日本人の2型糖尿病発症に関連するミトコンドリア遺伝子多型を発見 高リスクの遺伝型でも運動により発症リスクが低下することを明らかに 順天堂大学

 順天堂大学などの研究グループが、大規模コホートの調査分析により、日本人の2型糖尿病の発症に関連するミトコンドリア遺伝子多型を発見したと発表した。
 ミトコンドリアから産生されるMOTS-cの日本人特異的なミトコンドリア遺伝子多型(MOTS-c K14Q)が2型糖尿病発症リスクに関連することを明らかにした。
 リスクが高い遺伝型の人でも、運動量が多い(毎日20分程度の早歩きが目安)と、2型糖尿病発症リスクが低下することも分かった。
 研究成果は、日本人で個人の遺伝的体質に合わせた糖尿病発症予防や、オーダーメイド型の運動療法の開発に貢献する可能性がある。
個々の遺伝的体質に合わせた糖尿病の運動療法開発の糸口に
 研究は、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の膳法浩史協力研究員(東京聖栄大学講師)、福典之先任准教授ら、および佐賀大学と南カリフォルニア大学などの国際共同研究グループによるもの。研究成果は「Aging」に掲載された。

 研究では、日本人に特異的なミトコンドリア遺伝子多型(m.1382A>C)で生じるミトコンドリア由来ペプチド(MOTS-c)のアミノ酸置換の型と2型糖尿病発症との関連を検討した結果、m.1382A型(MOTS-c 14K型)よりもm.1382C型(MOTS-cの14Q型)を有する方が2型糖尿病の発症リスクが高くなること、また、2型糖尿病発症リスクが高いC型であっても、運動量が多いと発症リスクが低いことを明らかにした。

 ヒトのゲノムは、核ゲノムとミトコンドリアゲノムから成り、ミトコンドリアゲノムには地域ごとに特徴的な遺伝子多型が存在する。

 最近、ミトコンドリアゲノムからMitochondrial Open-reading-frame of the Twelve S rRNA -c(MOTS-c、モッツシー)という新規のペプチドが産生されることが発見され、これが骨格筋で血糖値を正常域まで下げる能力(耐糖能)を向上させることが動物を対象とした研究で分かってきている。

 研究グループは、ミトコンドリア遺伝子上の日本人特異的な遺伝子多型(m.1382A>C)には、MOTS-cのアミノ酸置換(K14Q)が生じていることを先行研究で明らかにしてきた。そこで今回の研究では、MOTS-cのK14Q遺伝子多型と日本人の2型糖尿病発症との関係を検討した。

 対象となったのは、日本多施設共同コホート(J-MICC)佐賀研究、アメリカ多人種コホート(MEC)研究(日系人を対象)、および東北メディカル・メガバンク計画(TMM)コホートの3コホート(計2万6,994人)。

 それぞれのコホートでのm.1382A>C遺伝子多型と2型糖尿病の発症率の関連を分析した結果、男性でA型(日本人の頻度:約93%)よりもC型(日本人の頻度:約7%)を有する群の方が2型糖尿病の発症率が1.34倍高くなることを発見した。

 しかしながら、2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多い(毎日20分程度の早歩きが目安)と、このリスクが低いことが判明した。なお、女性ではm.1382A>C多型と2型糖尿病の関連はみられなかった。

 次に、m.1382A>C遺伝子多型が2型糖尿病の発症リスクを高くするメカニズムを検討した。m.1382A>C多型は、ミトコンドリアゲノムの12S rRNA配列上に存在するが、この配列からMOTS-c(16個のアミノ酸で構成される)も作られることが最近の研究で分かっている。

 m.1382A>C遺伝子多型では、このMOTS-c配列の14番目のアミノ酸残基がリジン(K)からグルタミン(Q)に変化する。m.1382A>C遺伝子多型のA型の人は体内でMOTS-c 14K(リジン)ペプチドが作られ、C型の人はMOTS-c 14Q(グルタミン)ペプチドが作られる。

 このMOTS-c 14KペプチドとMOTS-c 14Qの耐糖能への違いを明らかにするために、それぞれのMOTS-cペプチドを3週間毎日投与したマウスに対して、ブドウ糖を与えその後の血糖変動を観察した。

 その結果、MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)を投与したマウスは血糖上昇が抑えられたのに対して、MOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)を投与したマウスでは、血糖上昇が抑えられなかった。

 また、細胞実験でも、MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)で培養した細胞はMOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)で培養した細胞よりも糖の利用度が高く、上述した日本人の疫学的データを裏付ける結果となった。

男性でA型(日本人の頻度:約93%、黒)よりもC型(日本人の頻度:約7%、赤)を有する群の方が2型糖尿病の有病率が1.34倍高かった(中央)。
しかし、2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多いと、このリスクが低いことを発見(右下)し、運動が遺伝リスクをキャンセルすると考えられた。
m.1382A>C遺伝子多型のA型の人は体内でMOTS-c 14Kペプチドが作られ、C型の人はMOTS-c 14Qが作られている(左円の細胞内)。
それぞれのMOTS-cペプチドを3週間毎日投与したマウスに対してブドウ糖を与え、その後の血糖変動を観察。MOTS-c 14Kペプチド(ヒトのA型モデル)を投与したマウスは血糖上昇が抑えられたのに対して、MOTS-c 14Qペプチド(ヒトのC型モデル)を投与したマウスでは、血糖上昇が抑えられなかった(右上)ことから、MOTS-c 14Kペプチドがとくに14Q保有者に対して新規糖尿病治療薬となる可能性が考えられる。
出典:順天堂大学大学院スポーツ健康科学部、2021年

 以上の結果をまとめると、(1)ミトコンドリア遺伝子のm.1382A>C遺伝子多型のC型は2型糖尿病発症リスクが高くなること、(2)2型糖尿病リスクが高いC型であっても運動量が多いと、2型糖尿病発症リスクが低くなること、(3)m.1382A>C遺伝子多型によって生じると考えられるMOTS-cのアミノ酸の違い(K14Q)が2型糖尿病の発症に影響することが明らかになった。

 これにより、肥満度が低いにもかかわらず日本人が糖尿病になりやすい一因を説明できる可能性がある。日本人は、欧米人に比べ肥満度が低いにもかかわらず2型糖尿病になりやすく、その理由はいまだよく分かっていない。

 「今後、MOTS-cがどのようにして産生されるのかといった機序の解明や糖尿病発症を予測するバイオマーカーとしての有用性を明らかにすることにより、個人の遺伝的体質にあわせた糖尿病の予防や運動療法、新規治療薬の開発につながることが期待されます」と、研究グループは述べている。

順天堂大学大学院スポーツ健康科学部
A pro-diabetogenic mtDNA polymorphism in the mitochondrial-derived peptide, MOTS-c(Aging 2021年1月31日)

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[Terahata]

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