オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

66. 体組成を踏まえた糖尿病診療を考える

田中 逸 先生(横浜総合病院糖尿病センターセンター長)

田中 逸 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 66(2020年10月1日号)

はじめに

 肥満は運動不足と並んでインスリン抵抗性の主要な原因と言われます。しかし、過体重=肥満ではありません。脂肪量は少なくても筋肉量が多いために体重が重い人もいます。本当の肥満者は脂肪量が過剰な人です。また低体重の人が体格を良くしたいからと言って食事を増やして体重が増加した場合、筋肉量は変化せず、脂肪量のみが増加していれば、代謝的に良いこととは言えません。従って、体重だけでなく、体組成も評価することは糖尿病診療における基本ではないかと思います。

体組成とインスリン感受性

 体組成の精密検査には二重X線吸収法(Dual Energy X-ray Absorptiometry:DXA)が用いられますが、高額な機器であり、一般の医療機関ではマルチ周波数体組成計(Bioelectrical Impedance Analysis:BIA)が広く使用されています。BIA法の機器はDXA法との相関性も良く、X線を使用しないのが利点です。但し、DXA法もBIA法も体脂肪量の測定は可能ですが、体筋肉量は測定できません。そこで、四肢の除脂肪量(骨と脂肪以外の成分量)が四肢筋肉量にほぼ相当することから、これを四肢筋肉量として用いています。これまでのインスリン感受性と体組成に関する検討から、インスリン感受性には体脂肪量と体筋肉量の両方が関与し、体脂肪量と四肢筋肉量はそれぞれ独立したインスリン感受性関連因子とされています。最近の検討では、体脂肪量や四肢筋肉量の単独より、四肢筋肉量/体脂肪量の比率(M/F比)が最も相関性が高いと報告されています。以上から、体組成の評価は体脂肪量、四肢筋肉量、両者の比率の3項目を評価する必要があると考えています。

体重減少時は筋肉量も減少する

 過体重の糖尿病患者さんがエネルギー量を制限した食事 療法を行った場 合や、 SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬など体重減少が期待できる薬剤を使用した場合、体重が減ると患者さんは喜ばれるのですが、体脂肪量と四肢筋肉量はどのように変化しているのでしょうか。できれば体脂肪量のみが減少し、四肢筋肉量は変化しないのが理想ですが、実際はそうではありません。これまでの検討では、レジタンス運動を行わず、通常の有酸素運動のみでエネルギー制限食を継続すると、体脂肪量も四肢筋肉量も共に減少し、大腿筋力も低下したと報告されています。またSGLT2阻害薬を用いると、体重、体脂肪量、肝内脂肪量がいずれも減少しましたが、四肢筋肉量も減少したことを私たちは報告しています。 GLP-1受容体作動薬についても検討しましたが、興味深いことに同薬を使用すると体重も体脂肪量も肝内脂肪量も減少した一方で、四肢筋肉量は変化しませんでした。従って、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬と異なり、筋肉には同化的に作用した可能性を推測しています。このように体組成を経時的に評価し、体重変動の背後にある脂肪量と筋肉量の変化を踏まえて、治療方針の継続や変更を検討することが大切ではないでしょうか。

妊娠糖尿病はM/F比に問題が

 日本では妊婦さんの8人に1人が妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus:GDM)と言われています。私たちが経験したGDMの300例について妊娠前BMIに関する度数分布曲線を作成してみると、最も度数が高いのはBMIが19~20の集団でした。なぜ過体重ではないのにGDMになるのでしょうか。そこで、正常妊婦群(75gOGTTでGDMの診断基準を満たさない正常者)とGDM群に分けて、マタニティーモード機能付きで妊婦さんにも使用可能なBIA法の機種を用いて体組成を測定し、75g-OGTTから計算できるインスリン抵抗性の指標(Matsuda Index)について比較しました。両群間で平均BMIに差はありませんが、 GDM群ではMatsuda Indexが低値で、インスリン感受性が低いことが分かりました。そして、GDM群はM/F比が正常群に比して低値でした。以上から、GDMの妊婦さんはBMIが正常であっても、四肢筋肉量と体脂肪量のバランスが悪く、体脂肪量に対して四肢筋肉量が相対的に少ないことがインスリン感受性低下に関与している可能性が推測されました。この結果はGDM予防の重要なヒントを与えてくれたと考えています。すなわち、妊娠計画する方に対して、筋肉量を増加させ、体脂肪量を減少させて、両者の比率を良くする、そのための個別的な食事や運動の計画とアドバイスがGDM対策としてまず重要ではないでしょうか。

おわりに

 体組成を評価することの重要性について述べました。過体重者、低体重者、妊娠を計画する女性、サルコペニアの高齢者など、様々な方に対して体脂肪量と四肢筋肉量の情報を活用した診療を考えていただくうえでのご参考になれば幸いです。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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