糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント

第16回 SGLT2阻害薬(4)

加藤光敏 先生(加藤内科クリニック院長)

筆者について

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 42(2014年10月1日号)

 SGLT2阻害薬(以下SGLT2i)は、すでに5剤が発売されました。長岡市での講演のおり、質 疑応答で12もの質問を受け、やはり難しい側面を持つ薬なのだとつくづく感じました。今回は、 医療スタッフが知っておくべき重要な内容について、質疑応答形式で解説したいと思います。

SGLT2iは食後・空腹時どちらを下げる薬ですか?

 本剤は食後・空腹時のどちらも血糖依 存的に下げる薬です。イプラグリフロジン 治験時に「血糖日内変動試験」が行われ、 両方を下げたデータが発表されています。 またカナグリフロジン、ダパグリフロジンの 国内試験でも同様です。しかし空腹時血 糖があまり高くない症例では、空腹時は大 きな変化がないので、当然のことながら食 後の血糖改善がみられるようになります。

SGLT2iと糖質制限食とは同じことと考えて良いでしょうか?
 またSGLT2i服用時の食事療法は?

 体内の糖の流れは両者間で有意な相違をもたらします。糖質制限食では、腸管から門脈を経て肝臓に直接流れ込む食事由来の糖質量は減りますが、SGLT2iでは減っていません。このような違いが存在するため、患者さんには"食事を減らすのと同じこと"と安易に考えないように指導しておかねばなりません(文献1)。
 適切な食事療法は特に重要です。例えば、夕食で米飯など主食を抜く例には、極端な糖質制限にならないように指導します。糖質不足の状態では体内脂肪の分解では間に合わなくなり、筋肉分解に至る可能性が出てきます。SGLT2i使用時の尿中ケトン体出現は、脂肪分解の亢進時に認められるので一概に悪いとは言えませんが、インスリン分泌力低下が顕著な2型糖尿病例では危険信号です。個々の病態をしっかり捉えることが大切です。
 なおSGLT2iを糖尿病マウスに投与した試験では、自由摂食量の増加が知られています(文献2)。ヒトでも理論的な体重減少に比較して、実際はその1/3程度に留まっています。 その理由としてEle Ferranniniは食事摂取量の増加によるものと報告しています(unpublished)。これだけではないとは思いますが、患者さんには服用8週間で体重減少が止まり始める頃、食事の注意をもう一度促すことがポイントです。

SGLT2iで血圧が下がりますが、作用機序から考えるとNa+の尿中排泄増加による降圧と考えて良いのでしょうか?

 ここは議論の多いところで、SGLT2iはグルコースとNaのトランスポーターですから、阻害によるNa尿中排泄増加での降圧と私も考えていました。ところが、SGLT2iによるNa再吸収抑制があっても遠位尿細管で再吸収が亢進するため、尿中へのNa排泄増加はないようなのです。従ってSGLT2iによる降圧は、グルコースにより尿細管内の浸透圧が上昇し、これを等張に保つため水再吸収が減少する「浸透圧利尿」が主作用と考えらます。さらに体重減少後はインスリン抵抗性改善による降圧も加わるでしょう。

eGFRが低いとSGLT2iの効果が少ないとのことでしたが、SGLT2iは腎臓に対してどのような影響を与えますか?

 糖尿病性腎症の早期に生じる糸球体濾過量(GFR)の増加を糸球体過剰濾過(glomerular hyperfiltration)といい、腎症悪化と関連する重要な要因です。近年、動物モデルでフロリジンを投与すると糸球体過剰濾過が改善することがわかり、尿細管糸球体フィードバック(TGF)機構へのSGLTの関与が言われています(文献3)。海外で1型糖尿病患者40例にエンパグリフロジンを8週間投与したところ、糸球体過剰濾過のある患者ではGFR値が改善したため、SGLT2iはTGFを介した腎保護作用を持つことが報告されています(文献4)。カナグリフロジンでは糖尿病性腎症の進行抑制を期待して国際共同試験(CREDENCE試験)が 開始されています。なお実臨床ではeGFRが低い症例(30mL/分/1.73㎡未満)において著しくその有効性が落ちますので、少なくとも50mL/分/1.73㎡以上の症例に使用するのが良いと考えます。

メトホルミンとの併用は良いでしょうか?

 SGLT2i投与で尿中に糖が排泄され、補充として肝の糖新生を増加させるためにグルカゴン濃度が上昇します。メトホルミンのグルカゴン抑制作用を考えると両者は有効性の高い組み合わせです。しかし、脱水時にはビグアナイド薬による乳酸アシドーシスの可能性が高まるなど、高用量では注意を要します。また肝糖新生が抑制され、さらに摂取糖質低下は低血糖になりやすい状況です。有効性が高いだけに副作用にも注意が必要です。

市販後特に副作用として注意すべきものがありますでしょうか?

 皮膚関連の副作用は治験時にも報告されていましたが、市販後の皮疹・紅斑報告はかなり増えています。皮疹・紅斑の発現は、特に投与1〜2週以内が目立っており、Stevens Johnson症候群が疑われる症例も報告されています。患者さんにもしも皮膚症状が出たらすぐに服用を中止し、主治医への報告と速やかに皮膚科受診が必要という初期の服薬指導が必須です。もう一つはインスリンとの併用で重症低血糖が複数報告されています。これを防ぐためには、あらかじめインスリンを減量、血糖測定回数を増やす、初めの1〜2週はSGLT2iを半量から始めるなど、万が一の重症低血糖を予防する心構えを忘れてはいけません。
 その他予想されている低血糖、体液量減少(脱水)、脳梗塞、尿路・性器感染症など、副作用報告は高齢者症例で多く、やはり65歳以下の肥満例への使用が無難と考えます。日本糖尿病学会の2014年8月29日付け「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(文献5)もご確認下さい。

まとめ

 SGLT2iは、血中インスリンの状態によらない血糖低下作用をもたらす新たな薬剤です。確実な体重減少作用を持つSGLT2iはこれまでにない薬ですが、難しい薬でもあります。適正に使用されることで、短・長期的な安全が確立されることを願います。

参考文献

  • 1)川浪大治ら Prog Med.34(4) p53-56,2014
  • 2)Nagata T et al. Br J Pharmacol :170:519- 531,2013
  • 3)羽田勝計 Prog Med.34(4)p49-52,2014
  • 4)Cherney ZDI et al. 129:587-597,2014
  • 5)http://www.jds.or.jp

関連情報

筆者より -SGLT2阻害薬の適正使用について-

 これまでSGLT2阻害薬のシリーズで、「難しい薬なので、適応を考えて充分慎重に」と書いて来ました。SGLT2阻害薬はとても良く効く症例を経験する反面、発売後は脳梗塞など死亡例を含め重大な副作用が報告されています。これまでの情報では直接の因果関係ははっきりしないものが多いとされています。胃薬を服用して脳梗塞で死亡しても薬のせいとは言われませんが、この薬は利尿作用による脱水注意等々があるため、直接関係がなくても薬の副作用で死亡とされがちです。糖尿病患者でなくても、年齢とともに脳梗塞・心筋梗塞など死亡率が高くなるのが人間の宿命です。脳梗塞などが増加する高齢者や、動脈硬化が既に進行している方にも原則として投与を避けるのが無難です。また、副作用かと思ったら、すぐに服薬を中止する指導が必要と思います。(2014年11月)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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