オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

50. 日本人の糖尿病はどこまで欧米化するのか? ~待ったなしの肥満対策~

田中 逸 先生(聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科教授 )

田中 逸 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 50(2016年10月1日号)

 それぞれの国の疾病構造は人種や環境によって変化します。2型糖尿病もその傾向が大きい疾患です。日本人患者さんの多くは欧米の患者さんほどには肥満していません。インスリン分泌力に余裕がないためにインスリン抵抗性をわずかしか代償できず、糖尿病域の高血糖を呈するようになってまでも太ることが困難だからです。この差は好発する血管障害の出方にも表れていて、インスリン抵抗性の関与が大きい心血管症はそれほど多くありません。

 しかしこのような違いは既に過去形で語られるようになりつつあります。恐らく生活習慣の欧米化によるのであろう国民の肥満化傾向が、特に男性において顕著なことはご承知のとおりですし、糖尿病患者さんも同様に平均BMIが年々上昇してほぼ25に到達したことがJDDM研究から報告されています。

 とすると、いずれ日本中の医療機関の待合室が、欧米人のような高度肥満の糖尿病患者さんでいっぱいになるような事態が起こるのでしょうか?

BMI35以上が過去9年で倍増

 国内ではBMI35以上が高度肥満と定義されていますが、高度肥満に関する疫学調査はほとんどなく、日本でも欧米のように 顕著な肥満が増えているのかいないのか、よくわかっていませんでした。しかし最近、我々が聖隷沼津病院と共同で行った調査から、高度肥満の頻度と推移がかなり明らかになりました。その一部を紹介します。

 沼津市は静岡県東部に位置する人口約20万人の中都市です。産業の中核となるような大企業がないために人口の流出や流入が少ないという特色があります。このような都市にあって聖隷沼津病院の健診センターでは、毎年6万人規模のドック・健診受検者を受け入れています。人口20万人規模の都市で年間6万人ですから選択バイアスが極めて少なく、かつ受検者のリピート率が8割に及ぶことから経年変化を追うのに適しています。また対象年齢が20歳から90歳と幅広く、高齢者層のデータを反映していることも特徴です。我々はこのデータを過去にさかのぼり高度肥満者の頻度を調べてみました。

 データのある初年、2007年の総受検者数は4万1,304人で、そのうち0.45%がBMI35以上でした(性別では男性0.49%、女性0.39%)。ところが最新の2015年のデータでは、総受検者数6万2,648人中BMI35以上が0.90%でした(男性1.02%、女性0.73%)。つまり、過去9年間で高度肥満者の割合がちょうど2倍に増加していたということです。しかも年次推移をプロットするとほぼ直線的な増加がみてとれ、増加スピードが全く衰えていません。当面、さらに同じ速度で高度肥満者が増えていく可能性があるわけです。

 もちろんこれはある地方都市の一施設のデータであり、直ちに日本全体に外挿はできません。しかしそうであっても十分に"衝撃的"なデータと言えます。

高度肥満者のインスリン分泌・ 抵抗性も欧米化しているのか?

 となると次に、そのような高度肥満者のインスリン分泌が果たして欧米人のように著しく亢進しているのか否かに興味が沸いてきます。

 この点について筆者は以前、当誌No.20でも述べたように、OGTTで耐糖能異常 (IGT)と判定された約400例の検討で、40歳未満では40歳以上の世代に比し有意にBMIとHOMA-IR(インスリン抵抗性指数)が高く、インスリン分泌も有意に亢進していることを報告しています。若い世代から欧米化が始まっているということです。その報告をしたのは2000年ですから既に16年が経過しており、現在ではこのような欧米化が中年世代にまで広がっていると考えられます。

 また、米国に移住した日本人の第二世代・第三世代では、幼少期から米国の生活環境で暮らしていると、遺伝的背景は日本人とほとんど変わらないにもかかわらず米国白人並にインスリン分泌が増加することが報告されています。

小児肥満の減少の成果を成人にも

 このように考えてくると、生活環境の欧米化が続く限り日本人の糖尿病がより欧米化することは避けられないように思えてきます。日本ではマイナーな肥満手術について、今後は内科医も積極的に適応を考えていく必要があるのかもしれません。

 一方、明るい話題もあります。小児肥満の減少です。学校保健統計をみると、肥満傾向児の割合が近年減少しているのです。この明確な理由はわかりませんが、2005年の食育基本法制定や2008年の学校給食法改正が一定の効果を上げたのではないかとの推測が可能です。小児で示され始めたこのような社会的な取り組みの成果を成人にも拡大していくために今、行政や健診機関などの組織で、あるいは産業医や保健師などの個人レベルで、より一層の健康啓発の 取り組みが必要とされています。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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