オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

37. 1型糖尿病
-膵臓移植と再生医療の現状と将来-

金澤康徳 先生(自治医科大学名誉教授)

金澤康徳 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 37(2013年7月1日号)

膵臓移植 世界と日本の現状

 近年のインスリン製剤の進歩は目覚ましく、1型糖尿病患者も適切な代謝コントロールが継続できるようになりました。しかしその一方、自己のインスリン分泌がほぼ完全に枯渇した症例や、自律神経障害をはじめとする各種合併症により血糖が不規則に変動する症例など、血糖管理に極めて難渋する患者さんが少なくありません。そのような患者さんのQOLは著しい高血糖と繰り返す重症低血糖のため非常に低下しています。特に睡眠中の重症低血糖には、就眠前「明日の朝は目が覚めないかもしれない」と日々不安に苛まれるといいます。実際、膵臓移植の待機中に亡くなった患者さんには、重症低血糖による死亡と診断された方が少なくありません。膵臓移植はこのような患者さんの生命予後とQOLを改善し得る現時点で最善の治療法です。欧米では既に年間数千件の膵臓移植・膵腎同時移植が行われており、1型糖尿病の確立された治療法と言っても過言ではありません。

 国内でも1960年代に、東大外科教室を中心に動物を用いた膵臓移植の研究が始められており、研究の歴史自体は決して欧米に比べて遅れてはいませんでした。当時、筆者も移植膵のインスリン分泌能を測定するなど、共同研究に携わっていました。その縁もあり筆者は1997年の臓器移植法施行から今春まで、外科系の先生方と一緒に膵臓移植特別委員会(現:膵臓移植中央調整委員会)の委員長として膵臓移植施設基準やドナーの適応基準、レシピエントの選択基準等を取り決め、実行する任を努めていました。

 当初、わが国では臓器移植が思うように普及せず、膵臓移植も年間10例に満たない状態で推移しましたが、2009年の臓器移植法の改訂により生前のドナー自身の意思が明確でなくても御遺族の同意により、善意が生かされるようになって以降、未だ十分ではないものの、年間数十例の膵・膵腎同時移植が行われています。

膵臓移植の方法と成績

 膵臓移植治療の対象はインスリン分泌能を失った患者の膵臓と、多くの場合は同時に機能不全となった1腎の両臓器を同時に移植する場合のほか、既に腎臓移植を受けている患者に膵臓を単独移植するケースがあります。実際には、臓器提供者が出た場合には移植希望者のリストを管理している公的機関、日本臓器移植ネットワークによって、レシピエントの選択基準(ABO血液型、HLAの適合性、待機期間等)に従い、待機患者の中から客観的に選定されます。約8割が膵腎同時移植です。

 現在は脳死者から提供された膵臓(と腎臓)が移植されることがほとんどですが、条件が整っていれば心停止後に提供された臓器移植も可能です。また近親者からの生体膵移植も少数例ですが行われています。膵臓には肝臓のような再生力はないため、後者の場合、術前にドナーの耐糖能とインスリン分泌能が慎重に検討されます。しかし、ドナーが術後糖尿病を発症して困ったという例は報告されていません。

 移植の成功率は、1年後の膵臓生着率が9割弱、3年後で8割強、5年後で7割強という成績が報告されていますが、インスリンフリーで(または少量のインスリンで)よい代謝状態を保てる例がほとんどで、移植前の状態に戻ってしまう方は少ないようです。同時に移植した腎臓の成績はそれをさらに上回ります。国内の移植治療では臓器提供者がマージナルドナー(移植膵の条件があまり良くない)が少なくないものの、海外の膵移植の成績と遜色ありません。なお、膵臓移植後は免疫抑制薬の副作用による感染症や発がんに注意が必要である点は、他の臓器移植と同様です。

膵島移植の可能性

 インスリン分泌細胞の塊である人膵島組織の移植は一種の組織移植に位置付けられます。脳死移植に使われなかった膵臓から膵島を分離し門脈内に移植する方法です。臓器移植のように侵襲の大きな外科手術は必要でなく、門脈に点滴の要領で移植できます。代謝状態を観察しながら繰り返し行えるという利点があります。膵臓移植に比べて実施件数はいまだ少なく、技術の発展途上にあります。実際、膵臓移植ほど移植膵島の生着率は高くなく、移植後長期にわたりインスリン療法から離脱できるわけではありません。しかし、たとえ再びインスリン療法が必要になっても、移植前より血糖変動性が抑制され、低血糖の頻度が減少することによる、QOLの大きな改善が期待できます。

再生医療の現状

 膵島移植のさらに先の治療法として再生医療も盛んに研究されています。京大の山中教授らにより樹立されたiPS細胞からβ細胞を分化誘導させる方法のほか、膵幹細胞や外分泌細胞、α細胞などをβ細胞に転換させる方法、β細胞を自己増殖させる方法など、さまざまな方法が試みられていて、in vitroでは一部成功しているものもあります。しかし、いずれも臨床応用にはまだ高いハードルが残されています。

いま一歩、移植治療の普及を

 わが国の臓器移植の最大の課題はドナー不足です。膵臓移植を希望し登録している患者さんは現在でも200名以上に上ります。膵臓の内分泌能が完全に廃絶している患者さんはさらに多数に上ります。これらの患者さん達は著しい低血糖や高血糖で起こる突然死の恐怖を抱えながら生きているのです。その方達にとって膵臓移植は単にQOLの改善にとどまらず"救命"に近い緊急性がある医療と言えましょう。わが国では脳死状態になる方が年間6,000名ほどいるとされています。国内で移植治療に対する理解がいま一歩広がり、1人でも多くの患者さんが、確かな命を感じて生活できるようになることを願っています。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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