糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第18回 SGLT2阻害薬 (5)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 44(2015年4月1日号)

 今回第6番目のSGLT2阻害薬(以下SGLT2i)エンパグリフロジンが発売され6種7製品と なりました。最近の研究ではSGLT2iの糖毒性解除効果も注目されつつあり(文献1)、日本での副作用懸念、処方数鈍化とは裏腹に米国ではカナグリフロジンがシタグリプチンの処方数を上回るなど着実に伸びています。昨年のこの連載を読んでいただいた先生方から、同剤について良い質問がいくつも寄せられましたので、その内容も踏まえ解説したいと思います。

最新エンパグリフロジンの特徴

 この1年で予定されていた最後のSGLT2iエンパグリフロジン(販売名:ジャディアンス)が2015年2月24日に発売されました。10mg(25mgに増量可)朝1回服用の薬剤で、吸収は早く内服後約1.5時間でピークに達します。代謝は主としてグルクロン酸抱合で、尿中・糞中排泄は約半分ずつ、血漿蛋白結合率は約85%です。最大の特徴はSGLT2選択性が極めて高く、トホグリフロジン(アプルウェイ/デベルザ)と少なくとも同等と言えます。しかし半減期は10mg単回投与でも9.9時間とトホグリフロジンの約2倍で、服用5日以内に定常状態に達します。(文献2)

SGLT2選択性の意義

 この高いSGLT2選択性の意義はなんでしょうか? SGLTの6つのアイソフォームの内、SGLT2は腎臓に特異的に発現しますが、SGLT1は小腸、心臓、気管、腎臓に発現しており、SGLT1の阻害は、小腸では下痢、心臓では虚血性時にはマイナスに働く可能性が検討されています。さらにSGLT6は脳に発現しており、その阻害で副作用に繋がる症例が無いかは見守る必要があります。このことからもSGLT2のみを選択的に阻害しておけば無難だと思われます。
 しかしSGLT1の阻害作用を持つカナグリフロジン(カナグル)を健常者に用いた研究では糖質吸収を遅らせます。このデータを見ればαグルコシダーゼ阻害薬服用との類似にすぐ気づくと思います。(文献3) 選択性の違いはそれぞれ各薬剤の特色を表わすと考えます。

SGLT2i発売から1年、薬剤の違いは臨床的には証明されたか

 各薬剤はほぼ同じと考えている先生も多いのですが、実は各薬剤の特徴が明らかにされつつあると私は考えています。まず、2014年5月にSGLT2iが日本で発売された頃に私が提唱した、「SGLT2i をカナグリフロジン型とトホグリフロジン型として考えてみること」です。カナグリフロジンの特徴は①SGLT2選択性が低 ②蛋白結合率は高 ③半減期は長 ④代謝は肝や腎でのグルクロン酸抱合 ⑤尿中未変化体の割合が低で、この全く逆がトホグリフロジンです。(文献4)
 薬剤で効き方に違いがあるか否かの証明はきちんとコントロールされたスタディに任せるとして、日常臨床では頻尿の違いが分かりやすいと思います。例えばトホグリフロジンのみ半減期が短いので夜間頻尿が少ないというデータが近々発表されるかもしれません。当院の経験でも半減期の短いトホグリフロジンを処方したところ、昼間は尿の回数が増えましたが、夜中は起きる必要が無くなった方がいます。逆にカナグリフロジンタイプの方が24時間尿糖を出すので有効性が高い可能性もあり、各薬剤全く同じとは到底考えられないと思います。

SGLT2iの腎機能改善機序tubular hypothesisについて

 eGFRが低ければSGLT2iは効果が減少すること、糖尿病性腎症で生じる糸球体過剰濾過(glomerular hyperfiltration)を改善することを記載しました。(文献5) SGLT2iの腎機能改善の有力な機序はtubular hypothesisですが、質問の多い事項なので分かりやすく解説いたします。
 2型糖尿病では高血糖にもかかわらずSGLT2が過剰に発現し糖の再吸収が亢進、尿糖が出にくくなっています。その状態ではブドウ糖と同時にNaClの再吸収が増え、GFRの変化をNaC(l 特にCl-)で感知しているとされる遠位尿細管の緻密斑(macula densa)では「NaClが減少した、GFRが低下している!」と判断してしまい、輸入細動脈が拡張します。これは糸球体内圧を上昇させてしまい腎臓に負担をかける不利な方向への変化です。
 ここにSGLT2iを使用すると遠位尿細管ではNaClが増加するのでGFRが保たれたと判断し輸入細動脈拡張を解除し、腎糸球体内圧の低下等を来たし腎保護に有用に働きます。このように糖尿病患者さんでは「GFRが低下すると輸入細動脈の抵抗を変化させGFRを維持しようとする tubu loglomerular feedback(TGF)mechanism」の障害を改善することが期待されるのです。(文献6)

おわりに

 糖尿病患者さんは脳梗塞、心筋梗塞等大血管障害のリスクが高い方です。SGLT2iは、利尿作用による脱水傾向があるため直接の関連が無くても、重篤な副作用とされやすい薬です。利尿薬では誰も話題にしないのに、問題視されるのは新薬だからです。HbA1c・体重の改善を指標とすると、当院での使用経験ですが、両方有効が6割、両方わずかでも悪化は1割弱、残りがどちらかの改善です。良く効く薬ですが、医師・薬剤師が「作用機序と注意点」を患者さんに説明しておくことが極めて重要です。それが空腹感によるリバウンドも防ぎます。「有効性を期待して使用し、万一合わなかったらすぐ撤退」という気持ちで用いることが重要と考えます。

参考文献

  • 1)宇都宮一典、Ele Ferranniniら対談 Diabetes Update Vol.4(No.1):4-11,2015
  • 2)Kanada.S J Diabetes Invest. 4:613-617,2013( エンパグリフロジン承認時評価資料)
  • 3)D.Polidori et al Diabetes Care 36:2154-2161,2013(カナグリフロジンでSGLT1 の阻害作用により腸管での糖質の吸収が遅くなる)
  • 4)加藤光敏 糖尿病情報Box & Net.No.41
  • 5)加藤光敏 糖尿病情報Box & Net.No.42
  • 6)羽田勝計 Prog.Med 34:687-691,2014

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※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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