「認知機能障害を考慮した高齢者糖尿病の療養指導」 第25回日本糖尿病教育・看護学会レポート(2)

2020.09.29
 25回日本糖尿病教育・看護学会学術集会が2020年9月19日(土)~20日(日)ライブ配信、9月21日(月)~27日(日)オンデマンド配信で開催された。
 教育講演4では、独立行政法人 東京都健康長寿医療センターの荒木厚先生が「認知機能障害を考慮した高齢者糖尿病の療養指導」について講演した。
第25回日本糖尿病教育・看護学会学術集会
教育講演4「認知機能障害を考慮した高齢者糖尿病の療養指導」
講師:荒木厚(東京都健康長寿医療センター)
座長:菊池美千代(岩手医科大学附属内丸メディカルセンター)

認知症は、糖尿病の治療をすることによって防ぐことができる

 老年症候群とは、医療、介護、看護が必要な高齢者で起こりやすい症状や徴候と定義される。本講演のテーマである認知機能障害は老年症候群の1つである。高齢者糖尿病では、高血糖によって老年症候群を来しやすいことが明らかになっている。さらに低血糖が日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)の低下やサルコペニア、フレイル、認知機能障害、うつなどを引き起こす。

 糖尿病患者は、糖尿病でない人に比べて、認知機能全般が約1.5倍低下しやすく、血管性認知症が約2倍、アルツハイマー病が約1.5倍発症しやすい。糖尿病によって障害されやすい認知機能の領域は、記憶力と実行機能1(遂行機能)である。実行機能障害が生じると、買い物や金銭管理など手段的ADLが低下するため、食事や服薬のアドヒアランスが低下することによって高血糖が生じ、高血糖が実行機能障害をもたらすという悪循環に陥る。糖尿病の治療をしていない患者は認知症になりやすいが、糖尿病の治療をしている患者では認知症のリスクはそれほど高くないことが明らかになっている。糖尿病患者にはしっかり治療することによって認知症を防ぐことができると伝えることが重要である。

認知機能障害にはフレイル対策を行う

 高齢の糖尿病患者に対する療養指導では、(1)認知機能障害の早期発見、(2)柔軟な血糖コントロール目標の設定、(3)フレイル対策、(4)低血糖・シックデイ対策、(5)治療の単純化、(6)介護者の負担軽減と社会資源の活用が大切である。

 認知機能障害を早期発見するためには、(1)記憶障害、(2)手段的ADL低下、(3)心理状態の変化、(4)服薬や注射のアドヒアランス低下、(5)フレイルなどが手がかりとなる。認知機能障害のスクリーニング検査にはいくつかあるが、DASC-21(地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)は基本的ADLと手段的ADLの項目が含まれ、質問しやすく使用しやすい。医療スタッフや介護職にも実施可能である。

 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)は、認知機能、ADLなどによって3つのカテゴリーに分類し、低血糖リスクを考慮して設定されている。このカテゴリー分類を行うために認知・生活機能質問票DASC-8が開発された。これは8つの質問の合計点で10点以下がカテゴリーI、11~16点がカテゴリーII、17点以上がカテゴリーIIIと分類する。カテゴリーIIの段階から介護保険サービスや訪問看護などを利用し、フレイルとアドヒアランス低下の対策を講じて、社会参加を促すことが大切である。

 認知機能障害はフレイルを伴うことが多い。認知機能障害とフレイルが悪化する要因は、身体活動量の低下、低栄養、高血糖、低血糖などと共通している。認知機能障害がある患者には、運動療法、栄養サポート、社会参加、高血糖と低血糖の予防などのフレイル対策を行う。運動療法では坐位時間を短くすることと、自治体主催の運動教室、介護保険のデイケアなどを利用してレジスタンス運動を含む多要素の運動を行うように指導する。低栄養は認知機能を低下させるため、エネルギー量やタンパク質の摂取不足による体重減少に注意する。薬物療法ではアドヒアランスを確認し、治療の単純化を図り、服薬環境を整える。介護者にも低血糖・シックデイ対策を指導する。

 荒木氏は最後に「高齢糖尿病患者の認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)を防ぐため、医療者は多職種のチームで関わり、介護者の負担を軽減することが大切である」とまとめた。

1実行機能とは、目標に向けた複雑な行動を計画し、順序立て行動し、モニターする高次の認知機能。

第25回日本糖尿病教育・看護学会レポート

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