オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

54. SGLT2阻害薬による糖尿病合併症抑制

森 豊 先生(糖尿病治療研究会代表幹事 東京慈恵会医科大学附属第三病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 教授)

森 豊 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 54(2017年10月1日号)

 SGLT2阻害薬は、腎臓での糖再吸収を抑制して尿中への糖排泄を増やすという、一見単純な機序で血糖値を下げる薬です。しかし作用機序は単純でも多彩な副次的効果をもつことが臨床研究で示され始めています。

糖尿病は心血管疾患を好発させるのに、血糖管理では心血管疾患が減らない?

 米国FDA(食品医薬品局)は、新規チアゾリジン薬として認可したロシグリタゾン(日本では未発売)の市販後調査で心血管疾患の有意な増加が報告されて以降、すべての新規血糖降下薬に心血管系への安全性評価を義務付けました。それにより多くのDPP-4阻害薬の大規模臨床試験が行われ、心血管疾患を増やさないことが証明されました。しかしその一方、プラセボに対するDPP-4阻害薬の優越性も認められませんでした。

 また、それ以前に行われていた血糖介入による心血管疾患抑制を検証した臨床試験(ACCORDなど)も、いずれもネガティブな結果でした。そのため、糖尿病は心血管疾患を好発させる疾患であるにも関わらず、血糖管理では心血管疾患を抑制できないのではないかとの考え方が一時期みられました。そうした中、SGLT2阻害薬の大規模臨床試験の報告が相次いでいます。

EMPA-REG OUTCOME試験

 その第一弾がEMPA-REG OUTCOME試験です。小誌47号で既に概略が紹介されているのでポイントのみ記しますが、エンパグリフロジンがプラセボに対し、一次評価項目の3ポイントMACE✽を増やさないだけでなく、優越性もあるというものでした(HR 0.86, p=0.04)。また副次評価項目の心血管死(HR 0.62,p<0.001)、総死亡(HR 0.68, p<0.001)、心不全入院(HR 0.65,p=0.002)のいずれも有意に抑制していました。

 中央値3.1年という短期間の介入でこれほど明確なイベント抑制効果を示した血糖降下薬は過去にありません。さらに両群間の血糖管理状態をできるだけ均衡にするというデザインで行われたにもかかわらず、高血糖との関連が強固である腎症の進展をも有意に抑制することが報告されています。

 その一方で有意ではないものの、非致死性脳卒中(HR 1.24, p=0.16)や全脳卒中(HR 1.18, p=0.26)、無症候性心筋梗塞(HR 1.28, p=0.42)は実薬群で多い傾向があり、SGLT2阻害薬の臨床応用以前から懸念されていた脱水等の影響の不安が残りました。

CANVAS Program試験

 そして今年6月のADA(米国糖尿病学会)において発表されたのが、カナグリフロジンのCANVAS Program試験です。これは市販前の第III相臨床試験「CANVAS」と市販後調査である「CANVAS-R」をあわせて解析したものです。患者登録基準は、30歳以上で心血管疾患の既往がある、または50歳以上で心血管危険因子(罹病期間10年以上、降圧薬内服中で収縮期血圧140mmHg以上、喫煙、アルブミン尿、低HDL-C血症のうち2つ以上)をもつ者で、リスクがある程度高い集団と言えます。

 結果は、カナグリフロジンが心血管疾患を増やさないばかりでなく、プラセボに比し3ポイントMACEを有意に抑制する(HR 0.86, p=0.02)というもので、EMPA-REG OUTCOME試験と同様でした。ただし、心血管死や総死亡については実薬群で少ないものの有意差はみられませんでした。EMPA-REG OUTCOME試験では有意差がみられたのにCANVAS Program試験では有意でなかった理由は、前者は後者よりもさらにハイリスクな集団であったことによりプラセボとの群間差が生じやすかったためと解釈されています。また腎症に関してもEMPA-REG OUTCOME試験同様に有意に進展を抑制していました。

 一方、EMPA-REG OUTCOME試験で増加傾向が認められていた非致死性脳卒中や全脳卒中は、CANVAS Program試験ではプラセボと同等でした。その反面、EMPA-REG OUTCOME試験では認められていなかった下肢切断の有意な増加が認められ、EMA(欧州医薬品局)やFDAによる警告発出に至りました。

この知見を日本の患者さんに生かすには

 これらSGLT2阻害薬の合併症抑制効果がどのような機序で発揮されたのかについては今後さらなる検討が必要です。同薬の血糖を下げる機序は一見単純ではあるものの、体重減少やマイルドな血圧低下、脂質改善、利尿、ケトン体上昇など多彩な副次的作用があり、それらが複合的に効果をもたらしたのかもしれません。従来の血糖降下薬では証明が難しかった"合併症の直接的な抑制"への期待が高まります。

 一方で、日本人のエビデンスはまだ少ないこと、日本人に好発する脳卒中のリスクが払拭されていないことを明記しなければなりません。そしてSGLT2阻害薬を処方されている患者さんの療養指導にあたっては、両試験で有意な上昇が認められた性器感染症の早期発見、あるいは脱水予防のアドバイス、下肢切断リスクアセスメントなどに留意していくべきでしょう。

✽MACE:Major Adverse Cardiovascular Events。心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の三つ。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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