私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み

4. 糖尿病の研究をはじめる

後藤由夫 先生(東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)

「私の糖尿病50年 糖尿病医療の歩み」は、2003年1月~2009年8月まで糖尿病ネットワークで
全64回にわたり連載し、ご好評いただいたものを再度ご紹介しています。

筆者について

1. 血糖の研究が主流

 生理学を学ぶうちに血圧調節神経に興味をもち、ガマを用いた実験で、心房の内圧が高まると末梢の血管が拡張して血圧が下がる減圧反射の起こることを世界初で発見、1948年に報告し、後にヨーロッパの医学誌に発表した。1年間のインターンでは各科を回っていろんな患者さんの診療を体験できた。医師国家試験を終えて黒川利雄教授の内科に専攻生として入局した。6ヶ月ほど大河原町立病院に勤務して内科診療の腕を磨いた。大学にもどっていよいよ内科の研究をすることになり、糖尿病グループに入るように言われた。このときから本格的に糖尿病とかかわり合うことになった。
 当時のわが国の糖尿病の研究は血糖に関するものが主流で、東京大学葛谷信貞講師はぶどう糖を服用後上昇した血糖はやがて下降してある値に落ち着き、少量のインスリン注射により低下した血糖もやがてある値に戻るが、それらは糖尿病でも健常でも各人それぞれにきまった血糖値に集束することを見出し、それを血糖調節レベルと呼称し注目されていた(図1)。

図1 血糖調節レベルのきめ方

 戦争で外国誌の入手が途絶えたので新しい海外の文献は大学には少なく、街の中心の焼け残った博物館にできたアメリカ文化センターにある医学雑誌を読むという状況であった(図2)。


図2 アメリカ文化センター
2. 学位論文のテーマは糖二重負荷試験の感度増強

 教授からいただいた研究テーマは、ぶどう糖二重負荷試験の感度をよくすることであった。ぶどう糖二重負荷試験は、糖尿病の診断に日常的に行われていた検査で、早朝空腹状態でぶどう糖50g水溶液を飲んでもらって血糖を30分毎に2時聞測定し、正確に2時間後にもう一度ぶどう糖50g水溶液を飲んでもらい、それからさらに2時聞血糖値を測り1回目と2回目の血糖曲線を比較するもので、終了までに4時間かかる検査であった。1時間毎に尿糖排泄量も測定した(図3)。

 この検査では1回目のぶどう糖負荷によって膵島が刺激されてインスリンが分泌される。健常者ではインスリンが多く分泌されるので、2回目のぶどう糖は1回目の余っているインスリンがあるために処理が1回目よりもスムーズに行われる。それで血糖曲線は2回目の方が低くなる。一方ある程度重症の糖尿病では膵島のインスリン量が少ないか欠乏しているので、1回目のぶどう糖負荷で出し尽くされる。したがって2回目のときはインスリンがないか減少するので1回目のぶどう糖による血糖上昇よりも更に高くなる。糖尿病で2回目の頂値が高いのはインスリン欠乏の証しであり(図3の下左)、低いのはまだインスリン分泌の余カがあることを示すものである(図3の上右)。

図3 ぶどう糖二重負荷試験 Staub効果

 このように一応理にかなう検査法で1922年に Staub がこれを発表してから、インスリン分泌があることを示す Staub 効果をみる検査法としてドイツ学派で広く行われ、わが国でも行われていた。

 本当にこの検査でそこまで診断できるのだろうか。

 専攻生は授業料を出さなくともよかったが、当時は物不足で研究に必要な試薬も試験管、ピペット、ビューレットまですべて自費でそろえた。先輩達は学位は自分がほしいと思ってとるのだから、自分の金で研究するのは当然と話していた。朝は始発、帰りは終電車のことが多い日々であったが、研究室は若者ばかりで賑やかだった。まだテレビもなくラジオドラマを聞いていた時代のことである。

(2014年04月01日)

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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