オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

28. SMBG指導のスキルアップ

池田義雄 先生(糖尿病治療研究会代表幹事)

池田義雄 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 28(2011年4月1日号)

血糖コントロール指標の再考

 糖尿病は、慢性高血糖を主徴とする疾 患で、治療の第一義は高すぎる血糖値を 下げることです。昨年、 HbA1cを本格 的に採り入れる形で改定された新しい診 断基準でも、 HbA1cだけで糖尿病と診 断することは認めておらず、OGTTや随 時採血で診断基準値を上回る血糖の確認 が必須です。ところが、いったん治療が スタートすると、この関係が逆転し、評 価はサロゲートマーカーであるHbA1c でなされ、血糖値を直接測ったSMBGの 結果は"参考記録"扱いとするケースが多 く見られています。

 確かに、時々刻々と変化する血糖値を 1日数回内の測定ポイントでしか把握でき ないSMBGは、管理指標にしづらい面も あります。しかし、 HbA1cもまた種々の 要因による影響を受けての変動がみられ、 かつ、血糖の平均値であるがためにコン トロール基準を逸脱する日内変動を把握 できないことが、持続血糖モニター(CGM) により示されています。HbA1cの限界を 認識し、 SMBGでそれを補う工夫が今、 求められていると言えるでしょう。 糖尿病治療の進歩と病態の変化、

SMBGの位置付けの変遷

 1976年に筆者らは世界に先駆けて SMBGの臨床応用を開始しました。その 結果、高血糖や低血糖による急性合併症 の予防・対処に極めて有用であることが 明らかになり、やがてこれが広く認識さ れ、機器の改良とあいまって使用頻度が 拡大して参りました。現在では急性合併症の回避はもとより、良好なHbA1cを目 指すために、インスリン製剤の種類や単位 数を変更する上で必須のアイテムとなって います。そして治療戦略上、 SMBGは高 血糖の持続による糖尿病に特異的な合併 症「細小血管障害」の抑止に大きく貢献し ていることは間違いのないところです。

 一方で近年、慢性的かつ重度な高血糖 に基づくとは言い切れない血管障害(動 脈硬化)が注目されています。例えば、 食後の一過性高血糖が動脈硬化の進展と 強く相関することは既に周知されてお り、生活習慣の欧米化によるメタボ型糖 尿病の増加の影響を受け、より重要な テーマとなっています。反対に、低血糖 が血管イベントのトリガーとなることも 知られていますし、低血糖が血管障害進 展のリスクファクターでもあるとする報 告もみられるようになりました。

 前述したように、一過性の高血糖や低 血糖はHbA1cに必ずしも反映されませ ん。CGMを用いた検討からは、 HbA1c の数値上、両者は互いに相殺しあい、コ ントロール良好と誤った判断をしてしま う危険性が指摘されています。HbA1c で把握できない隠れた高血糖・低血糖を 見出だすのには、やはりSMBGを欠かす ことができません。

 現在は、低血糖の確認およびHbA1c を下げるための改善ポイントを探ること を目的にSMBGを施行するケースが多い わけですが、今後はHbA1cに現れない 高血糖・低血糖を積極的に探すことが SMBGの大切な役割として加わってくる ことでしょう。また"古典的"と思われが ちな尿糖自己測定(SMUG)も、食後高血 糖の管理指標となり得ます。特に、イン スリン未導入の患者さんでは保険診療で SMBGを施行できるケースがごく限られ ているため、SMUGの積極的な活用が望 まれます。

SMBGのポテンシャルを高め 活かしきる

 HbA1c改善のためのSMBGではなく、 HbA1c補完のためのSMBGは、患者さ んに「1日2回、朝食前と夕食前」と指示 して、毎日それを繰り返させているだけ では良いコントロールは図れません。そ こで、測定ポイントをこまめに変える指導が欠かせないことになります。

 例えば「食後の血糖値」というと、以前 は概ね食後2時間値を指すことが多かっ たわけですが、 CGMで得られた知見か ら、血糖のピークは食後30分から1時間 であることが多いということも明らかに されてきています。ですから、単に「食 後にも測ってください」と言うのではな く、「食事の○○分後に」と具体的な指示 を出す必要があります。また「食後○時 間」とは食事を食べ終わってからの経過 時間ではなく、食べ始めてからの時間で あることも再確認しておきたいところで す。一方、潜在性低血糖を見つけるに は、食前はもちろん、夜間睡眠中にも起 きて測定していただく必要があります。

 そして、もしコントロール基準を超え る"外れ値"が記録されているのをみたら、 「たまたま、この日だけのこと」と看過す るのではなく、その時間帯で繰り返し測 定してもらい、本当に「たまたま」だった のか、頻繁に"外れ値"になっているので はないかを確認し、後者であれば早急に 対策を講じるべきです。

 もちろん、毎日頻繁に測定することは 患者さんにとってストレスとなります し、保険診療上の限界があります。そこ で、早朝空腹時に加え、 1日目は朝食前 後、2日目は昼食前後、3日目は夕食前後 と測定ポイントを少しずつずらしながら 継続し、適宜夜間にも測定するとった方 法も実践されるべきでしょう。「強化イ ンスリン療法」ならぬ「強化SMBG」とも 言うべきこうした工夫によって、 SMBG が秘めているポテンシャルを最大限に得 られる方策を模索していってもらいたい と考えます。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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