糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第22回 インスリン療法をレベルアップする機器

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 48(2016年4月1日号)

 CSII(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは持続皮下インスリン注入療法で、インスリンポンプ療法(insulin pump therapy)とも呼ばれており、腹部や臀部の皮下組織に入れたチューブ(カニューレ)から基礎インスリンおよび、食事毎に追加インスリンを補うものです。今回はCSIIの紹介や指導の注意点とともにCGMやSAPについても述べます。

インスリンポンプの歴史

 初期のインスリンポンプはArnold Kadishによって作成されたポンプで、背中に背負う四角いリュックのような大きさでした(文献1)。1978年になり、インスリンを皮下に持続注入する、ポータブル型インスリンポンプをPickupら(文献2)が報告しました。これが現在のCSIIの始まりと言えます。その後1993年の「DCCT研究」でインスリン強化療法群にこれが多用されたことで一躍注目されるようになったという経緯があります。
 2016年現在、米国では約35万人がポンプを使用していますが、日本では主として1型糖尿病の7,000人余りです。

CSIIはどのように使用されるか

 CSIIの最大の利点は時間帯によってベーサル(基礎)インスリンの増減が自由にできることです。ランニング前に基礎インスリンを下げたり、早朝から午前中にかけてインスリン必要量が増加し血糖が上昇しやすくなる「暁現象」への対応も容易にできるのです!またボーラス(追加)インスリンも、食後のデザートの糖質量に合わせて適量追加などもいたって簡単です。ですから血糖変動の大きい症例や、MDI(インスリン頻回注射)では対応できない早朝高血糖への対応が容易になるのです。
 当院でも1型糖尿病で、MDIでもHbA1cが8%を切れず血糖変動も大きかった症例に「パラダイムインスリンポンプ722」を導入したところ、6.5%前後の推移が得られ、低血糖もほぼなくなるなど、患者さんのやる気と研究心がマッチすれば、すばらしい結果をもたらしてくれます。

CGM(持続血糖測定)について

 CGM(Continuous Glucose Monitoring)は皮下の間質液のブドウ糖濃度(以下血糖とする)を5分ごとに記録する機器です。現在日本に入ってきているのはメドトロニック社製のみ。2010年に発売された 「CGMSゴールド」は血糖が随時確認できる機種ですが、すでに販売・修理終了で当院でもお蔵入りです。2012年発売の「iProⓇ2」は親指と人差指で丸く囲めるくらい小型化。しかし記録されているかPCにデータを取り込んでみるまで確認できないため、万が一記録されていなかったらというスリルがあります。なお、日本先進糖尿病治療研究会によるCSIIおよびCGMに関するステートメントが出されています(文献3)。

リアルタイムCGM付きポンプ(SAP)

 2015年2月に発売された「ミニメド620G」は患者さんがリアルタイムで血糖の変化を見ることができるSensor Augmented Pump(SAP;エスエーピー、愛称サップ)で、従来のCSIIから一歩進んだ機器です(文献4)。SAPは血糖(推定値)や上昇・下降の変化(トレンド)を随時知れるほか、低血糖・高血糖でのアラーム機能が付いており画期的!しかしそれを活かすには患者さんの細かい対応が不可欠です。SAPの場合、従来の注入カニューレの他、もう一カ所CGMのセンサーを挿入する必要があります。また保険適応とはいえ月々の負担額はかなり増えることへの同意と理解が必要です。なおCGMは未だに糖尿病専門医相当の常勤医師2人以上のいる医療機関であることが保険適応とされ、またSAPにも施設基準のあることに留意を要します。

CSIIを行う医療機関での心構えと患者さんへの指導

 CSIIによる主なトラブルは、注入不全によるケトアシドーシスと、種々の原因による低血糖です。前者は注入器自体の不具合は稀とされ、主として注入カニューレの折れ曲がりや自然抜去によるもの。低血糖はインスリン注射と同様の理由で起こります。
 CSIIはすべての患者が良くなるわけではなく、当院でも不向きな方がいます。患者さんは血糖変動のデータを見て、ご自身でインスリン量を工夫して調整する必要があります。ですから、患者さんには「CSIIを活かすのはご自身ですよ」とその覚悟を持ってもらわないといけません。逆に言えば、それができない方はCSIIを導入する意味はないと言えます。
 SAPの場合、設定によってはアラームが頻繁に鳴るため、ナーバスになる方もいるので振り回されないように気をつけます。また、表示される血糖値は皮下の間質液の糖度を測定して推定しているため、実際の血糖変動より10分余り遅れます。それを理解し過剰に対処し過ぎないことも大切です。変化に対して落ち着いて対応し、2〜3時間後の血糖を安定させようくらいの気持ちでないと、かえって交互の低血糖・高血糖を招来させてしまいます。

おわりに

 現在、インスリン量調節だけでなく、グルカゴンも用いて血糖を安定させるといった本物の「人工膵臓」と呼べる器機の開発・治験が進められており(文献5)、理想的な血糖コントロール維持のために、機器はますます進歩していくことでしょう。

参考文献

  • 1)Manja Prasek Diabetologia Croatica 32-3:111-124,2003
  • 2)Pickup JC etc BMJ 1:204-207.1978
  • 3)小林哲郎 他 糖尿病57(6):403-415,2014
  • 4)廣田勇士 プラクティス32(6):678-684,2015
  • 5)黒田暁生 プラクティス32(6)693-696,2015

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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