私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

65. 糖尿病と動脈硬化─高血糖は動脈硬化を促すか?─(2)

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

2. 糖尿病人口の増加

 糖尿病人口の多寡は診断基準値の変化によって変ってくるが、一般人口の血糖値の変化をみても、年々上昇傾向がみられ、また敗戦直後の食糧難を切り抜けるために行った栄養状態および食餌摂取実態調査の延長にある厚労省の調査でも、糖尿病人口(HbA1c 6.1%以上)が増加している。

 さて、糖尿病の治療も多様化しており、それを理解し適切に対処するのも困難になっている。また高血圧の治療と大きく異なる点は、食事摂取が患者さんに任せられていることである。糖尿病の主病態である高血糖は、僅かの食事の超過でも影響を受けて大きく変動する。患者さんは理屈ではそれ以上を食べてはいけないことはわかっていても、食欲はそれよりも強い。また、そこに生甲斐もあると思うよりないので、収容所生活でなければ理屈通りの治療は困難である。

 現在、メタボ健診が行われている。肥満学会で腹囲の基準を決め、血圧、血糖、血液脂質の異常値があれば、指導の対象となる。計画はそれでよいのであるが、その成果は得られるかが問題である。やがて食糧不足がくるのがわかっている。束の間の幸せな時代にいることを意識させ、これを1年でも長続させる方策を考えさせるべきであろう。第2次大戦中の苦労、南方の島々で餓死に追われ、乏しい兵器で戦い斃れた兵士達(遺骨もそのまま放置)、敗戦直前の沖縄の人達の御苦労を思うにつけ、あの戦いをもっと早く終らせる決断が悔まれる。

3. 高血糖と血管障害

 1960年以前の糖尿病患者の多くは10年以上になると視力障害や腎障害、高血圧に悩まされた。当時は光凝固療法も人工透析療法も、そして有効な降圧剤もなかったからである。現在はそれらの糖尿病性3大合併症といわれるものに対する治療法は末梢神経障害を除いて大きく進歩した。これらの細小血管障害は高血糖に大きく左右される。

 では大血管障害macroangiopathyはどうであろうか。現在は大血管障害も高血糖で起こるという考えが一般的である。そして診断基準値から言えば境界型と判定される症例にも大血管障害がみられることから、大血管障害は境界型にも起こるのではなかろうかと推測されている。境界型の人は非常に多いので、もしこれが真実であるならば、非常に憂慮すべきことになる。

 境界域のような血糖値の軽度の異常によっても、あきらかな動脈硬化が起こるとすれば、高度の高血糖では、更に重症の大血管障害が起こることになる。コントロール不良の糖尿病患者には重症の動脈硬化性疾患が起らなければならない筈である。現在は高齢者にも1型糖尿病状態がみられる。また2型でコントロール不良の高齢者も多い。しかしそれらの人達の多数に大血管障害がみられるというエビデンスは認められない。

 糖尿病動物ではどうであろうか。動物飼育場の火災の後に交雑が起こり、現れたといわれるob/obマウス(obese hyperglycemic mouse)は腹の皮がはち切れんばかりに肥満している。高血糖も高度であるが、動脈硬化性疾患が起ったということは聞かない。その後のdb/dbマウスも同様である。また1970年代~90年代に糖尿病をもつ多くの齧歯類がみつかったが、それらが著明な動脈硬化ももっているという報告はない。

 1940年代にアロキサンが作られ、その注射により動物に糖尿病が起こること(Dunnら1943)が見出され、1950年以後はわが国でも方々でその実験が行われた。もっとも興味を惹いたのは、家兎に高コレステロール食を与えると大動脈にアテローマが生ずることは50年前より知られていたので、糖尿病家兎ならば更に高度のアテローマが起こるであろうと推測された。わが国でも方々で実験が行われたが、その推測通りの結果を得た所はなかった。しかしその後1980年頃の折茂肇、丸浜喜亮、筆者の座談会の記事をみると、糖尿病には動脈硬化が起こることを当然のこととして話している。

 しかしその理由はあきかでなく高脂血症、LDLの上昇、低HDLをリスクとして論じている(1980年12月、第一製薬、アサヒメディカル)。その後は糖尿病人口が急増し、肥満と動脈硬化性疾患も増加している。

4. 血糖コントロールが動脈硬化を防ぐか

 今迄の報告でも熊本スタデイのように血糖コントロールは動脈硬化性疾患も防いでいるといわれ、UKPDSにもその傾向がみられたといわれている。しかし今後はより条件をマッチさせた多数例についてこの問題に決着をつけるべきと考える。

(2015年10月24日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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