オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

67. 糖尿病患者における低強度生活活動の意義

勝川 史憲 先生(慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター所長)

勝川 史憲 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 67(2021年1月1日号)

食事調査の過小評価

 種々の食事調査は、普段のエネルギー摂取量を平均20~30%も過小評価する。このことは最近広く認識されるようになった。エネルギー必要量(現体重を維持するのに必要なエネルギー摂取量)を評価するのに、食事調査でなく、総エネルギー消費量の測定が用いられるのはこのためである。
 糖尿病患者で、精度の高い測定法(二重標識水法)で総エネルギー消費量を評価した成績は少ない。しかし、日本人の成績はこれまでに3件報告されている。それぞれ、首都圏、滋賀県の糖尿病患者、肥満糖尿病患者であり、(海外の成績も含めて)いずれも血糖正常の対照群と総エネルギー消費量に差を認めない。糖尿病患者のエネルギー摂取量の管理には、血糖正常の健常人のデータを用いることができそうである。

糖尿病患者のエネルギー必要量

 さて、総エネルギー消費量の内訳を見ると、糖尿病患者の基礎代謝量は、健常人と比べて差がないか数%程度高い。これは肝臓の糖新生に由来するエネルギー消費量とされている。実際に、基礎代謝量予測値からの実測値のズレは、空腹時血糖が高いほど大きくなる。一方、糖尿病患者の身体活動量は健常人と差がないか、わずかに少ない。したがって、総エネルギー消費量の10%を占める食後の熱産生(特異動的作用)に、これら基礎代謝量、身体活動量を加えた総エネルギー消費量は健常人と差がない。これは海外のデータからもあらかじめ予想されていたことである。しかし、予想していなかったのは、一般集団とほぼ同等の身体活動レベルのバラつきが、糖尿病患者においても認められたことである。

身体活動レベルと低強度生活活動

 前記の滋賀県の糖尿病患者(平均70歳)を、身体活動レベル(PAL=総エネルギー消費量/基礎代謝量)で3群に分けると、PALの高い群と低い群の総エネルギー消費量はそれぞれ2,400kcal/日、1,900kcal/日と約500kcal/日の差を認めた。しかも、二重標識水法の測定と同時に行った加速度計による運動強度別の身体活動時間の評価によれば、このエネルギー消費量の差は、主に歩行以外の低強度身体活動(1.5~3メッツ)と座位行動(1~1.5メッツ)の多寡に由来していた。
 運動習慣のない一般集団では、中~高強度身体活動が1日に占める時間はごくわずかであり、1日のほとんどの時間は低強度身体活動と座位行動に費やしている。それが大きなエネルギー消費量の差をもたらすことを示したデータはそれほど多くないが、地域在住高齢者で性・年齢をマッチさせたフレイル・非フレイル群を比較した最近の研究(平均75歳)でも、同様の所見が認められている。すなわち、低強度身体活動と座位行動の多寡により、非フレイル群(2,496kcal/日)、フレイル群(1,893kcal/日)では600kcal/日の総エネルギー消費量の差が認められた。

糖尿病患者における低強度生活活動の意義

 前記の糖尿病患者では、3群でBM I、 HbA1cに差を認めず、こうした低強度の生活活動によるエネルギー消費量の大きな差は、体重や血糖コントロールには貢献しないようである。しかし、このエネルギー消費量に見合ったエネルギー量を食事で摂取しているので、PALの高い群では、低い群に比べて毎日十分量のエネルギー・栄養素が摂取でき、長期的にフレイルの進行予防に貢献する可能性がある。実際に、3群で食事調査のたんぱく質のエネルギー比率は15%前後と差を認めなかったが、総エネルギー消費量で補正したタンパク質の摂取量(g/kg)は、PALの高い群、低い群でそれぞれ1.5g/kg、1.2g/kgであった。PALの低い群でも推奨量は充足するが、PALの高い群の方がフレイル進行予防にはより有利と考えられる。フレイル予防のための運動としては、通常、レジスタンス運動やバランス運動が指示されることが多いが、座位行動を減らし低強度生活活動を増すことも、エネルギー摂取量の増加を介してフレイル進行予防に寄与する可能性がある。
 中~高強度の運動・身体活動とは対照的に、座位行動・低強度生活活動は意図的に行うものではない。このため、低強度生活活動を「心がけ」によって増加させることは難しいかもしれない。運動強度・時間・頻度による分類は、運動の後付けの分析には有効だが、低強度生活活動に含まれる多彩な活動内容を把握するには不十分な枠組みのように思われる。低強度生活活動の増加には、まず、従来の分類とは異なる枠組み(生活行動分類など)を用いた評価を考慮することから始めるべきかもしれない。

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