糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第19回 インスリン製剤 (2)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 45(2015年7月1日号)

 当連載第17回インスリン製剤( 1 )ではインスリン発見から、初めての臨床使用までの経緯を紹介しました。今回は製剤のその後の発展と、インスリンの性質から由来する使用上の注意点について解説いたします。

インスリン発見後のインスリン製剤

 インスリン発見のちょうど1年後、1日800kcalの飢餓療法で命をつなぎ、14歳で体重20kgの「エリザベス・ヒューズ」という少女が母親に連れられバンティングを尋ねて来ました。品薄でもインスリン療法を開始した切羽詰まった話はインスリンのありがたさを際立てています(文献1)。彼女は3人の子を持ち73歳でなくなるまで弁護士として活躍しました。
 インスリンの発見(1921年8月)以後、アメリカ大陸でのインスリン独占的製造許可を得たイーライリリー社は、動物の膵臓からインスリンを効率良く得る方法を開発し、1923年早々には「アイレチンⓇ」の名でインスリン製剤を販売しましたが、これは発見から2年という驚異的なスピードでした。確かに患者を死の淵から救い出す画期的な薬剤でしたが、昨今なら厳格な治験が必須であり更なる時間を要したことでしょう。

インスリンの結晶化・精製と持続性の製剤(NPH,亜鉛製剤)開発まで

 Abel(エイベル)は偶然にも亜鉛の付着した容器を用いたことによりインスリンを結晶化することに成功し、純度向上に寄与しました。1940年代後半には再結晶化により純度を改善したインスリンを発売。1970年半ばには不純物をゲル濾過とイオン交換樹脂クロマトグラフィーで精製、「モノコンポーネントインスリン」として発売されました。
 持続性の製剤に関しては1936年Hagedorn(ハーゲドン:ノボノルディスク社)は、魚の塩基性蛋白プロタミンの添加で血糖降下作用が長くなり、亜鉛懸濁液では24時間以上に作用が延長することを発見。プロタミン亜鉛インスリン(protamine-Zninsulin:PZI)として発売され(文献2)(文献3)、1947年には作用がPZIよりは短い中間型インスリン(neutral protamine Hagedorn:NPH)が発売されました。

インスリン1単位の由来

 さて毎日のように使っている「1 単位(Uni t)」はどのように決められたかご存知ですか?トロントグループはインスリンを家兎(かと)に注射すると血糖が45mg/dL以下になると痙攣を起こすことに気付きました。1923年に国際連盟保健機構の標準化委員会で、インスリンの1単位は「24時間絶食にした約2kgの健康な兎に注射し、3時間以内に痙攣を起こすレベル(血糖値:約45mg/dL)に血糖値を下げる最小量」と定義されたのです。なお、現在の日本薬局方では乾燥インスリン1mgあたり26単位以上の力価を有するものと定義されています。

インスリン製剤の性質に由来する注意点

 当院では、インスリン使用者に「注射部位や注射方法等」を確認する強化月間を設けていますが、「まさかこの方が!」という例が見つかります。以下ご存知かもしれませんが注意点です。
 「高温」インスリンの蛋白は高温で変性失活するので添付文書で30℃以下とされています。厳しい日本の夏!直射日光や夏の閉めきった車内は短時間でも放置できません。細心の注意を。「凍結」凍らせると極端に力価が低下します。新型冷蔵庫でも食品を詰め込むと変わります。未使用製剤は扉部分にと指導しましょう。「混合」濁っている製剤は亜鉛入り懸濁液で、充分混和する必要があります。特にノボラピッド30mixは混合しにくいので手技確認が必要です。「注射部位」当院の患者さんで「注射位置を毎回変えている」と言いながら、左右ほぼ2カ所に集中して注射していた人がいました。皮下脂肪の硬い部位(インスリン・リポハイパートロフィー)を針が入った感じがしなくて良いからと選んでいた方もいました。なお指導後は、効きがよくなり低血糖になることがあるので注意します。「誤製剤」インスリンはミスの最も起こりやすい薬品と言われますが、残念ながら各社命名ルールが異なります。ヒトはミスを ゼロにできませんから、医師、医療事務、調剤薬局そして患者それぞれが製剤の色や名称を確認し、誤りなく使用する事が重要です。

参考文献

  • 1)「ミラクル」p272-286,296-313 日経メディカル開発刊2013
  • 2)「ハーゲドン情熱の生涯」p232-261 時空出版刊2007
  • 3)粟田卓也 月間糖尿病Vol.6 p11-18,2014

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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