糖尿病診療の目

<糖をはかる日2020特別インタビュー>
PHR、遠隔診療を利用した糖尿病/
血糖コントロール ―点から線の診療へー

松葉 育郎 先生(聖マリアンナ医科大学 臨床教授・松葉医院 院長)

筆者について

 現在、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の蔓延に伴い、なにかと注目されているオンライン診療。しかし、わが国のオンライン診療の保険診療としての枠組みの基礎が整備されてまだ2年もたっていない。当初策定された指針の見直しも、昨年から始まったばかりであり、それが、新型コロナにともない時限的に緩和されたため、様々な課題をかかえた状態となっている。

 松葉育郎先生は、糖尿病外来でのオンライン診療の有用性に注目され、保険診療になる前から、オンライン診療の導入開始されている。

 糖尿病治療研究会が主催する「糖をはかる日2020」では特別プログラムとして、松葉医院で実際に行われているオンライン診療・遠隔診療についてのご講演をお願いすることとなった。今回、ご講演に先立ち、オンライン診療を始められたきっかけや、新型コロナ以降のオンライン診療を取り巻く状況、現在の時限的な措置に関するお考えなどについてお話を伺った。

オンライン診療を導入した時期と理由について

 2017年7月から遠隔診療の体制を整備し、9 月から保険外診療として使用を開始しました。2018 年 4 月からは保険改定により、保険診療の枠組みでの遠隔診療も行っています。

 導入の目的は、来院出来ない患者さんや治療を中断した患者さんへの生活指導(食事・運動療法)の充実に有用と考えたからです。患者さんは自宅にいて栄養指導を受けられるので、受診時のみでなく、日常生活への関与が期待できます。

 とくに、当院では、栄養指導には以前より重点的に取り組んでいましたので、遠隔での指導導入は必然だったとも言えます。

松葉医院における栄養指導(詳細は「糖をはかる日2020」Web講演会サイトにて)

PHRを遠隔診療に組み入れた目的は?

 スマホやアプリの進歩により、患者さんのPHR(Personal Health Record)を継続的に把握することが可能になってきました。PHRを利用することで、患者さんの体重、血糖、血圧の日々の変化や食内事容を把握しやすくなる。PHRを生活習慣病の診療へ応用することは、従来の対面診療でも可能です。

PHRを活用した生活習慣病外来の新たな展開の可能性(詳細は「糖をはかる日2020」Web講演会サイトにて)

オンライン診療を健康保険で利用するための条件―新型コロナ以前と以後

 オンライン診療を健康保険で利用するための条件が2018年(平成30年度)の診療報酬改定で新設され、ガイドライン(『オンライン診療の適切な実施に関する指針』)が公表されました。

 同ガイドラインに準拠し、緊急時に当該医療施設から概ね30分以内に診察可能な体制があること、1カ月の診察回数のうちオンライン診療の回数が1割以内であることなどが施設基準です。

 算定基準としては、現在すでに医学管理料を算定している初診以外の患者で、当該医学管理を6カ月以上実施し、そのうちの6カ月は対面診療で毎月受診していることなどが条件となります。そのほか、対面診療とオンライン診療を組み合わせた診療計画を作成し、患者と合意し、 その内容を診療録に記述することが求められます。

 また、対面診療による診療の間隔が3カ月以上にならないこと、当該保険医療機関内で診察を行なわなければいけないこと、対面診療と同一の医師がオンライン診療を行うこと、管理栄養士はできない、などの条件があります。

 一方、今年(2020年)4月に新型コロナの流行が収束するまでの時限措置として発表されたルールでは、初診からオンライン診療が可能となり、3カ月以上の通院歴や事前の届け出も不要になりました。

 栄養指導も医師の指示に基づき管理栄養士が行うことができるようになりました。事前計画書や同意取得も不要になったわけですが、時限的なこの緩和措置は3カ月ごとに都道府県で状況を確認し、継続の可否を検討することになっています。

現在の電話・オンライン診療の普及率

 2019年(平成31年)2月1日における「オンライン診療の施設基準に係る届出」をした施設数は、全国1,147施設で、全国の医療機関の1.04%でした。

 2020年4月24日公開の厚生労働省の「電話や情報通信機器を用いたオンライン診療対応医療機関リスト」の対応医療機関数は約1万812施設で、全国の医療機関の9.66%となっています。新型コロナに伴う時限措置で約10倍に増加したといえると思います。

