“血糖トレンド”をどう活用するか

血糖トレンドを活用した、
自己管理能力を高めるための患者教育
「わかるとかわる、かわるとわかる」

中山 法子 先生糖尿病ケアサポートオフィス 診療看護師/糖尿病看護認定看護師
筆者について

1.はじめに

 数年前のiPro2登場に始まり、SAPではリアルタイムに血糖値が把握できるなど、血糖トレンドに関するデバイスの開発は著しく発展しています。FreeStyleリブレの登場がメディアの影響もあって幅広い層に認知されつつもあり、より多くの患者さんや国民が血糖値スパイクなどの血糖変動に関心をもつようになっていると感じています。こうした流れの中、これらの機器を活用した血糖トレンドの把握は実際に糖尿病患者さんにどのような影響を与えるのかに注目が集まっています。

 今回は、血糖変動を可視化できたことで主体的な療養行動をとるようになられた患者さんの一例として、Aさんの事例を紹介します。

2.事例紹介

事例

 Aさん 60歳代前半 2型糖尿病

介入のきっかけ

 1年前に娘さん(看護師)から「父(Aさん)の血糖がずっと高いのですが、生活習慣も変えないし困っています。」と相談を受け、筆者の外来を紹介されました。

経過

 年1回の人間ドックで50歳代から境界型糖尿病・脂質異常症を指摘され、5年前に糖尿病に移行しました。栄養指導は拒否、活動量も増やせないといい、夜は営業のための接待や会合が多くて節酒するつもりもないし(接待や会合を自ら楽しんでいる)、薬物療法も拒否で、HbA1cは7~8%台で推移していました。家族からのアドバイスも、産業医や保健師、主治医の話にも全く聞く耳をもたない状況で、みな頭を悩ませていたそうです。

介入後の経過

 Aさんに初めてお目にかかったときの印象は、仕事を生きがいにしており、仕事仲間との関係も良好で、とてもエネルギッシュに充実した人生を生きておられるというものでした。それまで病院に定期通院しなかったAさんですが、筆者が介入後から定期受診は欠かさないので、糖尿病に関しどうでもいいと考えているわけでもなさそうです。Aさんに尋ねてみると「今が重症でなければそれでよい、長生きがしたいわけではない、小心者だから血液・尿以外の検査はしなくていい」などと話され、将来の合併症予防のために今の生活習慣を変える気はなさそうです。筆者は、Aさんのローカス・オブ・コントロール(LOC)では統制は内的(結果の原因は自分にあると考える)と予測し、周囲の環境を整えるより彼自身の気持ちが変化するような関わりが必要で、血糖トレンドを可視化できることが効果的ではないかと感じていました。経口血糖降下薬の開始時がちょうどいいチャンスと捉え、FreeStyleリブレを使用しました。しかし本人はセンサーを装着したときもあまり関心はなさそうで、食事などの生活記録は難しいだろうという印象を受けました。

 ところが、2週間後に来院されたときに、入室したときの雰囲気がいつもと違います。センサーを外しながら「装着してみていかがでしたか?」と尋ねると

A「いや、予想以上に便利でした。着けていることを忘れるくらい違和感もありません」(負担感が少ない) 「最初は血糖が高いことにびっくりしました、300mg/dL越すこともあったんですよ!採血ではそんな血糖値が出たことなかったのに。」(隠れ高血糖に気づく)

Ns「その値を見て、どう思われましたか?」

A「見てしまったからには、どうにかしなくてはと思いました(笑)」(内発的に動機づけされる)

Ns「それでどうされたのですか?」

A「データ(図1)を見てください!後半は血糖が改善しているでしょ、これはね、食事の最初に野菜を食べることにしたからなんです」(自己決定①

図1 経口血糖降下薬の服用開始時から2週間におけるAさんの血糖トレンドの推移
図1

Ns「なるほど、効果がありますね。でもAさん、野菜嫌いで絶対に食べないって以前断言されていましたが、どんな工夫をされたんですか?」

A「コンビニに千切りキャベツがあるの知ってます?あれはいいですよ!とっても細くて口の中がもごもごしないし、どこででも買えるし、便利ですよ~。妻が食事を作れなかったり、職場で弁当を食べる時もコンビニで買っていけばいいんですから、会社の冷蔵庫にドレッシングを置くことにしたんです」(自己決定②

Ns「すごい変化ですね!」

A「あとね、夕食後のスイーツも半分にしましたし、食後にじっとしていたら血糖が上がるんです。だからね、食後は仕事をしたり、ごそごそ動き回るように意識してます」(自己決定③、④

Ns「なるほど、いろいろと気づきがあったんですね。で、今の工夫はかなり頑張ってる感がありますか?私が気になるのは、この機械がなくても今の工夫を続けることができるかどうかです。できるのであれば、かなり血糖コントロールが改善すると思うんですよ。」

A「いや、そんなに我慢して頑張っているという感じはしないので続けられると思います。」(負担感の確認)

 その後、血糖コントロールは大きく改善し、HbA1cは6%台で推移しています。図1はAさんの血糖トレンドです。14日間の平均血糖値が日々改善しており、血糖変動も小さくなっています。図2は、Aさんの1週目・2週目の血糖トレンドデータをAGP(Ambulatory Glucose Profile)で解析した図です。中央線が全体的に低値方向に移動しており、またとくに昼食後の濃い青色帯(25〜75パーセンタイル曲線)の幅の縮小もみられます。医療者のアドバイスには全く耳を傾けてくれなかったAさんの、血糖トレンドを掴んだことによる主体的な変化は予想以上でした。また、Aさんは、さまざまな会合にも出席されるので、血糖管理のコツについて周囲にお話しくださっているとお聞きしています。

図2 Aさんの血糖トレンドデータをAGPで解析した図
図2-1 図2-2

3.まとめ

 石井は糖尿病は患者にとってヴァーチャルな病気であり、患者さんが「わかる」ことが重要で「わかるとかわる」「かわるとわかる」の関連が成り立つと述べています1)。Aさんにとって血糖トレンドを掴むことが「わかる」につながり、わかったから療養行動の工夫が生まれて「変わる」、そして「変わる」ことでの効果も実証され、血糖コントロールを改善する行動が「わかる」とつながっていったと考えます。筆者が看護師として行ったことは、関係構築と統制の位置を知るための対話、タイミングを見計らって血糖トレンドを掴むデバイスを活用したことです。この流れを経てようやく、Aさんへの専門的な知識の提供が役立つ時期になったと考えます。

参考文献

1)
石井 均:病を引き受けられない人々のケア, 医学書院, 2015.

著者プロフィール

中山法子先生

中山 法子(なかやま のりこ) 先生

糖尿病ケアサポートオフィス ▶
診療看護師/糖尿病看護認定看護師

1988年 山口県立衛生看護学院を卒業。山口県内の複数の医療機関、公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院 看護管理室師長などを経て、2017年より現職。2004年 糖尿病看護認定看護師資格取得、2011年 国際医療福祉大学大学院修士課程保健医療学専攻ナースプラクティショナー養成分野修了。

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