糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第33回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(7)
〈インスリン療法-2〉

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 59(2019年1月1日号)

はじめに

 インスリン枯渇症例をどのように判断するか、また高齢者にはどのようなインスリンを選べばよいのか、導入とその継続が難しいと予想される場合はどうするかが、今回のテーマです。日本の総人口はすでに減少し始めていますが、高齢になると糖尿病罹患率が増えるので、大きな都市を中心にまだまだ糖尿病患者さんは多い状況が続きます。

高齢者に理想的なインスリン使用のポイント

 高齢者ではインスリン分泌が少なく、遅く、また骨格筋量の減少から食後高血糖を来し易いことが特徴です(文献1)。重要なのはβ細胞が少しでも多く残存していることです。罹病歴の長い高齢者のβ細胞の絶対量は少なく、インスリン導入を躊躇している内に高血糖自体がβ細胞を減少させてしまいます。早めのインスリン導入でコントロールが良くなれば、残存β細胞が再びインスリンを産生し、見違えるようにコントロールが良くなります。するとインスリンを離脱できる場合があるのも、若年者と同様です。
 早めの導入が求められるもう一つの理由は、認知症が始まると導入が難しくなることです。

インスリン導入の判断と指導に必要な来院回数

 β細胞で産生されるプロインスリンは2つに切れ、インスリンと同じ割合でCペプチド(CPR)が産生されます。そのため患者さんが分泌する内因性インスリン量はCPR値から推定できます。空腹時CPR値0.6ng/mL以下が「インスリン依存状態」の目安とされています。
 ここでインスリン治療の要否の判断にはCPRindex(CPI)が参考になります(文献2)。CPI=空腹時血中CPR÷空腹時血糖×100という簡単な式で、1.2以上なら経口薬治療、0.8未満ならインスリン治療が必要な目安とされます。なお腎機能障害が強いと血中CPRは高めになることに留意します。
 インスリン導入例を当院で調査した時の結果です。過去211症例のインスリン導入では、76%の方がその日に自己注射ができるようになりました。しかし個人差があり「69歳以下169人は平均1. 5回来院」に対して、「70歳以上43人は平均2.1回の来院」と高齢者では時間がかかっていました。10回の来院を必要とした高齢者が最高記録です。

高齢者のインスリン導入をどのようにするか

 インスリン導入で重要なポイントは ①インスリン注射は「終末治療」ではないと話す②導入時可能なら家族が立ち会う ③はじめは超速効型なら3-3-3、持効型なら5単位など少量から ④しっかりした方でも血糖自己測定はインスリン注射に慣れてから⑤空腹時血糖が100mg/dLに近づいたら早めにインスリンを減量!
 家族には「注射をするほど悪くなってしまったの?」ではなく「インスリン不足を補う理にかなった治療」と理解してもらいます。
 高齢者の血糖変動は食後高血糖が特徴のため、超速効型インスリン食前3回注射から開始なら低血糖が極めて来しにくいのです。さらに食事量が一定しない高齢者は、食べられたことを確認してからの食直後注射でもかまいません。
 しかし1日1回の導入がやっとという症例には、持効型インスリンを選択することになります。家族や介護スタッフの見守りで行う場合は、持効型インスリンのインスリンデグルデク(トレシーバ注フレックスタッチⓇ)やインスリングラルギン(ランタスXRソロスターⓇ)は注射時間が3~8時間くらい変わっても有効性には変化が無いとされているので選択します。

高齢者のインスリン療法のポイント

 導入時に理解してくれた家族は、その後も問題発生時に協力者になってくれるでしょう。高齢者は、同じ治療を継続していると、認知機能が低下してきても気づかれないことがあります(文献3)。高齢者または認知症の初期と思われる患者にMMSE(ミニメンタルステート検査)などの認知症検査をするのは重要です。特に日常の診療では「今インスリンを何単位打っていますか?」など簡単な質問をするのも有用です。
 さて「強化インスリン療法」が必要な方は、加齢と共に負担が大きくなってきます4)。その時には1日1回のみのBOT、それも怪しくなったら仕方なく経口剤のみに治療レベルを下げれば良いのです。

おわりに

 極端な少子化の中、医療費および介護関連費用の増大は国民にとって問題です。高齢者の糖尿病合併症と大血管障害の防止は医療費増大阻止に重要です。その一助としてのインスリン導入は「導入必須だが、理解してもらえるか!?」となる前に行うべき治療です。
 しかし、実際の医療現場ではその患者さんの認知症の有無、巧緻性、社会的背景も総合して、導入するかを早めに判断することが重要と考えます。

参考文献

  • 1) 加藤光敏:高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(6)インスリン療法-1. BOX & Net. No.58
  • 2) 戸邉一之:糖尿病学 基礎と臨床, pp980-982,西村書店,2007
  • 3) 加藤光敏:高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(1). BOX & Net. No.53
  • 4) 大久保雅通編:糖尿病外来診療のハイバリューケア. pp134-141, カイ書林, 2018

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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