薬」として上手に用いることが求められると思います。高齢者はその患者さんの実年齢より健康年齢では10~15歳も容易にばらつきます。その患者さんに合ったテーラーメイドの薬物選択が重要なのは言うまでもありません。

参考文献

  • 1) Diabetes Care:41(Suppl.1)S73-85, 2018
  • 2) Zinman B et al. N Engl J Med. 373(22):2117-2128, 2015
  • 3) Neal B et al. N Engl J Med. 377(7):644-657, 2017
  • 4) Kosiborod M et al. J Am Coll Cardiol. Mar 7 PI(I Publisher Item Identifier):S0735-1097:(18)33528-9, 2018
  • 5) Kato M, Kato N Diabetol Int. 8(3):275-285, 2017

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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