糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第21回 インスリン製剤 (4)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 47(2016年1月1日号)

今回は基礎インスリンの重要性とそれを補充する製剤の特徴についてお話しします。
 インスリンを始めたのだから良い血糖コントロールになって当然、と考える患者さんがほとんどですが、改善が途中で止まる方も多いのが実情です。これは第1に理想的な基礎分泌を、生体の状況に応じて安定して供給出来るインスリンがないこと。第2にインスリンが皮下投与のため、門脈内に分泌される生体の内因性インスリンには太刀打ち出来ないことがあげられます。

基礎インスリン(Basalインスリン)補充は極めて重要

 健常人が丸一日食事を抜いても、なぜ低血糖にならないのでしょうか? これはグリコーゲン分解や、主として肝臓で糖質以外のものからグルコースが産生され(糖新生)、血糖値の低下による脳へのブドウ糖供給が不足するのを防いでいるからです。2型糖尿病でも基礎分泌低下例が多いので、うまく補充すれば血糖は格段に良くなります。

持効型インスリン製剤の登場

 近年まで長く使用されていた中間型NPHインスリンの作用時間は、実は決して長くなく、作用にピークがあり、今思えば極めて不十分な製剤でした。混合インスリン製剤も多用されていますが、サノフィ社から日本では2003年12月にインスリングラルギン(ランタスⓇ)(文献1)が発売されました。このグラルギンは酸性(pH4.0)の製剤中では無色透明ですが、皮下に注射すると等電点沈殿を生じ、その後徐々に溶解するために持続的なインスリン作用を示します。画期的な製剤で恩恵は大きく当院でも多くの症例に用いられています。しかし24時間効いたとは思えない症例も散見され、一日持たずに血糖が上昇に転じるため、朝夕2回注射にする例もあります。なお日本で2007年12月に発売された持効型インスリンデテミル(レベミルⓇ)は、有効時間は18時間位の製剤です。

持効型インスリン製剤の進歩

 近年、これらの欠点を改善する新しい製剤が2つ登場しています。1つ目は日本で2013年3月にノボノルディスク社から発売されたインスリンデグルデク(トレシーバⓇ)(文献2)。このインスリンの持続機序は極めてユニークで、元の溶液は6量体のインスリンが2つ集まった「ダイヘキサマー」ですが、皮下注射をすると、組織内でどんどんと連なって長いマルチヘキサマーとなります。この両端から順にフェノールがとれながら分解するため、24時間以上の安定したインスリン作用を示すのです。
 もう1つは、2015年9月に発売されたばかりの持効型インスリン、インスリングラルギン300U/m(l ランタスXRⓇ)(文献3)(文献4)です。こちらは従来のグラルギンの濃度を3倍にした製剤で、沈殿物はランタスの1/3、表面積は約半分となりゆっくり溶解します。この濃くしてみるという単純な発想により持続時間を延長したのです!
 では他の製剤でも濃縮が持効型インスリンを生まないのでしょうか? ヒトインスリンのpHは6.4とやや酸性に傾いていますが、ランタスのpHは元々4.0でありその性質故に注射後皮下組織で等電点沈殿を起こすのです。しかし他の種類のインスリンはpHを酸性にすると分解され、インスリンの活性が低下してしまいますので、単に濃縮すれば良いと言うわけにはいきません。

持効型インスリンのコツ

 使い方のコツをまとめてみると、①眠前血糖と起床時血糖の比較等で、持効型が24時間効いているか、血糖の低すぎる時間帯が無いかをチェックする。②ランタスは食事時間が一定になりやすい朝食時か、ピーク時を考慮して夜注射とするかを選択する。③シフト勤務者など不規則な方は、トレシーバかランタスXRへ変更。④GLP-1受容体作動薬との併用もあるが、基本は経口血糖降下薬との併用で、うまくいかなければ強化インスリン療法へ。
 BOT(経口血糖降下薬症例に1日1回だけ基礎インスリンを追加すること)は楽で妖しい魅力があります。この場合1日3回注射(文献5)からスタートしている症例は良いのですが、1回で始めた方は注射回数の増加に抵抗します。血糖コントロール不十分なら、その安 易さから脱却するのは医師・患者共に乗り越えなければならない壁と考えます。

参考文献

  • 1) 小杉圭右:薬物療法の実践 医薬ジャーナル社165-173,2015
  • 2)寺内康夫:診断と治療101(11),1733-1740,2013
  • 3)Matthew C. Riddle:Diabetes Care37.2755-2762,2014
  • 4)G.B.Golli:Diabetes Obesity and Metab.17:386-394,2015
  • 5)加藤光敏:東京内科医会会誌29(2)133-138,2013

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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