オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

23. 2型糖尿病治療の新機軸

勝川史憲 先生(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター)

勝川史憲 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 23(2010年1月1日号)

'metabolic memory'と'legacy effect'がもたらす新たな対応

 DCCT/EDICで'metabolic memory'が、 そしてまたUKPDSでは、'legacy effect' が報告されました。糖尿病発症後のより 早期から血糖を厳格にコントロールする ことで大血管障害をも含む種々の合併症 が長期にわたって抑制できるという新た な見解であり、治療に励む患者さんとそ の指導にあたる医療スタッフを力づける ものとして注目されています。その結 果、医療スタッフには糖尿病治療の進め 方について新たな意識改革が求められて いるとも言えます。すなわち、血糖コン トロールに改善の余地があるのなら安易 な妥協は許されず、時をおかずに治療を 強化しなければ、将来、患者さんに不利 益をもたらす可能性がより明確に示され たということがあるからです。

「より早期」の治療ターゲットは食後高血糖

 糖尿病の初期にはインスリン基礎分泌 は保たれているものの追加分泌が遅延・ 低下して食後高血糖が現れます。よって 「より早期」の治療としては、食後の高血 糖がターゲットとなります。また、治療 によって空腹時血糖やHbA1cが管理目標 値に達した後も食後血糖値が高値を示し ていることも少なくありません。よって 食後高血糖は「より厳格」な治療ターゲッ トでもあります。

 これまで食後高血糖改善薬として、α- GI、グリニド薬、超速効型インスリン製 剤が使われてきましたが、このたびこれ らに加えて、新たにインクレチン関連薬の一つであるDPP4阻害薬「シタグリプチ ン」が導入されます。

早期治療の新たな選択肢、インクレチン関連薬

 インクレチンは小腸から分泌されるホ ルモンで、インスリン分泌の刺激が主作 用です。インクレチンの分泌はグルコー ス濃度に依存し高血糖時のみインスリン 分泌を刺激するため、食後の高血糖は抑 制し、また低血糖を来しにくい点が大き な特徴です。ただし半減期がわずか数分 と短いため、半減期を延長させたアナロ グ製剤の開発、およびインクレチン分解 酵素阻害物質の製剤化が進められてきま した。新たに発売されたDPP4阻害薬は 後者に該当します。

 その使用法ですが、先行して使われて いる海外ではビグアナイド薬との併用が 多いようです。しかし日本人の患者さん は相対的にインスリン抵抗性よりインス リン分泌低下が主体の高血糖が多いた め、単剤での効果も期待されています。

 インクレチン関連薬は、低血糖の不安な く安全に食後血糖を下げられることに加 え、動物実験では膵β細胞増殖作用も確 認され、インクレチンアナログ製剤(GLP-1 製剤。承認申請中)は体重減少作用も認 められています。臨床経験がまだ少ない ものの、ユニークでmulti potentialな可 能性を秘めた薬剤と言えます。

α-GIとDPP4阻害薬併用の意義は?

 インクレチンには、体重減少の作用のあ るGLP-1と脂肪蓄積・体重増加作用のある GIPがあり、前者は小腸下部で、後者は小 腸上部で分泌されます。DPP4阻害薬は GLP-1とGIPの両者の分解を阻害します。 一方、糖質の消化を遅らせることにより 食後高血糖を改善する α -GIは、その糖吸 収パターンの変化によって、インクレチン分 泌に好ましい影響を及ぼしていると考えら れています。なかでも、ミグリトールは2 型糖尿病患者のGLP-1分泌を上昇させ、 GIP分泌を抑えることが報告されており、 ミグリトールとDPP4阻害薬の併用は、新し い糖尿病治療戦略として期待されます。

 なお、 α -GIの一つであるボグリボー スは最近、「耐糖能異常の2型糖尿病発症 抑制」という適応も認可されました。これは糖尿病に対する初めての「薬物によ る」早期介入手段と言えるでしょう。

対症療法から原因療法へ、肥満症治療薬 の可能性

 さて、糖尿病の治療は血糖をコント ロールすることですが、それはある意 味、糖尿病の対症療法ですから、可能で あればより原因療法に近い、病態の上流 へのアプローチが求められます。具体的 には、2型糖尿病のベースにあることが多 い肥満の治療が、現時点における最も現 実的な原因療法と言ってよいでしょう。

 間もなく承認される予定の肥満症治療 薬「シブトラミン」は、脳内セロトニン・ノ ルアドレナリン再取込みを阻害し満腹感 を亢進させる一方、末梢でのエネルギー 消費も高める作用を有する薬剤で、臨床 試験では3?5kgの体重減少が認められて います。「BMI25以上で内臓脂肪蓄積を 伴い、2型糖尿病および脂質代謝異常症を 有する肥満症の体重管理」が適応で、既 存の肥満症治療薬より使い勝手が良く、 幅広い臨床応用が期待されています。

 膵β細胞が十分機能している肥満2型 糖尿病では、肥満を解消すると糖尿病の 寛解さえ期待できます。しかし食事・運 動療法で減量が成功する患者さんは実際 には多くありません。肥満症治療薬に は、そのような患者さんのモチベーショ ンを高める効果も期待できるでしょう。 これらの治療薬登場により、こらからの 糖尿病治療が大きく変わってくる可能性 があり、同時に、必要な患者さんにそう した薬剤を適切なタイミングで使ってい くことが、患者さんの生涯にわたる長期 の良好なコントロールを実現するポイント となりそうです。

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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