糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第3回 ビグアナイド薬(2)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 29(2011年7月1日号)

メトホルミンの作用機序

 ビグアナイド(BG)薬であるメトホルミンの作用機序がわかってきたのは意外にも最近のことで、メトホルミンがAMPキナーゼ(AMPK)を活性化させることが明らかにされています。AMPKは乳酸からブドウ糖を合成する糖新生、およびアセチルCoAより中性脂肪、コレステロールを合成する経路に関係して、いずれもATPを増加させる作用を持ちます。肝臓のAMPKが活性化されると細胞内脂肪がエネルギー源として燃焼される方向に働き、さらに脂肪肝の患者さんではインスリン抵抗性が改善し、血糖も改善します。また肝臓ではグリコーゲン分解と糖新生により糖が産生されますが、メトホルミンは乳酸からの肝臓での糖産生量を抑制して血糖を低下させるのです。

メトホルミンと乳酸アシドーシス

 メトホルミン製剤は安価であり、1,500mg/日までは明らかな用量依存的血糖改善効果が認められていますから、費用対効果の高い薬です。従来の日本での用量750mg/日でも一定の効果があるのに、なぜ用いられにくかったのでしょうか。最大の理由は乳酸アシドーシスが起こる可能性がある危険な薬との歴史的烙印が大きな障害だったからと考えられます。

 前回メトホルミンの安全性とフェンホルミンの危険性に関して、歴史の側面から説明しましたが、両者は同じBG薬でありながら、メトホルミンが水溶性で、フェンホルミンは脂溶性という大きな違いがあります。水溶性のメトホルミンはミトコンドリア膜への親和性が低いのですが、脂溶性のフェンホルミンはこの膜への親和性が高くミトコンドリアでのエネルギー代謝障害を起こしやすいのです。また、未変化体として腎から排泄されるメトホルミンは、比較的安全性が高いと考えられます。実際メトホルミンによる乳酸アシドーシスは、信頼度の高いCochrane libraryのSystemic Reviewの報告でも、対照群に比べて上昇は認められなかったのです(文献1)。

当院でビグアナイド薬を適応外としている患者

 いくら安全性の高い薬とはいえ、全身酸素欠乏状態に容易になりうる患者にはビグアナイド薬を使用すべきでないのは当然です。実際、日本で高用量認可後に報告された乳酸アシドーシス例は、超高齢者であり、注意が必要な症例でした。当院での適応外としているのは、

  1. 1型糖尿病患者
  2. インスリン高度枯渇2型糖尿病患者
  3. 肝障害・腎不全患者
  4. 高齢者(当院は80歳になったら全例中止!)
  5. 心不全、 COPDなど易低酸素状態
  6. 下痢・嘔吐・仕事等で脱水になり易い方
  7. 大量飲酒者
  8. 手術前や感染症
  9. 妊婦・妊娠の可能性
  10. アスリート

です。加えて初回服用時には、消化器症状の副作用の出やすい方がいると話すとともに、造影剤使用前後の休薬を(必ず他院ではお薬手帳を提示するように)説明しています。

メトホルミンの発癌リスク低減作用の報告

 最近注目されている話題は、メトホルミンの発癌リスク低減作用です。観察コホート研究で、2型糖尿病患者での発癌率は、 対照群では11.6%(474/4085例)に対し、メトホルミン群で7.3%(297/4085例)であり、メトホルミン使用者において癌の発症リスクが低かったことが報告されています(文献2)。

 また、SU薬使用群とインスリン使用群の癌発症率に対しても、メトホルミン使用群では発癌リスクが最も低かったことが示されています(文献3)。メカニズムの一つとしてインスリン抵抗性が高い場合、高インスリン血症で癌細胞を増殖方向に導くことの抑制。また、メトホルミンは癌抑制遺伝子LKB -1の活性化を介してAMPKを活性化するという、一連の機序を通じて発癌を抑制すると推定され研究されています。癌発生率が高いとされる糖尿病において注目すべき朗報です。

参考文献

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※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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