オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

48. 糖尿病治療の質の向上と血糖モニター

清水一紀 先生(心臓病センター榊原病院 糖尿病内科 )

清水一紀 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 48(2016年4月1日号)

低血糖を起こさない糖尿病治療の重要性

 近年、糖尿病の薬物治療において、低血糖を起こさないことの重要性が高まってきています。これは、インスリンやSU薬は、強力な血糖降下作用が期待できる薬剤である反面、重症低血糖を起こしやすく、死亡リスクも高いことがACCORD試験をはじめとした研究で判明してきたことによります。また最近、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬など、単独では低血糖を起こさず、かつ十分な血糖降下作用を期待できる経口薬が市場に出てきたことも大きく関係しています。しかしその一方で、低血糖そのものは顕著に減ったわけではないようにも考えられます。

 低血糖が顕著に減少しない理由の一つとして、いまだに糖尿病の治療における最大の"悪"は高血糖であり、低血糖は高血糖を来さないための代償に過ぎず、看過も致し方ないとの考え方があるのかもしれません。もちろん医療者側は既にそのようなことはないと思いますが、少なくともこれまでの診療行為や療養指導を介して患者さんがそのように感じとった結果として、高血糖を恐れ、低血糖を引き起こしているのではないかと思われることがあります。

SMBGとCGMの歴史的背景

 低血糖の予防において、薬剤の進歩とは別に、SMBGが果たしてきた役割は計り知れません。1981年にインスリン自己注射が保険適応となり、1986年にSMBGが保険適応となりました。この背景には糖尿病治療研究会代表幹事の池田義雄先生の並々ならぬ尽力がありました。そして、当初は非常に高額であったSMBG機器も徐々に低価格となり、測定法も比色法から電極法、GOD法やGDH法などさまざまな開発があり、簡便さに加えて精度も上がり、現在も更なる改良が続けられています。この一方POCT機器も登場しており、血糖以外にHbA1c等も測定できるものも発売されています。

 しかしSMBGやPOCTでは深夜の血糖変動や無自覚性低血糖は関知できません。海外では2000年頃から利用されていたCGMが、我が国ではようやく2009年にCGMS-goldが保険適応となり、2012年にはiProⓇ2が登場しました。解析ソフトが古いOSでないと使用できない、データの取得がリアルタイムではないなどの問題はありましたが、夜間の無自覚性低血糖も含め24時間の血糖値を見ることができるようになったことは大きな進歩です。

 そして2015年2月からSAPが本邦で保険適応となり、リアルタイムCGMが臨床で使用できるようになりました。夜間の低血糖をアラームで知らせることも可能です。また急激な高血糖や低血糖を感知する予測アラートにより、重篤な血糖変動を防ぐこともでます。一方、SMBG機器も、メモリー機能やグラフ化表示によって血糖パターンを解析することができるようになりました。このように血糖管理もICTが進み、自己管理の向上に大きく貢献しています。

糖尿病治療の質の向上と今後の展望

 さて、糖尿病治療の目標は、合併症を予防し健常な人と変わらない生活の質(QOL)の向上、寿命を確保することです。このためには血糖管理のみならず、体重、血圧、脂質などの管理を行う必要があります。しかし、心血管死を減少させるためのHbA1cは6%未満という研究もあり、理想を追い求める目標と糖尿病治療の質の向上にはギャップがあります。そのため糖尿病治療の質の向上とは、単に血糖を低くするということだけでなく、低血糖と高血糖を減らし血糖変動を少なくする、そのために血糖に影響する因子を正確に判断することが重要であると思われます。その点でSAPは便利なツールと言えます。

 では、SAP療法を行えば、今までのポンプ療法だけや、頻回インスリン療法より確実にHbA1cが良くなるのかというと、答えはNoです。SMBGもそうですが、血糖測定と同時にどのような食事、運動、イベント等を記録することが必要です。なぜなら、血糖に影響する因子がわからなければ、血糖変化の解決が見えないからです。

 食事については詳細に記載する必要はなく、血糖が高い際の食事や血糖値が良好であった時の食事がわかれば、それで十分です。リアルタイムCGMが臨床応用され、初めて理解されるようになったことがいくつかあります。焼肉やカレーなど脂質の多い食事は血糖上昇が食後3時間くらいから始まります。ロードサイクルやマラソンなどの過激な運動は運動終了後に血糖上昇が起こります。ケンカや過激な緊張(ホラー映画鑑賞など)は高血糖になります。多くの患者さんでこれら同様の現象が起こりました。またゼロカロリーの飴や飲み物で血糖が上がることも証明されています。さらに日常生活は一定ではなく、食事もその都度変わります。同じ食事を食べても、食べる順番、速度、消化管の動きは変わるので血糖はその都度変化します。今まで、食事量とインスリン量だけで血糖値を見てきた傾向がありましたが、今後は血糖変動にかかわる様々な因子、事象を明確にしていき、その対処法を作成していくことが求められます。そのためにCGMやリアルタイムCGMの普及と、その結果について多職種で議論し理解を深めていくことが必要です。

CGMの普及のためには健康保険上の制約がなくなることや、複数のメーカーによる市場競争により、性能はもちろん簡便で安価な製品が出現し、様々な情報を手に入れ学習できる機会が増えることが、今後への展望であり、期待です。実際、こうした動きは急速に進んでおり、ネーミングについては色々変わってくる可能性はあるものの、糖尿病のICTは確実に進歩するでしょう。その機器や情報を我々医療者がいかに活用できるようにするか、また高血糖と低血糖を恐れている患者さんに、自信をもって「安心してください。大丈夫ですよ」と言える医療機関を増やしていくことも併せて、私どもの責務と言えましょう。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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