オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

36. 糖尿病の腎臓を守る管理と指導

田中 逸 先生(聖マリアンナ医科大学代謝・内分泌内科教授)

田中 逸 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 36(2013年4月1日号)

 糖尿病腎症が新規透析導入原疾患のトップになったのは1998年のことでした。その後、第2位の慢性糸球体腎炎との差が広がり続け、最新の統計(2011年調査)ではついに透析患者数全数でみても糖尿病腎症がトップになりました。当面、糖尿病患者数の増加が続くと予想されますから、糖尿病医療にかかわる私たちがこれまでと同じ管理・指導を続けていたのでは、今後ますます糖尿病透析患者さんが増えてしまうことは明らかです。従来の管理・指導で足りていなかったことを見つけ出し、妥協せずにその改善に力を入れていくことが求められています。

生活療法を主軸とする集学的治療

 腎症など糖尿病に特異的な細小血管合併症が、厳格な血糖・血圧の管理によって抑制されることは、DCCTやUKPDSをはじめ数々の臨床研究で示され、エビデンスが確立されています。また、血糖・血圧に加えて脂質も含めた、危険因子全般の集学的治療の重要性がSteno-2などから示されています。

 しかしその一方で厳格な血糖管理は低血糖のリスクを伴うため、インスリン分泌促進薬やインスリン製剤による強力な介入がためらわれることも少なくありません。実際、ACCORD等では血管障害がある程度進行した患者さんの血糖を薬剤で半ば強引に下げることで、心血管イベントや死亡のリスクを増やす可能性が示されました。血圧についても同様で、血管障害がある程度進行している場合、薬剤による厳格な降圧がかえって予後を悪化させるというJカーブ現象の存在が、改めてクローズアップされています。

 こうした新たな知見から、血糖や血圧の管理においては食事療法や運動療法の効果を最大限に生かしながら、不十分な部分を薬剤で個別に管理するという古くからの基本的な治療姿勢を、今一度徹底することが重要と考えられます。ただ、腎症のある患者さんの場合、食事療法(塩分と蛋白の制限、糖質・脂質の増量)の難しさによる低栄養や体蛋白の異化、運動が及ぼす腎臓への負荷など、個別に配慮すべき項目が多岐にわたります。さらに、「多因子への集学的治療」と言っても、一人の医師がカバーできることは限られています。

 そこで今、多職種によるチーム医療の実践が真に求められているわけです。昨年、診療報酬が改定され、専任医師と専任コメディカルスタッフからなる医療チーム設置を施設基準とした「糖尿病透析予防指導管理料」が新設されたことは、このような臨床現場の実態に則した時宜を得たものと言えるでしょう。

聖マリアンナ医大病院のチーム医療

 「糖尿病透析予防指導管理料」新設からさかのぼること6年、私たちの聖マリアンナ医科大学病院では2006年に「糖尿病腎症外来」を立ち上げました。以来、集学的治療による糖尿病腎症の進展抑制、さらには寛解導入も目指して、多職種によるチーム医療を行っています。

 糖尿病腎症外来は月曜日の午後(隔週)で、三つの診察室を使い患者さん一人に平均約1時間かけています。スタッフは、糖尿病専門医と腎臓病専門医、看護師2名、管理栄養士・薬剤師・理学療法士各1名。診療報酬算定基準に含まれていない薬剤師や理学療法士も加わっている点が一つの特色です。

糖尿病腎症外来の初診の流れ

 初診の患者さんは原則、ご家族同伴で受診していただくことも当外来の特色です。腎症進展を防ぐ治療にはご家族の理解と協力が欠かせないからです。いま一つの特色は、24時間蓄尿を指導していることです。24時間蓄尿は繁雑なために実施しない施設も多いようですが、蛋白質や食塩の正確な摂取量と、正確な腎機能の評価に基づき、生活の実態に則した管理・指導を進めるうえで、やはり不可欠な検査と考えています。

 初診時の流れを具体的に示すと、まず看護師が問診票や聞き取りによって、食事内容や身体活動、職業、生活パターンなど生活状況全般を把握します。そのうえで諸検査の結果を勘案し、当面の治療目標を設定して患者さんに伝えます。続いて食事療法の内容、身体活動量、日常生活上の注意点を整理し、スタッフ全員が共通認識をもったうえで、それぞれの専門領域の個別指導を行います。最後に食事記録のとり方や蓄尿方法、血圧測定とSMBG指導を行い終了します。

各スタッフが指導内容達成度を評価

 患者さんが次に来院されたときも、やはり前記スタッフ全員が指導にあたります。そして、前回指導した内容を実行できたか否かを個別に評価します。医師は主に諸検査の結果が管理目標に到達している否か、看護師は患者さんの治療への取り組み状況の確認と生活状況の変化など全般、管理栄養士は食事療法の理解度と実施状況、薬剤師は服薬アドヒアランス、理学療法士は運動療法や日常活動量の遵守状況などを確認し、スタッフ全員がA・B・Cの3段階で評価します。すべての評価がAになれば、次回からは一般外来に受診していただくという流れです。

 以上が当院の取り組みの概略ですが、同様の試みは診療報酬改定の後押しを受けて全国に広がっています。糖尿病透析患者数の減少に向け、今まさに私たちは正念場に立っているのだと感じています。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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