“血糖トレンド”をどう活用するか

糖尿病治療におけるTime in Range(TIR)の重要性と血糖トレンドの活用

浦上 達彦 先生日本大学医学部小児科学系小児科学分野 診療教授
筆者について

はじめに

 糖尿病患者の血糖コントロール目標は、これまでHbA1cがスタンダードな指標として用いられてきました。実際に、日本糖尿病学会(JDS)ではHbA1cの目標値を定めており、合併症予防のための目標についてはHbA1c7.0%未満としています。同様に、国際小児・思春期糖尿病学会(ISPAD)のClinical Practice Consensus Guidelines 2018でも、HbA1cの目標値は7.0%未満としています。

 一方で、近年ではHbA1cに加え、日々の血糖変動の把握、いわゆる血糖トレンドが重要視されるようになりつつあり、Continuous Glucose Monitoring(CGM)、Flash Glucose Monitoring(FGM)といった最新の測定機器も登場しております。

 実際に、前述のISPADのガイドラインでは、血糖コントロールは3カ月ごとのHbA1cだけでなく、CGMやFGMを用いた定期的なグルコースモニタリングによる評価をしなければならないとしています。また、JDSが発表している「リアルタイムCGM適正使用指針」では、低血糖を回避しつつ血糖コントロールを行うため、「インスリン療法を行っている患者は厳密に自身の日々の血糖変動を把握する必要がある」としています。

 このように血糖トレンドの把握や定期的なグルコースモニタリングの重要性が謳われるようになりつつある中、最近では新たな血糖コントロール指標のkeywordとして、「AGP」「TIR」といったものがあります。本稿では、HbA1cを超える血糖コントロール指標にもなりうるこれらの重要性や、FreeStyleリブレを用いた実臨床での活用について述べたいと思います。

Time in Range(TIR)とは

 2019年2月に国際糖尿病治療テクノロジー学会(ATTD)が開催されました。その中で専門家による会議が行われ、日本からは筆者が参加しました。この会議ではCGM/FGMによる血糖コントロール指標が検討され、その内容は国際的にコンセンサスが得られた推奨として、第79回米国糖尿病学会学術集会で発表、Diabetes Care1)で公表されました。

 このRecommendationでは、CGM/FGMの測定は1回の測定期間を2週間として、その間に得られたデータの70%以上を使用して解析すること、解析にはAGP(Ambulatory Glucose Profile)の手法を用いることが推奨されています。AGPの詳細については後述いたします。

 血糖コントロール指標として、70~180mg/dLを治療域(Target Range)とし、この範囲内の測定回数または時間をTIR(Time in Range)、治療域より低値域をTBR(Time Below Range)、高値域をTAR(Time Above Range)と定義しています。このTIRが70%である場合、JDSやISPADでも目標値として掲げられているHbA1c7.0%を達成できる可能性があるとしています。これまでCGM/FGMで得られたデータをどう解釈して治療に反映すべきか、その指針が明確になっていませんでしたが、今回、上記を踏まえ1型、2型ともにTIR70%以上であることが推奨されました(ただし、高リスク・高齢者や妊娠中の管理においては、目標とする範囲やTIRの割合は別途設定される必要があります)。このような明確な臨床ターゲットが示されたことは、グルコースモニタリングによる血糖トレンドを活かした治療をしていくうえで、とても有益なことであると思われます。

FreeStyleリブレによるAGP/TIRの評価

 FGMであるFreeStyleリブレのデータ解析には、AGPの手法が用いられています。AGPでは全体的なグルコース値の動向を可視化してグラフで表示するため、容易に血糖変動を読み取ることができます。中央値曲線、センサーグルコース(SG)値の25パーセンタイルと75パーセンタイルを示す曲線とその間を青色の帯、10パーセンタイルと90パーセンタイルを示す曲線とその間を水色の帯で示されます(図1)。AGPから、低血糖のリスクがあるか、グルコース値は目標範囲内にあるか、グルコース値の日内変動や日差変動はあるかということを評価することができます。

図1

 図2はFreeStyleリブレのレポートの一つ、スナップショットです。平均SG値から算出される推定A1c、平均グルコース値、目標より高い割合、目標範囲内の割合、目標より低い割合、グルコース値の変動、記録された炭水化物量やインスリン量などが表示されます。FreeStyleリブレでは目標範囲を設定することができ、目標範囲70~180mg/dL のTIRがどのくらいか、TBR、TARも評価することができます。また、1日当たり平均の炭水化物やインスリン量を確認することができるため、血糖プロファイルでだけではなく、インスリン量の調節にも役立ちます。

図2

FreeStyleリブレを用いた実臨床での活用

 FreeStyleリブレを使用している症例より、AGP/TIRを活用した投与インスリン量の調節について述べたいと思います。

 1例目は8歳女性です。先ほど、70~180mg/dLに70%が入れば、HbA1c 7.0%未満を達成できる可能性があることをご説明しました。小児の実臨床では、70~180mg/dLを達成できるのは約50%という報告2)3)がいくつかありますし、一方で推定A1c7.0%を達成するTIRが53.6%、推定A1c7.0%でも高血糖域が34.4%あるという報告4)もあります。これらのことを踏まえて、スナップショット(図3)を見てみましょう。8歳という年齢を考慮すると、推定A1c が8.1%、TIRが49%、TARが48%、TBRが3%というのは標準的と考えてよいでしょう。続いて週別サマリー(図4)を見ます。夜間のSG値はほぼ安定していますが、食後高血糖が見られるため、基礎インスリンはそのままで、追加インスリンを増やす(インスリン/炭水化物比の増加)調節をするとよいことが分かります。

