私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

18. 子どもは産めないと言われた

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

授賞式会場にて
(左から)平尾紘一先生、高山春恵さん、筆者

1.ガリクソン賞受賞者の手記

 2004年の5月14日東京フォーラムで(社)日本糖尿病協会の総会が行われ、そこで糖尿病歴46年の高山春恵さんがガリクソン賞を受賞された。筆者は高山さんがおよそ30年前に書かれた体験談を思い出しもう一度それを読んで、このことは皆さんに知っておいていただきたいと思い高山さんの許可を得てその大要を転載することにした。

 高山さんは小学校5年生のとき昏睡状態で糖尿病を発見され、1日3回のインスリン注射を続けて修学旅行も行かずじまいで高校卒業。糖尿病を隠して入社。現在の夫に病気でもいいと言われて結婚。

 「第1回の妊娠では病院ではあなたの命は保証できない、子どももどうなるかわからないと言われ大学病院まで行ったのですが、4カ月で流産。このとき先生から絶対に子どもは作ってはいけないと強く言われました。1年ほどして2回目の妊娠。見てくれる病院をあちこちさがして歩き回りましたが、どこでもいい返事をしてくれず子どもは大きくなるのに心細い思いでいたところやっとS病院でみてくれることになりました。6カ月目くらいでした。自分で食べる物を気をつけすぎて低血糖を起こしてしまいました。2カ月入院して婦人科の方に入院。前の検査の結果が低血糖だったため夕方の注射はしないように言われました。その日から朝1回のインスリンで1日がはじまりました。3日もすると口がかわき出し体重も3kgくらい減り、4日目には気持ちが悪くなって物が食べられなくなり1週間目には水も通らなくなりました。おなかの子どももとうとう動かなくなってしまい(略)死んだ子どもを出すことになりました。(略)このときも内科の先生からあなたの糖尿病は重症で子どもは無理だし、8カ月くらいになると今度のようなことが起きやすく、赤ちゃんの命ばかりでなく、本人の命もあぶないと言われました。しかし私はその言葉に納得できませんでした。インスリンのことがあったからです。

 私はどうしても子どもが欲しく、3度目の妊娠をしましたが先生はまたこの間と同じようになるととりあってくれませんでした。(略)そんなとき平尾紘一先生を紹介してもらったのです。今まで数多くの先生に会いましたが、平尾先生はその先生たちとは全然反対のことを言うのです。結婚のことも子どものことも話を聞きながら私は自分の耳を疑ったくらいでした。と同時に、私は糖尿病について何も知らなかったことを知りました。食事ひとつにしてもカロリーなんて計算したことはないし穀類と糖分以外は果物、油、マヨネーズ、ピーナッツと食べ放題、よくこれで今までやってきたものだと恐ろしくなりました。(今まで病院では1度も詳しく教えてくれたことがなかったのです)(略)今までいろいろな先生に会いましたが、患者のことをこんなに考えてくれる先生ははじめてです。(以下略)。」
(糖尿病友の会ニュース4号、後藤由夫著、糖尿病の本、主婦の友社1976年、186頁より引用)

 高山さんは元気な男の子を出産して幸せな生活を送っておられる。1984年には40歳未満糖尿病の女性の会「インスリンレディの会」を結成し、1型糖尿病患者の相談相手となり献身的な活動を続けておられることでこのたびのガリクソン賞に輝いた。

 平尾先生は筆者のところに糖尿病診療の勉強に来られ、それから横浜で糖尿病を中心としたクリニックを開かれて広い活動を行っておられるが、これは初期のニュースに掲載されたのを引用させていただいたものである。高山さんの手記から簡易血糖測定器もなく、SMBGもできなかった当時の糖尿病の人達の苦労をいくらか理解できると思われる。

2.糖尿病妊娠の全国調査(1960-64年)

 アメリカで研究の合間に糖尿病外来を見学していたが、筆者より2、3歳年上のClayton G. Kyle博士が、妊娠に興味を持って50gGTTをやっていた。妊婦がグルコース液を飲みづらそうにして飲んでいた。そしてKyle博士は部厚い論説を発表した(Ann. Int. Med. 59、suppl. 3、1963)。それを読んで筆者は糖尿病の妊娠には巨大児分娩、合併症の進展など重要な問題が多いことを強く印象づけられた。

 産婦人科の九嶋勝司教授も糖尿病妊娠に関心を持たれていることを知り、教授と一緒に1965年秋に全国大学病院を対象に、1960年より64年までの5年間に経験された糖尿病婦人の妊娠、分娩症例についてアンケート調査を行った(治療49、525-538、1967/最新医学22、134-144、1967)。その成績では、5年間に95182例の分娩があり、そのうち糖尿病妊婦の分娩数は52例(0.054%)であった(表1)。

表1
表2

 妊娠中の空腹時血糖値と分娩様式をみると表2のように異常分娩は血糖の高い群に多いこと、巨大児分娩は空腹時血糖値120mg/dL以下のものに少ない。治療法別では表3のように食事療法のみの症例では異常分娩が少なく、経口薬、インスリン群に多い。

 糖尿病妊婦から生まれた新生児の生下時体重は表4にみるように体重の重い新生児が多いこと、また経産婦では糖尿病になってからの新生児体重が重いことが認められた(表5)。

表3
表4 
表5 糖尿病妊婦よりの満期分娩新生児の体重

新生児体重(g)
 今回の分娩
(40例)
 既往分娩
(40例)

 >4600
4
1
 4400-
7
2
 4200-
11
3
 4000-
15
6
 3800-
21
11
 3600-
22
21
 3400-
26
28
 3200-
32
32
 3000-
35
34
 2800-
36
37
 2600-
38
38
 2400-
39
40
 <2400
1
0

平均体重(g)
3747
3553
 
±731
±586

M±SD

 糖尿病の原因として妊娠時の性ホルモンの分泌増加があげられている。そこで分娩回数が糖尿病の発病に影響するかをみるために40歳以後に発病した糖尿病婦人と40歳以上の非糖尿病婦人について分娩回数を調査した。その結果表6のように糖尿病例に分娩回数の多い例が多いことがわかった。

表6 
表7 

 母親あるいは父親が糖尿病であることが新生児の体重に影響するか否かを知るためにみた調査では表7のように平均値をみると母親が糖尿病になってからの新生児の体重がもっとも重い結果が得られた。

 これらはいずれも40年以上以前の産めよ殖やせよの国策で分娩数が多かった時代の人達のもので現在では得られない数字である。1970年以後は糖尿病妊娠に対する関心が徐々に高まり1985年には糖尿病妊娠研究会が設立され、SMBGの普及と相俟って糖尿病妊娠は日常的なものとなっているのは喜ばしい。

(2015年09月07日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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