オピニオンリーダーによる糖尿病ガイダンス

56. 超高齢社会の糖尿病診療に何が求められるか

吉岡 成人 先生(NTT東日本札幌病院副院長)

吉岡 成人 先生

初出:医療スタッフのための『糖尿病情報BOX&Net.』No. 56(2018年4月1日号)

高齢発症糖尿病の増加 + 青壮年発症糖尿病患者の高齢化

 2016年の国民健康・栄養調査で、糖尿病を強く疑われる国内の成人が推計1,000万人に上ることが2017年9月に報告されました。厚生労働省が調査を開始した1997年には患者数は690万人と推計されていましたので、20年間にわたり毎年16万人もの糖尿病患者が増え続けていることになります。

 この背景には人口の高齢化が大きく関与しています。総務省統計局によれば、日本の総人口は2017年6月現在で1億2,677万人であり、65歳以上の高齢者人口は3,498万人、高齢化率は27.6%と報告されています。私たちは加齢に伴いインスリン分泌能が低下し、身体活動量も低下します。体組成は変化(筋肉量の減少、内臓脂肪の増加)し、インスリン抵抗性が増大し、耐糖能が低下していきます。高齢化に伴い糖尿病の発症リスクは増加するのです。

 1997年の国民健康・栄養調査では男性糖尿病患者全体の59%は40~59歳であり、糖尿病は青壮年層の疾患だったといえます。しかし、2016年の調査では青壮年期の患者は全体の39%に減り、70歳以上の患者が19%から53%に増加しています。女性においても60歳以上の患者が59%から75%となっています。20年前の青壮年層の糖尿病患者がそのまま高齢者にシフトしたことに加えて、高齢発症の糖尿病患者そのものも増えています。

オーラル・フレイルから始まる全身状態の低下

 高齢者では「フレイル(Frailty)」が問題となります。フレイルという概念は、筋力・筋量の低下(サルコペニア)により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的な問題、独居や老老介護、経済的困窮などの社会的問題を含んだものです。フレイルやサルコペニアを避けるためには、身体活動を高く保ち、身の回りの社会に積極的に参画することが望ましいといわれています。

 食事に関しても腎機能に異常がない場合は、十分な量のタンパク質や多くの緑黄色野菜を摂取することが推奨されています。食事には口腔機能が密接に関連しており、その基本は咀嚼です。しかし、高齢になると歯周病や齲歯のみならず、口唇や舌の運動低下に伴う滑舌の衰え、食べこぼし、わずかな「むせ」、咀嚼力や咬合力の低下により噛めない食品が増えるなどの「口の衰え(オーラル・フレイル)」が、食欲の低下や栄養バランスの悪化に結び付き、全身状態の低下を招きます。日本人における歯周病の有病率は、30~50歳代でも約80%と極めて高く、若い時代からのオーラルケア、定期的な歯科受診の必要性が強調されています。しかし、その重要性は、いまだ広く認識されているとはいえません。

 日本におけるフレイルの頻度は男女差や地域差はあるものの65歳、75歳、85歳と年代が上がるにつれて約2%、10%、35%と増加することが知られています*。

 日本老年医学会と日本糖尿病学会の共同編著によって昨年出版された『高齢者糖尿病診療ガイドライン2017』にも、「老年症候群であるADL低下、認知機能低下、認知症、腎機能低下、重症低血糖、脳卒中、心不全は高齢糖尿病のなかでも75歳または80歳以上で起こりやすくなる」と記載されています。

QODの考慮が求められつつある糖尿病診療・療養指導のこれから

 フレイルを伴う高齢者の糖尿病患者にどのように対応すべきなのか...。治療内容のみならず、代謝管理の目標をどの程度に設定し、ひとり一人の患者さんたちの家庭環境に配慮して、社会的なサポートをどのようにして利用することができるのか、多くのスタッフが毎日の診療現場で悩んでいるのが現状です。私たちの施設では、外来に通院されている患者さんたちの15%は80歳以上の方です。しかも、その方たちの25%はインスリン治療を行っています。安全で、確実なインスリン治療をどのようにして模索していくのか、多くのスタッフが試行錯誤のなかで、最善の方法を探そうと努力しています。

 高齢であることは人生のお仕舞に近づいていることでもあります。現在、日本人の死因の第一位はがんであり、2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなっています。糖尿病患者では、非糖尿病者に比較して、がんや感染症で亡くなる比率が高いことが日本糖尿病学会の死因調査でも確認されています。わたくしが外来で診療している方も、この2年間で15人ほどがお亡くなりになりました。80歳以上では9人、80%の方ががんで亡くなっています。高齢化が著しい糖尿病患者のケアにおいては、QOLのみならずQOD(quality of death)にも考えをめぐらす必要がある時代となっているのかもしれません。

*Kojima G et al. J Epidemiol 27:347, 2017

※記事内容、プロフィール等は発行当時のものです。ご留意ください。

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