図3
図4

 2例目は26歳女性です。スナップショット(図5)を見ると、推定A1cは5.8%、TIRは72%と70%を超えていて良好です。週別サマリー(図6)を見ると、就寝時と起床時のSG値がほぼ同等であるため、基礎インスリンの投与量が十分であるということが分かります。

図5
図6

 3例目は36歳女性です。スナップショット(図7)と週別サマリー(図8)を示します。推定A1cは4.9%と非常に良く、基礎インスリンは6単位と少ないのですが、TIRが58%、TBR36%、TAR6%と明らかに低血糖の割合が多いです。無自覚性低血糖や重症低血糖があるため、就寝中のグルコース値を確認します。日中は頻回にSG値を測定していますが、夜間から早朝にかけてTBRが多いため、基礎インスリンの変更または調節が必要ということが分かります。

図7
図8

 FreeStyleリブレを使用した症例の経験から、以下に私見を述べたいと思います。 FreeStyleリブレにおいてAGPとTIRよりインスリンの調節をする場合には、次の(1)から(5)を考慮するとよいと考えています。

  • (1)カーボカウントの調節で食後血糖の上昇を100mg/dL未満にするように追加インスリン量を決定する。
  • (2)夜間のAGP曲線をほぼ平坦にし、就寝時と早朝のSG値をほぼ同等にするように基礎インスリン量を決定する。
  • (3)TIR(70~180mg/dL)を60%以上にする。
  • (4)TBR(<70mg/dL)を10%未満に抑える。
  • (5)重症低血糖の発生がない。

 また、次の(1)から(9)のような症例は、FreeStyleリブレによる継続モニタリングを推奨できるのではないかと考えています。

  • (1)日内変動:中央値曲線の変動が大きい。
  • (2)日差変動:25~75パーセンタイル(IQR)が大きい。
  • (3)血糖コントロール不良:TIRが50%未満である。
  • (4)高血糖が多い:TARが40%以上である。
  • (5)低血糖が多い:TBRが10%以上である。
  • (6)無自覚性低血糖、重症低血糖の既往がある。
  • (7)不規則な生活、食事、運動。
  • (8)年少児、高齢者(家族が血糖値を観察できる)。
  • (9)計画妊娠・妊娠など厳格な血糖コントロールが必要である。

 以上より、多くの症例でFreeStyleリブレによるAGP/TIRの活用が有効である可能性があると考えております。

さいごに

 TIRは、目標範囲がどのくらいの割合になるか、低血糖および高血糖の頻度がどのくらいなのかについて、サマリーとして評価することができるため、血糖コントロールをする際の有益な日々の指標となります。

 今回、CGM/FGMから得られたデータをどのように解釈して、治療に反映するのかという指針が示されたことにより、これら機器の普及がより加速することを期待しております。

参考文献

1)
Battelino T, et al.: Clinical Targets for Continuous Glucose Monitoring Data Interpretation: Recommendations From the International Consensus on Time in Range.Diabetes Care, 42:1593-1603, 2019.
2)
ADA 2017 poster presentation(110-LB).
3)
Edge J, et al.: An alternative sensor-based method for glucose monitoring in children and young people with diabetes. Arch Dis Child, 102:543-549, 2017.
4)
第53回 日本小児内分泌学会学術集会 桑原怜未. P1-9-068.

著者プロフィール

浦上 達彦先生

浦上 達彦(うらかみ たつひこ)先生

日本大学医学部小児科学系小児科学分野 ▶
診療教授

1982年 日本大学 医学部 医学科卒業。1995年 日本大学 小児科 講師。2010年 同 准教授。2015年 同 診療教授。
専門領域は小児内分泌であり, 主に小児糖尿病が専門。日本小児科学会専門医, 日本小児内分泌学会理事, 日本糖尿病学会専門医および指導医, 評議員および小児糖尿病委員会委員長。インドネシア大学客員教授, 国際小児思春期糖尿病学会 (ISPAD) Advisory council (2007-9), Clinical Practice Consensus Guidelineのinsulin treatment, type 2 diabetesの章共著者。他

血糖トレンドの情報ファイル
2020年07月02日
糖尿病患者向け経済的支援を開始 COVID-19の影響で治療継続が難しくなった患者の医療費を支援 日本メドトロニック
2020年07月02日
GLP-1受容体作動薬の週1回投与単回使用製剤「オゼンピック皮下注SD」を発売 効能・効果は2型糖尿病
2020年07月02日
超速効型インスリン製剤での日本初のバイオシミラー インスリン リスプロBS注HU「サノフィ」を発売
2020年07月02日
世界初の経口投与できるGLP-1受容体作動薬「リベルサス錠」 2型糖尿病治療薬として承認取得
2020年07月02日
COVID-19発症1型糖尿病患者はDKAに要注意
2020年07月01日
東京糖尿病療養指導士(東京CDE) 2020年度申込を受付中 講習会はeラーニング開催
2020年06月25日
ストレスが閉経後の2型糖尿病女性の冠動脈イベントを増やす
2020年06月25日
肥満症治療を最適化し、肥満への理解の向上を目指す 国際研究プロジェクト「SOPHIA」が活動を開始
2020年06月25日
週1回投与の持続性GLP-1受容体作動薬「トルリシティ」が高い服薬アドヒアランスと継続性を示す
2020年06月24日
メトホルミンでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者でビクトーザが血糖コントロール期間を長期化
糖尿病プラクティス