私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

7. WHOの問合わせで集団検診開始、GTTでインスリン治療予知を研究

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

1.日本の糖尿病の頻度の問合わせ

 1950年6月に朝鮮戦争が起こって(51年7月休戦)、崩壊状態にあったわが国の経済が特需景気で潤い、第2次大戦中および敗戦後の食糧不足も緩和され、食糧配給切符を持たずに旅行できる時代となった。戦後しばらくは、みることもなかった糖尿病患者が外来に現れるようになった。戦前から糖尿病に関心を持っていた大学の内科教室ではふえてきた糖尿病患者を外来でまとめて治療を継続しようとする気運が高まっていた。

 そこに1948年に設立されたばかりの WHO(世界保健機構)から糖尿病の頻度について問い合わせがあり、関係省庁を介して編成後間もない糖尿病研究班が回答することになった。このような事情で、メゾキサンの治験が目的であった糖尿病研究班は、わが国の糖尿病の実態調査を行うことになった。1957年2月11日東京大学薬理学教室で班会議が開かれ、その後に集団検診についてつぎのような依頼状が送られている(関連部分を抜粋)。

 去る2月11日、開催されました第1回の会合におきましてメゾ蓚酸塩の臨床実験及び我国糖尿病頻度に関する研究を行う事になりました。

  (省略)

糖尿病頻度に関する研究

  1. 対 象:この検査の目的は我国糖尿病頻度に関する研究でありますから、その対象は健康人とみられる社会集団と広く御解釈願います。
  2. 人 員:自由
  3. 年 令:基準をどこにおかれても結構です。たとえば40歳以上、または30歳以上とされても差し支えございません。
  4. 性 別:困難な検査ではありますが、検査の対象となり易いと考えられる男子、次いで女子についても充分御配慮ください。
  5. 検査方法:種々の論議及び困難があり、先日の会合におきましても葛谷班員より極めて予備的な且つ基礎的な data が報告されましたが、次回の会合には他の方々の data をお持ち寄り願い、特にこの点について充分御検討いただき、次年度以降、各人が協同して行う Detection Drive の基礎を固めたいと存じます。
  6. 血糖の測定:毛細管血、Hagedorn 法としておきますが、他のどんな方法を御採用になりましても差し支えございません。
  7. 尿糖検査:何れの方法でも結構です。但し Tes-Tape は集団検診を行うために便利でありますので現在、早急に入手すべく努力しております。(省略)
  8. 第1次検査は血糖検査のみ、尿糖検査のみ、またはこの両者を併せて行っていただいても結構です。(省略)
糖尿病研究班 幹事 大橋 茂、葛谷 信貞

 このようにして糖尿病の集団検診が全国各地で行われることになった。

2.GTT 基準値とインスリン治療要・不要の予知

 それより3、4年前にそれまで診断に用いられていた糖二重負荷試験は単一負荷曲線を2つ重ねたものにすぎないことから、ぶどう糖は1回の負荷試験でよいとわかったので、その診断基準値を作る研究を行った。同年輩の清野耕吾、伊藤伊三雄の両君とルチーン検査をやりながら、健常者17名、非糖尿病患者37名、腎性糖尿6名、インスリン不要糖尿病41名、インスリン必要糖尿病35例の50g GTT の成績を1956年までにまとめ翌年英文で発表した。その結果は図12のようになった。

図1 50g GTT の各群の血糖値の分布
各群毎の血糖値の分布をみると、空腹時にもインスリン不要糖尿病(山川の1型)と健常者との間にはオーバーラップがみられる。健常と軽症糖尿病とは連続していることが知られる。

図2 各群の50g GTT 平均曲線
各群の各時点での平均値±標準偏差を示した。ただし腎性糖尿は健常者と重なるので省略した。

 この成績から正常基準値は空腹時120mg/dl 以下、頂値200mg/dl 以下、2時間値120mg/dl 以下で尿糖陰性とした。耳朶血、Hagedorn-Jensen 変法の藤田・岩竹法(除蛋白に Zn(OH)2 ではなく Cd(OH)2 を用いる方法)の値なので真血糖法ではこれより20mg/dl 低値となる。このようにして正常の基準値はきめることができた。したがってこれより逸脱したものは異常と判定されることになるが、当時筆者らはそのことよりも治療にインスリンを必要としない糖尿病(山川章太郎教授が1型と分類したもの)と治療にインスリンを必要としコントロール後もインスリン依存性のもの(2型)とを予知することに興味を持っていたのでそれに焦点を当ててまとめた。そして平均値(M)と標準偏差(SD)から1型の M+SD 、II型の M-SD を求め空腹時、頂値、2時間値がそれぞれ195、332、280mg/dl 以下ならばインスリンが必要でなく(1型)、218、348、298mg/dl 以上ならばインスリンが必要(2型)とすると80%が適中することがわかった(図3)。

 この研究で、健康者の中には明け方に血糖が30mg/dl 近く上昇する例を経験した。文献を調べ、それは1924年 Hatlehol により奇異性血糖上昇として観察されている現象と知った。これはしばらく成書から消えていたが1985年に暁現象という名でリバイバルした。

図3 インスリンを必要とする糖尿病(山川の2型)と必要としない糖尿病(1型)の GTT の範囲

 この研究をすすめながら、糖尿病には遺伝的素因の関与が大きいことを感じ、これを予知することはできないかと考えるようになった。

GTT:glucoce tolerance test ブドウ糖負荷試験

(2014年05月01日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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