糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第27回 高齢者糖尿病診療の特徴と注意点(1)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 53(2017年7月1日号)

はじめに

 日本の高齢者の割合は増え続けています。平成27年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性80.79歳、女性87.05 歳と前年より男性0.29年、女性0.22年伸びています。65歳以上の高齢化率は26%で高齢者は4人に1人を超える超高齢社会に突入しました。当院の外来でも糖尿病患者の平均年齢はゆっくり上昇しています。高齢糖尿病患者の指導は困難な事も多く、落とし穴もあります。単なる糖尿病患者ではなく「高齢というハンディーを抱える糖尿病患者」としての視点が必要です。第1回は高齢者の全般的な特徴について考えてみます。

高齢者と壮年者との相違

 高齢糖尿病患者の特徴は何でしょうか。高齢者が糖尿病に大きく影響するのは骨格筋量の低下でしょう(文献1)。若い症例では内臓脂肪肥満がインスリン抵抗性を惹起しますが、骨格筋量低下によるサルコペニアもインスリン抵抗性を引き起こし、食後高血糖を惹起します。壮年・高齢患者自身は気づきにくいのですが、骨格筋の太さの減少だけでなく、筋細胞間は脂肪組織に置き換わり、そして活動量の低下は脂肪筋を増やすという悪循環となります。またうつや、食事内容の簡素化とそれに伴う低栄養があります。薬物療法でも低栄養患者では効き方が悪かったり、急な血糖低下を惹起したり、効果がムラになりがちです。
 高齢者の肥満の場合、サルコペニアを合併することもあります。BMIが高いということのみで減量指示をしてはいけません(文献2)。当院にも80歳以上で元気に通院している患 者さんは多数いますが、肉・魚を含め案外良く食べている患者さんです。栄養指導の時の過度の減量指示は逆効果です。
 次に副作用でも腎機能の低下、肝機能の低下は大きく、eGFR値は注意して定期的に調べていくべき項目です。肝機能もAST、ALTは変化が無くとも「めっきり酒が弱くなった」と話している患者に同じ量の肝代謝系の薬物で良いのか検討が必要です。そのためには使用している薬物の代謝を思い出す、調べ直す必要があります。

糖尿病高齢者の認知症

 このような高齢糖尿病の特徴に認知症が加わると治療が難しくなります。しかしまず指摘したいことは、なかなか見つけにくいということです。当院例でもいつもと同じように通院している患者に、いつの間にか認知症が進行し、何かの切っ掛けで表面化し驚かされる例を多く経験します。
 例えれば高齢者が車を、仕事場への同じ道を毎日のように運転し、本人も車に自信がある。しかし、いざハプニングが起こると対処できず、パニックに陥り重大事故を起こす。これと同じように「同じ治療で。ではお大事に」と帰っていく時々の受診では認知症に気づきにくいものです。

高齢者の問題を早く見つけるために

 当院においてこのような高齢糖尿病患者さんの問題が見つかるきっかけとはどんな場合かというと、①予約日を間違える、②きちんと飲んでいるが「薬が余る」と言い出す、③逆に薬の数が足りなかったと来院する、④インスリンの渡した量と減り方が一致しなくなる、⑤血糖測定と記入がおざなりになる、⑥前日の食事内容が思い出せない、⑦外出が減る、⑧きちんとしていた着衣が乱れてくる---- これらは当院でスタッフと共有している注意事項です。
 認知機能低下を疑うと「あなたの年齢の皆さんにやっていただいています」と話し看護師が認知機能検査を行います。現在は「MMSE:Mini-Menta l State Exami nati on」を定期的に使用しています。
 高齢糖尿病ではこれら認知機能やADLの低下を含め総合的に機能評価を行うべきと考えますが、全例をきちんと評価するのはなかなか大変です(文献3、4)。

おわりに

 高齢者の多剤併用(Polypharmacy)は種々のリスクと関連すると言われます(文献5)。しかし医師は患者の異常を把握しているだけに、異常があるのを分かりながら治療薬を減量するのは勇気がいります。一例を挙げると、「低用量アスピリンで消化管出血のリスクが高齢のため高まった」と考えた時に薬を中止するにも葛藤があります。また他の薬剤でも、薬を減らそうとするとき「減らされるのは心配です!」と患者さんが抵抗することもよく経験されます。医師は異常値を把握しているだけに、「有効性と高齢化による副作用のリスク増大を天秤にかけるバランス感覚」と、中止してデータを追っていく「勇気」が求められます。投薬数を減らすのは医師にとってもストレスが伴うものです。
 これらの高齢者の特異点をもとに、次回は低血糖などの重要な項目も含め、「高齢者の服薬」に話を進めていくことに致します。

参考文献

  • 1) 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017 PP37-41, 2017(南江堂)
  • 2) 駒井さつき他 日老医誌 53:387-395,2016
  • 3) 高齢者糖尿病診療ハンドブック PP44-53, 2017(中外医学社)
  • 4) 佐竹昭介他 日老医誌 54:89-91, 2017
  • 5) Herr M, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf 24:637-646,2015

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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