第37回 糖尿病腎症の進展抑制が期待される
「注射製剤」
加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)
初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 63(2020年1月1日号)
今回は糖尿病腎症の進展抑制が証明された「注射薬」です。
GLP-1受容体作動薬デイリー製剤における腎症抑制エビデンス
LEADER試験は、心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者9,340人を3.5〜5年間追跡しリラグルチド(ビクトーザⓇ)使用の有無で評価したものです。実薬群では、腎臓に関しては顕性アルブミン尿、血清クレアチニンの倍増、透析などの末期腎不全、腎死亡のいずれかの発生は22%の有意なリスク低下でした(文献1)。なお3-point MACE(心血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中)で13%、全死亡15%、心血管死単独22%の有意なリスク低下でした(文献2)。
GLP-1受容体作動薬週1回製剤における腎症抑制エビデンス
もう一つ腎症進展抑制効果が確認されている薬剤は、日本では現在製造承認のセマグルチド(オゼンピックⓇ)で、大規模臨床試験結果は「SUSTAIN 6」として報告されています(文献3)。2型糖尿病患者3,297人、主として年齢50歳以上で心血管疾患、またはStage 3以上の慢性腎臓病症例を対象に、セマグルチド0.5mgか1.0mgを週1回皮下注射、104週間使用されました。その結果、糖尿病腎症の新規出現または悪化は36%(p=0.005)低下でした。また主要心血管イベントリスクは26%、非致死性脳卒中リスクが39%有意に低下、非致死性心筋梗塞のリスクは有意では無いが26%低下でした。 もう一つの週一製剤の臨床試験は9,901例の7割が心血管病変の既往がない一次予防と、実臨床に近い症例のREWIND試験。デュラグルチド(トルリシティⓇ)1.5mgを週1回皮下注射(日本では0.75mgのみ)するもので、腎臓関連ではベースラインからeGFRの30%超の持続低下、透析・腎移植では有意ではないものの、新規顕性アルブミン尿(UACR>33.9mg/mmol)の初回発現では23%の低下(P<0.0001)を認めました(文献4)。
おわりに
糖尿病性腎症進展抑制作用としては、血糖降下作用、体重減少以外に、抗酸化作用、酸化ストレス低減、血管内皮細胞保護などの総合作用といわれています。現在、非糖尿病例でも腎症進展を抑制するのではと検討されていますが、適応は2型糖尿病ですので、拡大使用はできません。
参考文献
- 1) Mann JFE et al. N Engl J Med. 377;839-848, 2017
- 2) Marso SP et al. N Engl J Med. 375;311-322, 2016
- 3) Marso SP et al. N Engl J Med. 375;1834-1844, 2016
- 4) Gerstein HC et al. Lancet. 394;131-138, 2019
※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。
糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント 目次
- 40. 第40回 インスリンとGLP-1受容体作動薬の新配合薬
- 39. 第39回 心血管病変および心不全抑制効果が期待される「GLP-1受容体作動薬」
- 38. 第38回 心不全の進展抑制が期待される「経口血糖降下薬」
- 37. 第37回 糖尿病腎症の進展抑制が期待される「注射製剤」
- 36. 第36回 糖尿病腎症の進展抑制が期待される「経口薬剤」
- 35. 第35回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(9)〈GLP-1受容体作動薬-2〉
- 34. 第34回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(8)〈GLP-1受容体作動薬-1〉
- 33. 第33回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(7)〈インスリン療法-2〉
- 32. 第32回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(6)〈インスリン療法-1〉
- 31. 第31回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(5)
- 30. 第30回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(4)
- 29. 第29回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(3)
- 28. 第28回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(2)
- 27. 第27回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(1)
- 26. 第26回 経口血糖降下薬配合剤の現状と注意点
- 25. 第25回 EMPA-REG OUTCOME試験のその後と新たな展開
- 24. 第24回 GLP-1受容体作動薬(2)
- 23. 第23回 GLP-1受容体作動薬(1)
- 22. 第22回 インスリン療法をレベルアップする機器
- 21. 第21回 インスリン製剤 (4)
- 20. 第20回 インスリン製剤 (3)
- 19. 第19回 インスリン製剤 (2)
- 18. 第18回 SGLT2阻害薬 (5)
- 17. 第17回 インスリン製剤(1)
- 16. 第16回 SGLT2阻害薬(4)
- 15. 第15回 SGLT2阻害薬 (3)
- 14. 第14回 SGLT2阻害薬(2)
- 13. 第13回 スルホニル尿素(SU)薬(3)
- 12. 第12回 スルホニル尿素(SU)薬(2)
- 11. 第11回 スルホニル尿素(SU)薬(1)
- 10. 第10回 SGLT2阻害薬(1)
- 9. 第9回 DPP-4阻害薬(3)
- 8. 第8回 DPP-4阻害薬(2)
- 7. 第7回 DPP-4阻害薬(1)
- 6. 第6回 GLP-1受容体作動薬
- 5. 第5回 チアゾリジン薬
- 4. 第4回 グリニド系薬剤
- 3. 第3回 ビグアナイド薬(2)
- 2. 第2回 ビグアナイド薬(1)
- 1. 第1回 α-グルコシダーゼ阻害薬
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