オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

62. J-DOIT3:2型糖尿病患者を対象とした血管合併症抑制のための多因子介入研究
-J-DOIT3の結果と追跡研究への期待-

岩本 安彦 先生(新百合ヶ丘総合病院 糖尿病センター センター長)

岩本 安彦 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 62(2019年10月1日号)

J-DOIT3のプロトコールの概要

 J-DOIT3は2型糖尿病の大血管合併症を30%抑制する介入方法の検証を目標に、厚生労働省の戦略研究の一環として行われた臨床研究です。
 大血管症のハイリスクである高血圧または脂質代謝異常のある2型糖尿病患者(45~69歳)2,542例が全国81施設で登録され、 2006年7月に開始されました。対象をHbA1c<6.2%、血圧<120/75mmHg、LDL-C<80mg/dL(冠動脈性心疾患CHDの既往のある場合は<70mg/dL)を治療目標とする強化療法群(n=1,271)と、HbA1c<6.9%、血圧<130/80mmHg、LDL-C<120mg/dL(CHDの既往のある場合は<100mg/dL)を治療目標とする従来治療群(n=1,271)の2群に分け、一次エンドポイント(主要評価項目)が250例に達するまで介入試験が行われました。主要評価項目は死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、脳動脈血行再建術の5項目とし、具体的な治療法として強化療法群では肥満者はBMI=22を目指し、総カロリー≦25kcal/kgの食事療法、加速度計を貸与した運動療法、さらに血糖測定器と血圧計を貸与した自己測定を行いました。血糖コントロールを目指す薬物治療は、強化療法群ではSTEP1~3までインスリン抵抗性改善薬とインスリン分泌促進薬、またはインスリンを組み合わせる治療が行われ、一方、従来治療群では現行のガイドラインに沿った治療が行われました。

J-DOIT3の2群の登録時の背景の比較

 2群の割付けは年齢、性、大血管症の既往、HbA1cの4項目で行われましたが、年齢(59.1歳, 58.9歳:従来治療群, 強化療法群以下同)、女性(37.8%, 38.2%)、大血管症の既往(11.2%,11.5%)、HbA1c(7.98%,8.01%)で、その他糖尿病の罹病期間、体重・BMI、空腹時血糖値、血圧、脂質(LDL-C、HDL-C、TG)に差はありませんでした。喫煙の有無についてのみ、強化療法群で有意に喫煙有りが高いという結果でした。

介入試験中の危険因子の経過は?

 介入期間は8.5年と当初の予測より長期となりましたが、医療側の努力と患者側の協力により、脱落率は両群とも10%未満でした。
 介入期間中の各危険因子の平均値は、 HbA1cは6.8% vs 7.2%(強化療法群vs従来治療群 以下同)、血圧は123/71mmHg vs 129/74mmHg、LDL-Cは85mg/dL vs 104mg/dLと、いずれも群間差がみられました。また、平均BMIは両群ともほぼ横ばいの状況でした。
 介入期間中の糖尿病治療薬の推移は、登録開始時はSU薬とα-GIが多く、終了時には両群ともビグアナイド薬とDPP-4阻害薬が多いという結果でした。長期にわたった介入期間の間に、新しい治療薬の登場とエビデンスの蓄積があったことによるものと考えられます。

介入期間のイベント発症は?

 介入期間中に認められたイベント数は242例で強化療法群109件、従来治療群133件でした。死亡は45件 vs 40件(強化療法群vs従来治療群 以下同)、心筋梗塞は5件 vs 11件、脳梗塞を中心とした脳卒中は15件 vs 37件であり、ガイドラインに沿った従来治療と比較した強化療法の脳血管イベント発症に及ぼす効果は-58%(p=0.002)、副次評価項目の腎症イベント発症に及ぼす効果は-32%(p<0.0001)、網膜症発症に及ぼす効果は-14%(p=0.046)でした。
 安全性については、強化療法群においても重症低血糖の発症は極めて低率でした。

J-DOIT3の成果と追跡研究への期待

 厚生労働省の戦略研究の一つとして全国81施設の参加により、2,542例の大血管症の発症リスクが高いと考えられる2型糖尿病患者を対象に8.5年間の長期にわたる介入研究が行われました。その結果は第53回EASDにおいて発表された後、Uekiらにより論文として発表されました
 本研究によって、厳格な血糖コントロールが重症低血糖を増加させることなく実現できることが示されました。今後、引き続き進められている追跡研究の解析も踏まえて、2型糖尿病患者の合併症予防に向けてわが国の新しい診療指針が示されることが期待されます。
* Ueki K et al.:Lancet Diabetes Endocrinol. 12:951-964, 2017

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス 目次

2020年01月16日
慢性腎臓病(CKD)により体内時計が乱れる 中枢時計や末梢臓器の時計の乱れが腎機能をさらに悪化させるという負の連鎖
2020年01月16日
「郡山市における糖尿病対策に係る共同研究」の結果 ノボ、郡山市、福島県立医科大学 治療中断者は糖尿病への理解や認識が不足している
2020年01月16日
サノフィが「Diabetes.Your Type.」キャンペーンを開始 糖尿病患者が病気を隠さずにいられる社会を
2020年01月16日
歯周病の治療で糖尿病の合併症が減り、費用対効果がアップ
2020年01月09日
高齢2型糖尿病患者の低血糖リスクを3項目で評価
2020年01月08日
SGLT2阻害薬「ジャディアンス」がDPP-4阻害薬に比べ2型糖尿病患者の心不全による入院、末期腎不全および全死亡リスクを低下
2020年01月07日
肥満・糖尿病とアルツハイマー病を合併すると寿命がさらに短縮 脳内グリア細胞の関与を示唆
2020年01月06日
糖尿病リソースガイド 【2019年にもっとも読まれたニュース ベスト20】
2019年12月26日
「糖尿病治療におけるTime in Range(TIR)の重要性と血糖トレンドの活用」を公開
2019年12月25日
2型糖尿病の「隠れ肥満」はインピーダンス法で簡単に判定できる CTによる内臓脂肪面積の測定と高い相関 国立循環器病研究センター
4コマ劇場 糖尿病看護のあるある体験談