私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

40. 薬で糖尿病を予防できる

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

1. 自己免疫糖尿病のモデル動物

 正常ラットを基礎集団として選抜交配をして糖尿病ラットを作るのに成功した頃、米国の実験動物飼育場(B B Lab.)では重症の糖尿病になるラットがみつかり、膵島にはリンパ球の浸潤がみられ膵島炎が起こっていることが報告された。

図1 シオノギ製薬油日動物飼育室
 それから数年後、京都で会合があったとき、シオノギ製薬の栩野義博さんから、実験動物飼育室に糖尿病になるマウスがいるという報せを受けた(図1)。後に研究にあたった牧野進博士の話によると、油日の動物飼育室で飼育を担当しておられた藤井喜久子さんが、敷藁が濡れて死んでしまうマウスがいることに気付いて牧野博士に報告し重症の糖尿病になっていることが分かった。そのマウスの膵島をみると写真のように膵島にリンパ球が浸潤して膵島炎を起こしていることが分かった(図2)。アメリカのBBラットと同様な変化があることが分かり、これらのラットとマウスの発見により、小児糖尿病が膵島炎で起こるというWeichselbaum(1910)の知見やGepts(1965)の学説の正当性が証明されたわけである。

 筆者は1976年8月より弘前大学から東北大学に配置換えになった。いずれ我々の作ったラットも仙台に持ってこなければならないというわけで動物小屋を物色していた。キャンパスの建物もだいぶ変わっていた。旧耳鼻科の動物小屋に一部を移し、また旧医化学教室も使用させていただいた。

2. NODマウスの膵島炎が起こらない

 教室には免疫グループもあって、臨床での研究に困難の様子だったので、シオノギのマウスの研究会が結成されたときにそれに参加した。マウスは非肥満糖尿病マウス nonobese diabetic mouse ということから、NODマウスと呼称されることになった。東北大学では免疫をやっていた佐藤譲博士(現、岩手医科大学内科教授)がNODの免疫機構の研究を行うことになった。佐藤譲博士らは免疫学の熊谷勝男教授の指導を受けており、NODマウスに免疫関連物質がどのような影響を与えるかについて研究を行った。佐藤譲博士は新谷茂樹学士らと、当時がんも縮小させると言われていた免疫修飾剤 biological response modifier のひとつのOK432(ピシバニール)をNODマウスに注射してみた。そしてOK432を注射すると糖尿病が起こらないことを見出した(図3.)。

 NODマウスは雌は生後30週齢までにほぼ80~100%が糖尿病となり雄は40%しか糖尿病にならない。佐藤譲博士らはOK432を生後4週齢から25週齢まで毎週1回1単位腹腔内注射すると、未処置雌マウスでは80%が糖尿病を発症したのに対し、注射群では発症は0%であった。NODマウスの膵島炎は生後4週齢から出現し始めたので、4-10週の間にOK432を注射するのが膵島炎の抑制に有効であることが分かった。膵島炎が完成し糖尿病が発症してからではOK432は全く効果がないことも明らかになった。

図2 NODマウスの膵島炎

膵島にリンパ球の浸潤がみられる
図3 OK432で処理したNODマウスの膵島

リンパ球の浸潤はみられない
 このようにして1型糖尿病の膵島炎の予防法が明らかになったのでその結果を国際誌にも発表した。またこのOK432の効果はBBラットでも認められるか否かについて検討を行った。BBラットはオタワのP. Thibert博士より恵与され東北大学動物実験施設で維持された。このBBラットは対照11匹では5匹(45.5%)が発症したのに対しOK432投与ラット14匹では1匹のみ発症(7.1%)と明らかに抑制効果が認められた。

 佐藤譲博士らの研究が契機になってNODマウスの発症抑制実験が方々で行われ、免疫機構に刺激を与えることの有効性が証明されたが、その機序については多くの推測がなされた。

3. 小児の1型糖尿病の予防

 小児期に1型糖尿病になると生涯インスリン注射を続けなければならないので、その発病を予防できれば非常な福音となる。そこでNODマウスなどを基にして見出された予防法から安全で広く用いられる安価な方法が求められ、ニコチナマイドの服用が試みられた。対象は1型糖尿病の1親等者などのリスクの高い人達が選ばれた。フランス、ニュージーランド、ドイツ、オーストリアで試みられ、弱いながら抑制効果がみられるとの成績が多い。しかし極めて有効という成績ではないので日常的に使用されるまでにはならない。さて、1型糖尿病は自己免疫の異常で起こるとすると、北欧で高率であることや、公衆衛生の充実とともに1型糖尿病がみられることに感染症との関連が推測される。近年のわが国では寄生虫保有者は稀である。寄生虫の保有は免疫系を刺激していたが、それがなくなったことが1型糖尿病を多くしているのではないか、とも推測される。

 またNODマウスから糖尿病発症に関連する遺伝子を見出そうとする研究も行われた。遺伝子の研究が進んでいるマウスなのですぐに見つかるだろうと思われていた。主要なものはすぐに明らかになったが、関連する遺伝子はほぼ30年になろうとしている今日でも、まだ解明されていない。

(2015年09月29日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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