オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

59. GLP-1受容体作動薬による動脈硬化抑制

綿田 裕孝 先生(順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学 教授)

綿田 裕孝 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 59(2019年1月1日号)

糖尿病治療薬への期待

 心血管イベントは糖尿病患者の死因として重要な位置を占めることが知られています。従って、心血管イベント抑制は糖尿病治療の大きな目標です。この目標を達成するために、低血糖、体重増加をきたさないよう血糖を管理すること、血圧、脂質、喫煙等のリスクを総合的に管理することが最も重要です。しかし、糖尿病治療薬が直接動脈硬化を抑制する作用をもちあわせれば、糖尿病治療薬としては理想的です。

直接動脈硬化抑制の可能性

 2010年、我々は世界に先駆けてGLP-1受容体作動薬に直接動脈硬化を抑制する作用がある可能性を示唆するデータを報告しました。その際用いたマウスはⅢ型高脂血症様の脂質異常症を示し動脈硬化巣を形成するApoEノックアウトマウスです。しかしながら、本動脈硬化巣には多数の細胞が認められること、線維性被膜が明らかに厚いこと、炎症が外膜まで及びにくいことなど、ヒトの動脈硬化巣と明らかに異なる病理像を示します。しかし、利点としては、ヒトにおいて長年かけて進展する動脈硬化病変が短期間で認められ、かつ、本マウスは糖尿病の表現型を示さないため、GLP-1受容体作動薬の血糖降下作用とは独立した動脈硬化への効果を直接調べることができる点です。我々はこのApoEノックアウトマウスに低用量と高用量のGLP-1受容体作動薬exenatideを投与し、exenatideの動脈硬化に対する作用を検討しました。その結果、高用量のexenatide投与においては動脈硬化巣の減弱が認められました。なお、我々のデータを支持する研究結果は、その後多数報告されています。従って、GLP-1受容体作動薬投与がヒトにおいても抗動脈硬化作 用を有することが期待されます。

大規模臨床研究から見た心血管イベントとの関連性

 これまでに、5つのGLP-1受容体作動薬を用いた大規模臨床研究が論文化されています。Evaluation of LIXisenatide in Acute Coronary Syndrome(ELIXA)試験では、最近6カ月の間に急性冠症候群を発症した 2型糖尿病を対象としてlixisenatideを通常糖尿病治療に追加するか、否かの2群に分け、本薬剤の心血管イベントに対する安全性を検討しています。その結果、平均25カ月のフォローアップの後、lixisenatide投与において心血管イベント発症に対する安全性が示されたものの、lixisenatideの心血管イベント抑制作用は認められませんでした。
 一方 Liraglutide Effect and Action in Diabetes : Evaluation of Cardiovascular Outcome Results(LEADER)試験の対象は心血管イベントの既往がある50歳以上の2型糖尿病か、心血管イベントリスク因子を有する60歳以上の2型糖尿病であり、平均47カ月のフォローアップの後、試験目的であるliraglutideの心血管イベントに対する安全性が認められました。それに加えて本試験では、liraglutide投与群で心血管イベントが13%有意に低下することが示されました。
 さらに、Evaluate Cardiovascular and Other Long-term Outcomes with Semaglutide in Subjects with Type 2 Diabetes(SUSTAIN-6)の対象者は心血管イベントか心不全かCKDを有する50歳以上か、心血管イベントリスク因子を有する60歳以上の2型糖尿病でした。4カ月のフォローアップの後、試験目的であるsemaglutideのMACE(Major Adverse Cardiovascular Event)に対する安全性が認められるとともに、MACEが26%有意に低下しました。
 週1回投与のexenatideを用いたEXenatide Study of Cardiovascular Event Lowering (EXSCEL)試験では心血管イベントに対する安全性は認められましたが、心血管イベント抑制の有意性は認められませんでした。一方、Harmony Outcomes試験では、日本では発売されていないGLP-1受容体作動薬albiglutideの効果を検討しており、主要心血管イベントを有意に抑制することが示されています。また、詳細は明らかではありませんが、dulaglutideを用いたREWIND試験でも主要心血管イベントが有意に抑制されていると報告されています。
 これらの6つのデータに関して、いずれも研究背景が異なるため、各試験間の比較には科学的に意味がありません。ただし、ある条件の患者においては、GLP-1受容体作動薬が心血管イベント抑制効果を有していることが明確となったといえます。注射薬であるため、経口薬と比較すると使いにくいことは間違いありませんが、この薬剤を必要とする人に適切に投与することが不可欠だと考えます。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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