 しかし、実態はどのようなものだったかというと、先日、<第10回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会>が厚労省で開かれ、「4月~6月の電話診療・オンライン診療の実績の検証について」として検証結果が公表されています。

 この会議では、時限措置の理由となった新型コロナが未だ収束していないとして、現在の時限的措置を3カ月間延長することが決定されました。

 全体(病院および一般診療所の合計、11万898施設)のうち時限的・特例的な取り扱いに対応する医療機関の数は、4月末時点で1万812施設(9.7%)だったのに対し、5月末、6月末、7月末ではそれぞれ1万5,226施設(13.7%)、1万6,095施設(14.5%)、1万6,202施設(14.6%)となっています。このうち、初診に対応する機関は4月末から7月末まで、それぞれ、4,378施設(3.9%)、6160施設(5.6%)、6761施設(6.1%)、6801施設(6.1%)と推移しています。


 初診対応する施設は6801施設(全体の6.1%)で、対応件数をみるとのべ2万1,007件ですが、そのうちオンライン診療は5,608件、電話診療は1万2011件と、電話診療の方が多く利用されている状況が明らかにされました。

 この検討会ではこのほか、医師が医学的にオンライン診療可能と判断した範囲として、① 感冒症状を含む上気道症状、② アレルギー性鼻炎や湿疹などが多かったことが報告されています。

 対面受診の勧奨については、全体として少なかったとしています。

▶第10回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(厚生労働省)

▶電話や情報通信機器を用いたオンライン診療対応医療機関リスト(厚生労働省)

新型コロナ以降、急速に緩和されたオンライン診療の現状

 オンライン診療は適切な患者さんにうまく使えば非常に有用です。PHRと組み合わせて、糖尿病患者さんなどの栄養指導をはじめとする長期フォローが、その具体的な適応例といえます。

 しかし、どのような患者さんに対しても初診からオンライン診療を実施してよいかは疑問です。ディスプレイ上で患者さんの顔が見えていても、対面のときに、例えば患者さんの歩き方や動き、表情などから得られる情報とはやはり違います。

 医療機関に通うことで新型コロナの感染リスクが高まる、怖いという心配は理解できます。現在、時限的な緩和措置が取られているのもそういった懸念が背景にあります。しかし、新型コロナ対策、コロナ予防としてのオンライン診療の活用と、オンライン診療本来の利点を活用することとは区別すべきだと思います。

オンライン診療の普及のための条件

 診療、とくに初診はやはり対面を原則とすべきだと考えています。そのうえで、現在の時限的緩和措置の後、どのような基準が作られるのかにもよりますが、同一月内でオンライン診療と対面診療ができないという保険上のルールでは医療者側、患者側の双方にとって使いづらい面があります。

 いったんオンライン診療を始めると、オンラインでは対応しにくい別の疾患に患者さんが罹ったりした場合や、同じ疾患でも状態の悪化で対面診療が望ましくなった場合でも、「オンライン診療の月」であれば、保険請求を放棄しない限り患者さんに来院してもらえないことになります。3か月に一度は対面診療を行わなければならないこともオンライン診療の普及を阻害する要因となる可能性があります*

*オンライン診療料は患者1人につき月1回に限り算定。連続する3月の間に対面診療が1度も行われない場合は、算定することはできない。ただし、対面診療とオンライン診察を同月に行った場合は、オンライン診療料は算定できない。

オンライン診療を始める医療機関へのアドバイス

 オンライン診療の場合、どのシステム(ソフトウェア)を使うかが重要です。医療機関側の費用(初期費用や維持費用)もあるし、患者さん側のシステム利用料の問題もあります。現在、オンライン診療に特化したソフトウェアは使い勝手のよいものも多い反面、利用料が高くなってしまうということがあります。

 一方、無料のオンライン会議ソフトや通話ソフトを用いたオンライン診療も不可能ではありませんが、オンライン診療専用に設計されたものではないので、実際に利用するとなれば使いづらいところも出てきます。患者さんの支払いをどのように行うかも課題になります。

 糖尿病をはじめとする慢性疾患に対してオンライン診療は非常に有効/有益な診療手段になり得ると思いますが、対面診療とオンライン診療、さまざまなソフトウェアの使い勝手と費用、どういった患者さんにオンライン診療を積極的に利用していただくのか、などについて、よく吟味すると同時に、時限的な緩和措置がどういう形で落ち着くのかに注意を払いながら、慎重に導入されることを推奨します。

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(2020年08月24日)

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