糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第23回 GLP-1受容体作動薬(1)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 49(2016年7月1日号)

はじめに

 今回はインクレチン関連薬の一つGLP-1受容体作動薬です。
 人体におけるGLP-1は重要な生体ホルモンです。GLP-1は食事による血糖上昇に応じて、膵β細胞のインスリン分泌を促進する一方、血糖上昇作用のあるグルカゴン分泌を抑制します。また胃内容物排出を遅くし、かつ中枢性に過食を防ぐ作用もあります。ところが生体内ではGLP-1はDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)により半減期1~2分ほどの早さで分解され、効果はすぐ失われます。これの対応策は大きく2つに分けられます。まずこの悪玉DPP-4の活性を阻害して、生体内のGLP-1を長持ちさせようというのが、ご存じDPP-4阻害薬です。もう一方は、GLP-1の構造を分解されにくいように変えた、GLP-1受容体作動薬という注射薬です(文献1, 2)。まず発見の切っ掛けとなった、ドクトカゲの話からいたしましょう。

GLP-1受容体作動薬の発見

 アメリカドクトカゲ(英語でヒーラ・モンスター)は体長50cmぐらいと、大型のメキシコドクトカゲより小型で、アリゾナ砂漠や草原など乾燥地帯に住んでいます。人を襲いませんが、知らずに踏めば話は変わります!毒牙は無いが、強力な顎で噛んだらスッポンのように離さず、唾液の毒素は傷から入り腫脹、吐気、目まい等を起こします。興味深いのは小型哺乳類などの獲物を腹いっぱい飲み込んでも血糖値はまず上昇しないそうです!
 1992年に糖尿病専門医John Eng(ジョンエン)教授は口腔内の毒液からヒトGLP-1 とアミノ酸配列で53%の相同性を持つペプチドを発見しexendin-4と名付けました。これはDPP-4の作用部位であるN末端から2番目のアラニンがグリシンとなっておりDPP-4で分解されにくい構造になっています。これがGLP-1受容体作動薬のオリジナルで現在日本では5種の製剤が発売されています。

Short acting製剤

エキセナチド(バイエッタⓇ)
 バイオベンチャーのアミリン社とイーライリリー社により世界最初に開発されたのが合成exendin-4です。2005年に米国で発売、内外の糖尿病学会でも大きな話題になりました。日本は2010年です。「ドクトカゲの唾液から?」と心配した患者さんが当院にいましたが、合成ですから心配いりません!
 バイエッタⓇは1日2回朝夕食前にペン型注射器で1回5μgを注射し、1カ月以上後に1回10μgに増量します。腎臓で分解されるので透析患者を含む腎機能高度障害者は禁忌です。悪心・嘔吐、食欲減退、便秘などの副作用は他のGLP-1受容体作動薬と同様です。本剤は胃からの排泄抑制作用が強く、「嘔気・胃部不快感も副作用だ!」と言えばそうなのですが、使用してみると食欲が抑制され、これが本剤の効果とも言えます。
リキシセナチド(リキスミアⓇ)
 もう一つのShort acting製剤はサノフィ社より発売されたリキスミアⓇです。エキセナチドのN端から38位のプロリンを抜きセリンを付加、さらにリジンを6つ付けた製剤です。半減期は2.1~2.5時間程度で、1日1回10μgから開始し、各1週間以上投与後に15μg、20μgと増量します。
 エキセナチドはインスリンと併用できませんが、リキスミアⓇは持効型または中間型インスリンと併用ができます。持効型インスリンで空腹時血糖をコントロールし、リキスミアⓇで食後血糖をコントロールするBPT(Basal supported post Prandial GLP-1 therapy)とも名付けられている考え方です。
 Long acting製剤について詳しくは次号になりますが、ビクトーザⓇはエキセナチドの半減期1.3~1.4時間に比べたら13~15時間と長いのですが、それでも1日1回の注射が必要となります。
 他の製剤の半減期は、デュラグルチド(トルリシティ・アテオスⓇ)は108時間です。エキセナチド徐放化製剤(ビデュリオンⓇ)の効果は1~2週間以上ですが、半減期のデータはありません(文献3)。

併用薬と重要な注意点

 一つの注意点は併用可能薬の保険適応です。GLP-1受容体作動薬の一番の面倒さは、併用薬の保険適応が極めて複雑であることにつきます。記載を始めてみましたが、複雑なため限られた本冊子に書くべきものではありません。当院では併用可/不可の一覧表を作り診察室に貼っていますが、処方を受け付けた薬局薬剤師さんは保険適応か否かを必ず確認してください。インスリンを含む併用薬の縛りが少ないのは、ビクトーザⓇとトルリシティⓇです。近く、リキスミアⓇも併用薬の縛りがなくなり、併用しやすくなるようです。
 重要な注意点は、インスリン依存症例なのに、インスリンをやめて切り替えると、ケトアシドーシスになりかねないことです。また単独使用では低血糖が起こらなくとも、SU薬などの血糖降下薬併用では低血糖の起こる可能性があります。

おわりに

 当院でも本製剤の適応例は多いのですが、「インスリン注射はご勘弁」という方にも「インスリンではない注射薬」と話すと同意してくれ、著効例が生まれています。
 本剤の抗炎症作用や(文献4)、心保護作用も知られていますが(文献5)、2016年6月の米国糖尿病学会では、昨年のリキシセナチドELIXA試験に続き、リラグルチドのLEADER試験も発表され、さらに注目されています。詳細は次回記載いたします。

参考文献

  • 1) 卯木 智、前川 聡:GLP-1受容体作動薬(フジメディカル出版) p33-41,2013
  • 2) Juris J Meier:Nat.Rev.Endocrinol 8, 728-742,2012
  • 3) 糖尿病治療ガイドp69-70 (日本糖尿病学会編2016-17)
  • 4) Y-S Lee, H-S Jun:Mediators of Inflammation1-11,2016
      (http://dx.doi.org/10.1155/2016/3094642)
  • 5) Y-M Kang, C-H Jung: Endoclinol Metab 1-17,2016 (Review on line)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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